勢揃い、雪

「ようミント、遊びに来たぞ!」

「こ、こんにちは、お邪魔します……」

「ふおおおおお! いらさい、よくきたね!」


 ジ・リズは、子ドラゴンたちを連れてきていた。


 牧場に降り立ったその背にふたりの小さな身体を発見したミントは、顔を輝かせて走り寄る。ミネ・オルクちゃんもジ・ネスくんも、そんなミントの周りをぐるぐる飛びながら喜びをあらわにした。


「みねおるく、じねす、あれやって、あれ!」

「よしきたっ」

「いいよ!」


 ミントが両腕をがばっとY字に広げる。それぞれの手をミネ・オルクちゃんとジ・ネスくんが掴む。子竜たちが翼を羽ばたかせ、時計回りの螺旋を描きながらミントをぐるぐると、竹とんぼみたいに宙に浮かせた。


「あははははっ! おもしろい!!」


 一メートルくらい浮いたまま、きゃっきゃと回転するミント。スカートが傘のように広がりなかなかにシュールな絵だ。


「なにあれ……いつの間にあんな技を編み出したの」

「スイくんたちがシデラで依頼を受けてる間、竜の里にご厄介になってたでしょう? その時、よくああやって遊んでたわ」

「いや、いいんだけど、目が回らないのかな……」


「ひゃあっ! おもしろかった、ふわふわする!」


 子竜たちから手を離し地面に着地したミントは雪の上に座り込んで足を伸ばす。

 あ、やっぱ目は回るんだ。


「ふいー、疲れた……」

「でも、この前より少し高くまでいった、かも……!」

 

 そしてふたりもやっぱ消耗するんだ……。


 その様子を微笑ましそうに見ていたジ・リズが、僕へ鼻先を向ける。


「雪が深かったのでな、様子を見に来たのだ。まあ、楽しくやってるようでなによりだ」

「わざわざありがとう。これだけの積雪って珍しいの?」

「いや、深奥部は年に一、二回はこうなる」


「あ、そうなんだ……ジ・リズたちのところは大丈夫だった?」

「うちは海沿いだからなあ。山のてっぺん辺りはともかく、里はいつもと変わらんよ」

「なるほど。……いや、もっとちゃんと話を聞いとけばよかったな。さすがにびっくりしたよ」


 この辺って雪とかはどうなの? と、秋に一度、ジ・リズには尋ねてはいたのだ。

 だけどその時の返答は「たいして積もらんぞ」だったので、けっこう呑気に構えていた。

 

「そいつはすまんかった。実はな、うちの雛どもが森の雪景色を見て、ぬしらのことを心配し始めたのだ。……それでようやく、竜と人との図体の違いに気付いたというわけよ。まったく間抜けというほかない」


 確かにジ・リズの大きさを基準にすれば、一メートルくらいの積雪ってそこまで気にするほどじゃないんだよね。彼の感覚で「たいして積もらん」でも、人にしてみればえらいこと——というオチなのだった。


「それでもこうして様子を見に来てくれたんだから、嬉しいよ」

「む……面映いことを言いおる。まあ、健勝であるならわざわざ角にひっかけることもなかろう」


 まあ結果オーライってことで、お互い笑い合う。……『角にひっかける』の意味がよくわからないけども。『気にする』みたいなやつかな?


「わうっ! わんわんわん!」


 ——と。


 そのタイミングで、ショコラが不意に鳴き声をあげた。

 ジ・リズが来て以降、大喜びで彼の尾と戯れていた——ジ・リズがゆらゆら動かす尾を追いかけたり飛び乗ったりする遊びがふたりの間で恒例になっている——のだが、それを不意に切り上げて、庭の方を向いたのだ。


 ショコラは走っていく。彼らの元へと。


「わうっ!」

「まあ、元気いっぱいね!」

「やあスイくん。それに、竜殿も」


四季シキさん、シキさん」


 妖精の一家。ふたりだけではなく五人の子供たちも一緒に、こちらへと歩んでくる。

 純白の雪を踏みしめながら、どこか楽しげに——。


 四季シキさんは一同の先頭に立ち、悪戯っぽく笑って僕へ言った。


「明けましておめでとうございます。……記憶が?」

「うん、新年の挨拶だろう? まあ、断片的ではあるけど」


「これは妖精王に妖精女王。息災なようでなにより」

「いや竜殿こそ。先だってはうちの子たちが厄介になって、ありがとう」

「うむ、気にすることはない。いつでも遊びに来るといい」


 昨年末の騒動に際して、竜の一家には四季シキさんたちの姿を認識できるようにしてあった。なのでみんなはこれが初対面ではない。


 ただ——こんな大勢が一同に会したのは、さすがに初めてだ。


 うちの家族を含めたみんなが口々に挨拶を交わし合う。


「カレン、遊びに来たよっ」

「ん、いらっしゃい孔雀クジャク


零下れいか殿、シデラの街以外で会うのは珍しいな。ここの居心地はどうだ?」

「これはジ・リズさま。私の魔導では辺りを散歩できそうにないのが残念といえば残念ですが……そんなことは気にならないくらい、よくしてもらっていますよ」


「ご機嫌麗しく、ヴィオレさん。家族水いらずのところに遊びに来てしまって、ご迷惑だったかな?」

「とんでもない。そろそろこっちから挨拶に行こうと思っていたところよ。雪はどう? シキさん。久しぶりに見るんじゃない?」

「ええ、あまりに久しぶりで、この冷たさを忘れてしまっていたわ。……でも、とても綺麗」


「はないかだ、かささぎ、こんにちは!」

「こんにちはミント。小さな竜さんたちも、こんにちは!」

「おう、また競争しようぜ! 今度は負けねえぞ」

「わ、わたしは雪で遊ぶ方がいいな……」

「同感だね。せっかく降ったんだから、今日しかできない遊びがしたい」


「ポチ、あんた寒くないの? ……大丈夫そうね」

「きゅるるるっ!」

「うわあ、ショコラ、雪まみれだ! もふもふがつべたい……」

「わふう。……わうっ!」


 もはや収拾がつかないほどに騒がしい。

 だけどその騒がしさが、すごく心地いい。



「みて、ゆきのおうちつくった! かまくらっていうんだよ」

「あ、私、気になってた。……中、入ってもいい?」

「わあ、ぼくらには広々としててよさそうだ」


 子ドラゴンと妖精たちをかまくらの中に案内するミントを見て、僕は家へと足を向ける。

 せっかくだし、お菓子と飲み物を準備してあげようかな。

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