日が沈み、お茶を飲み
楽しい食事の時間は、やがて終わる。
はしゃぎすぎたのか、ミントや妖精たちは早々におねむになった。ミントは庭の寝床に、妖精たちは
母さんとカレンがお茶を
「美味しいなあ。これもスイくんが?」
「いえ、カレンです。あれこれ試行錯誤して」
「そっかあ。子孫の手作りしてくれたお茶を飲むなんて、
「ん……ご先祖さまにそう言ってもらえると、私も嬉しい」
見た目は二十歳前後なアリスさんだが、二百年以上の人生でたくさんの子供を産み、孫やひ孫の顔を見て、更には見送ってもきたという。だから心境としてはやっぱり、老後な気分なのだろう。
「そういえば……
「うん、問題ない。やっぱり私の身体は、エルフよりも妖精に近いみたいだ」
今回、アリスさんは
具体的には——存在が妖精に近付く。
おそらく、
だから僕らも、
一方でアリスさんは元々の存在があちら寄りなのに加え、人であることへのこだわりもない。身体が完全に妖精となったらなったで別に構わない、くらいの気持ちだという。
「これからの私の居場所は
アリスさんの顔は、晴れやかだった。
「
「雰囲気を見るに、悪い方向には転ばないと思うよ。……私が頑張らなきゃいけないのはむしろ、彼らとの距離感かなあ。手伝えることは手伝いたいけど、私が出しゃばりすぎると国家間のパワーバランスが変わってきちゃう。始祖の存在を政治利用されても困るから、ほどほどにしないと」
それを聞き、母さんが思い出したように言う。
「ファウンティア……ソルクスの王妃からは連絡が来てたわ」
「王妃さまが? なんて? 僕らに聞かせられることかな」
「ええ。『
「うわあ……」
まだ会ったことのない人なのに、一報が飛び込んできた時の光景が目に浮かぶ。
——いや、こと魔王の件に関してはむしろ僕が首を突っ込んだ形になるから、責任は母さんじゃなくて……やばい、変な汗が出てきた。
「わふっ?」
「なんでもないよ。おいで」
「わうっ!」
僕の動揺を察したショコラが心配げに見詰めてきたので、誤魔化すように手を広げて抱きかかえる。なんかごめん。変に心配させちゃったな……。
「他にはなにも言ってきてないの?」
「ええ、それだけよ。いろいろ詳しい話を聞きたいでしょうにね……。ただ王家も、私を政治利用することは避けたいから我慢してるみたい」
「ただやっぱり、ひとこと文句は言いたかったと……」
「いいのよ、スイくんは気にしなくても。偉い人は卒倒するのが仕事なんだから」
「業務外だと思うなあさすがに!」
一応、僕もソルクス王国の国民ということになっている。それも踏まえて改めて考えてみると、ちょっとやりすぎたんじゃないかと思えてきた。特に、他国の政治家に魔術をかけて拘束しちゃったやつ。国際問題にならなきゃいいけど。
「くぅーん……?」
思わずショコラを撫でる手がぎこちなくなる。
そんな僕らを見て、アリスさんは笑んだ。
「大丈夫、きみたちに迷惑はいかないはずだよ。
聞きながら、思う。
たぶん——二千年前に生きた始祖のエルフという存在は、各国の首脳も無視できないほどに大きいカードなのだろう。伝統の面ではどこの王家よりも重要で、権威としてもなによりも大きな存在だ。学術的にも、アリスさんが語る実体験だけで、歴史学は大きな進歩を見せる。
アリスさん自身もその価値はしっかりわかっている。わかった上で、自身の影響力を濫用されないよう、禍根を残さないよう、協力できるところは協力しつつ、
それはきっと、二百年の間に培った政治技術なのだろう。異世界からやってきた中学生が、国々に騙されて利用される過程で身に付けた——生き残るための
「とはいえ始祖殿、あなたにだけ背負わせるのも申し訳ないわ。ソルクス王家には少し、口添えをしておきます。もちろん、私たち家族の面倒にならない範囲でね」
母さんがそんなアリスさんへウインクする。母さんもまた——『天鈴の魔女』として、政治闘争を力尽くで乗り越えてきた人だ。きっと上手くやってくれるだろう。
「それはありがたいな。私としては早くこういうのから解放されて、世界を見て回りたいんだよねえ。ま、あと二十年以内には目処を付けたいな」
「その時は、
「あはは、ほんとにどこでもドアだ! やるじゃん」
「スイくんからも同じ単語を聞かされたよ。ぼくはその『どこでもドア』っていうの、よく覚えていないんだ」
「記憶にはなくても絶対、無意識で再現してると思うなあ。日本人の心には染み付いてるからさ」
「そういえば、たぶんアリスさんたちが見てた頃とは声優変わってますよ。僕は前の人のこと、再放送とかでしか知らないんですけど」
「え、マジで!?」
真面目な話題でも、時々は
夜はそんなふうにして過ぎていった——
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