それから現状確認と
「かつて魔王城があった場所は現在、『
食事が終わってすぐに、アリスさんへの現状説明が始まった。
僕も含めて知識を持っている者が総出で、
「だけどアテナクの現状は、先ほどお話しした通りです」
「そっか。エン・ミ・リ国の跡地……今は『虚の森』だっけ? あそこの見張りをどうするかって話の時、
そしてアリスさんは、聞いた情報に所感を述べる。
二千年前の出来事が当人の口から直接語られるのは、やはり奇妙な気分だった。
「アリスさまにはまこと、申し開きもなく……。アテナクにすべてを押し付けてしまったのはひとえに、我らの怠慢が故です。あまりにも配慮がなさすぎました」
「ミヤコ、顔を上げて。きみを責めたくない。始祖の私も
「はい……お言葉、ありがたく」
「私としては、森を出た子供たちがせめて健やかに過ごしているといいなって思う。スイくんたちが頑張ってくれて、問題は解決してるようだし。でも、取り残されちゃった子……ドルチェには会いたいな。会って、謝りたい」
背負う義理はないという言葉とは裏腹、それでもアリスさんの声には悔恨の色がある。ドルチェさんが孤立していたのは紛れもなくアテナクの悪意によるもので、アリスさんだって子孫たちの醜い話なんて、やはり聞きたくはなかったのだろう。
だから僕は笑う。
「話が片付いたら、会ってやってください。あの子は家族がいないから、アリスさんの存在がきっと救いになります」
「そっか。……そうだといいな」
「続きです。ヘルヘイム渓谷には、
「
「わふっ?」
「こいつは赤ん坊の頃にうちの父さんが拾ったんで……日本にいた頃も、僕はただの犬だと思ってたし」
なんなら今でもそう思ってるけど……。
「わうっ! わんわん!」
「わかってるよ。お前は強くて勇敢だ」
抗議するように吠えるショコラをわしゃわしゃ撫でて
「小町はもともと、歳也の家……
「……わかります。僕もそうでした」
樋口さん、か。
ショコラの顎へ手を伸ばしながら、母さんが補足する。
「ヘルヘイム渓谷には入ったことがあるわ。二十一、二年前になるかしら? まさに、うちの夫がこの子を拾った時よ。それほど広くない場所で、変異種の数も『虚の森』ほどではない印象ね」
「わふう……くぅー……」
母さんのなでなででショコラがぐでーっとし始めたのは置いといて、
「ガドゥテェ連合の魔王城があったところね。そこまで大きな
やはりアリスさんが持つ情報は、すごく有用だ。
今まではずっと、ぼんやりした輪郭しかなかった『神威の煮凝り』の実態が、にわかに実像を結んでいく。
「まあ渓谷も森も、当面は問題ないでしょ。特に森の方は、スイくんたちの打ち上げた衛星? 使い魔? マジでなるほどって感じだし」
同時に、僕らのやり方が間違っていなかったこともわかって安心した。
当事者にお墨付きをもらうというのはやっぱり心強い。
ただ、一方で。
「キャリジア諸島の方は、今も竜が守ってくれてるんだね。
『悪性海域』の話になったところで、不意に。
アリスさんの表情に陰が落ちる。
いや、悪性海域というよりも、これは——、
「
「うん。友達がね。……友達だった、かな。今日は、そのことをみんなに話しておきたいんだ」
彼女の目が一度、静かに閉じられる。
背筋を伸ばし、居住まいをただし、深呼吸をして、最後に——心を落ち着かせるためなのか、
アリスさんは、話し始めた。
「二千年前。この世界に転移してきた私たちは、魔王との戦いの中で
懐かしそうに、それでいて悲しそうに。
輝かしい思い出のはずなのに、つらそうに。
「
「え……」
思わず声が出る。
いま彼女は、ファーヴニルって言ったのか?
それは、その氏族名は。
聞き間違いじゃなければ、僕らの——、
「十年くらいは見守ってたかな? ……やがてその子は
アリスさんは言う。
拳を握り締めて、血を吐くように、言った。
「ファーヴニル氏族の、ジ・ディア。私の友達が産んだ
僕はその名前を聞き、直感的に思った。思ってしまった。
きっと『彼』は——
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