街並みと、そして
牛、羊、山羊、猪豚などのこの世界でオーソドックスな家畜を飼育している他、
「ヒポグリフは
……と、カレンいわく。信じて待っていよう。
ともあれ僕らは第四区を後にし、第三区へと戻ってきた。
ただし宿のある北側ではなく、ぐるりと半周して南側である。
街並みは北とさほど変わらない。
「この辺りは、エジェティアとシルキアの影響力が強い」
道すがらにしてくれるカレンの解説がありがたい。
「リックさんとノエミさんのホームタウンってことか」
「ん。あの双子はたぶんここでは人気者。久しぶりに
「それを言うならカレンもじゃない?」
「私が認定されたのは王国で。だからこっちの国民にはあまり実感がないと思う」
——ちなみに実は全然そんなことはなくて、『
「じゃあやっぱり、始祖六氏族の存在って
「んん……どうかな……」
ふと気になったので
するとカレンはなんだかちょっと難しい顔をした。
「名前と存在は、大陸の国家間でも有名なのよね」
背後を歩いていた母さんが補足してくれる。
ちなみにショコラのリードはいま母さんが預かっていて、僕が握っている時よりもおとなしい。我が家で一番格上なのが誰か理解しているのだ。
……あれ、じゃあ僕はショコラにとってどのくらいの位置付けなんだ?
「わふっ?」
「聞かぬが花な気がする……」
僕のジト目に首を傾げるショコラを眺め、微笑みながら、母さんは続けた。
「始祖六氏族はね、大陸でも最古の血族って言われてるわ。それこそ各国の王家よりも歴史があるの。半分くらいは説話みたいに思われてるけど、妖精たちの記憶にある二千年前のお話と繋げると、事実だったことがわかって興味深いわねえ」
「王族とかよりも貴重なのか。血統主義の人たちが拘るのも理解できなくはないな……」
「ファッティマだけまだ名前を聞かないね」
「ん、ファッティマは五百年くらい前に、国を出て地上に降りた。今は共和国にエルフ自治領を得てそこに暮らしてるらしい」
「そうなんだ。交流はあるの?」
「共和国と
『
それにしても——。
「アテナクとファッティマは地上に降りて、エジェティアとシルキアとアクアノは国内で貴族になってる、か」
「でもって、クィーオーユは私の他にはもういない」
「カレンの実のご両親は、貴族だったの?」
「貴族といえば貴族ね。そもそも、始祖六氏族は国際法上、貴族として扱われてはいるのよ。でも
「この国に馴染めなくて、地上で冒険者として暮らしてたんだっけ?」
僕の問いに、母さんは少し表情を曇らせた。
すっとこちらへ身を寄せ、声を潜めて教えてくれる。
「元々、クィーオーユは廃れかけていたのよ。それが、『大発生』の三年前くらいに
「うん」
以前、母さんが自分の過去を話してくれた時、昔の冒険
「その内乱で、ルイス以外の血族を亡くしてしまったのよ。お父さんとお母さんがルイスとエクセアに出会ったのもこの頃。冒険者として地上で暮らしてたふたりとお父さんが仲良くなって、その直後に内乱が起きた形ね」
じゃあ父さんと母さんは、内乱をどうにかしようと空へ戻ったルイスさんたちに付き合う形で、首をつっこんだってことか。
カレンは詳しい話をもう聞いているようで、どこか冷めた顔で言う。
「結局、クィーオーユの血が絶えたのはほとんどこの国のせい。そのくせ、血統主義の連中は私のことを子孫を殖やす道具くらいにしか見ていなくて、あんなふざけたことも言う。……たぶん長老会には、内乱の時にクィーオーユを謀殺した奴もいる」
「嫌な話だね」
「ん。幸い、いまの私には力があるし、スイやヴィオレさまもいる。なにを言ってきても関係ないし、負けない」
「わうっ! わん!」
「そうだね、ショコラもいるね。頼もしい。……よしよし」
「くぅーん」
愛おしげにショコラをわしゃわしゃするカレンと、目を細めて尻尾を振るショコラ。
そんなふたりの様子を微笑ましく見ていた母さんが、道の前方を指差した。
「見えてきたわ。この大通りの先」
「そういえば、南の第三区に来た目的をまだ聞いてなかった。僕ら、どこへ向かって……壁?」
そして道の行き止まりには大きな
「カレンもまだでしょう? スイくんも一緒に、ね」
「ん。それがいい」
「あ……南、壁の向こうってことは」
「ええ」
母さんは頷いて、僕らを促す。
「カレンの実の両親。ルイスとエクセアのお墓が、近くにあるのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます