なので荷物持ちをします!
明けて、次の日。
かくしてエルフ集落の調査隊——臨時パーティーは結成され、シデラ前線街の
ちなみに、ポチとともに
でも、
母さんと僕の懐から冒険者さんたちへの補填は出しているし、むしろ「休みなのに金がもらえる」と喜ばれているようではあるんだけど。この前のように、禁を破って森に入ろうとする人が出ないか心配でもある。
「絶対とは言えんが、大丈夫だろう」
とは、ベルデさんいわく。
「前例が前例だからな。変異種に殺されかけたって事実は、冒険者ならそりゃあ震えあがる。それに、あの時に莫迦をやった奴らが、率先して
かつて騒動を引き起こしたパーティーのうち、今も冒険者を続けているふたり——身寄りのない
なお、残りのふたりのうちひとりは
あのパーティーに対して、僕はなにも言う立場にない。悔いるのも償うのも、
「まあ、大丈夫だろう。俺もそれとなく見てるし、お前もいるしな」
「え、なんで僕?」
「ザウの妹……最年少の奴な。いま、コンソメの生産工場で働いてんだよ。お前はあの子の命を助けただけじゃなく、引退後の働き口まで世話した形になる」
「そうなんだ」
「他の奴らも当たり前だが、お前に感謝してる。お前のおかげであいつらは踏ん張って、罪を償うことと、償った先のことを考えられてんだよ」
さすがにそれは言い過ぎでは。なんだか
むしろ全員の動向をちゃんと把握して経緯を見守ってるベルデさんが偉いと思うな! 面倒見がよすぎでは?
「大将、スイ。ちょっとお喋りをやめてくれ。ここいらは少しきなくせえ。獣がいるかもしれん」
——と。
森を歩きながらの会話は、シュナイさんの警告によって
「むう……私にはわからない。ショコラは?」
「くぅーん?」
シュナイさんの
「まあ、俺も確証があるわけじゃない。足跡とか
先頭を歩くシュナイさんが立ち止まったことで、一同の行軍も停止する。
シュナイさんは指を咥えて唾を塗ってからかざし、風を見る。それから目を閉じて周囲を探り——やがてこっちを振り返ることなく言った。
「前言撤回だ。逆に少し騒がしく、俺たちの気配を散らしながら行こう。適当にくっちゃべっててくれ」
なるほど。
そうやって獣を牽制するやり方もあるのか。
「師匠、それだと刺激された獣が襲ってきたりはしないんですか?」
「ああ、するかもしれん」
疑問を投げかけるノエミさんに、シュナイさんが笑う。
「だが、そういう奴はつまり気が立ってるってことだ。気配がまるわかりで、来る瞬間が読みやすい」
「じゃあ……」
「おう、油断はするなってことだ。警戒を怠るなよ」
「はいっ」
元気よく返事をするノエミさん。
カレンが呆れ顔でつぶやいた。
「……ノエミ、犬みたい。ぶんぶん振ってる尻尾が見える」
「わふっ?」
「よしよし。ショコラはかしこいからちゃんと警戒できるもんね」
「わうっ」
そんなカレンを、パルケルさんがジト目で睨む。
「ねえカレン、なんでこっちを見ながらそれ言ったの? あたしは尻尾を我慢できないほど子供じゃないんだけど」
「ん。たまにノアップと話してる時、振ってるので」
「うそだ!」
顔を真っ赤にして自分のお尻に手を遣る。
獣人も感情に応じて尻尾が動いてしまうそうだ。ただ、そこを理性で抑えるのが大人としてのマナーであるらしい。
「ははは、まあいいじゃないかパルケル。それだけ俺のことを……」
「あんたは黙ってなさいっ」
真っ赤な顔でばちんとノアの頭をはたくパルケルさんと、はたかれてにこにこしているノア。僕とカレンじゃ絶対にしないコミュニケーションだなと思いつつ、その仲の良さは微笑ましくもある。
彼らの会話を眺めながら歩みを再開すると、リックさんがふと問うてきた。
「……ところでスイさん、それ本当に、重くはないのか?」
「ん? ああ、ぜんぜん大丈夫です」
彼が見ているのは僕の背にあるリュックだ。
確かに心配してくれるのも無理はないかもしれない。
なにせ、でかい。
非常食や調理器具、薬品類など、森での生活に必要な物質、八人プラス一匹分。
すべてが詰まったぱんぱんの
「平気ならいいんだけど……この中で一番強いあなたが、ってのも釈然としなくて」
「いや、けっこう楽しいですよ?」
そう。
今回のパーティーにおける僕の役割はこれ——
ベルデさんに任命された時、僕は内心で小躍りした。だって荷物持ちだよ? 向こうで読んでた娯楽だとお決まりの、追放されるやつだよ? 主人公の仕事だよ? 異世界で荷物持ちをやれるとかテンション上がるに決まってる。追放されると困るけど。
……まあ、説明できないんで他には言えないやつでした。
「それに、適材適所です。ベルデさんはさすが、よくわかってる」
「そう……なのか」
「ええ、だって
通常、物資の運搬役というのは戦闘能力の低い者にやらせるのが一般的らしい。だが一方で、森の中でのサバイバルにおいて、これらの荷物は生き死にを分ける大切なものだ。だから荷物持ちには必ず、戦闘能力の高い者が護衛に付く。
では
僕はこの大荷物を背負っても平気な程度に身体強化を使い続けられる。
更には剣を振り回して俊敏に動き回るような戦闘スタイルじゃないので、仮に敵が襲ってきても重いリュックが邪魔にならない。
更には護衛も必要なく、他のみんなが物資の心配をしなくて済む。
以上の理由により、荷運びに最も適任なのが僕なのだ。
「みんなの生命を背負ってるって思えば気合いも入ります」
「なるほどなあ。さすがベルデさんだ。そうそう思いつく采配じゃない」
「まあ、疲れたら変わってもらうことにはなってますけど、この感じだと大丈夫です。安心して任せてください」
なにより——僕をお客さん扱いしていないのが、嬉しかった。
僕の能力を知っていてもそれ頼りにはせず、指揮下の人員として遠慮なく「お前は俺たちの荷物を持ってくれ」と言ってくれた。なあなあにせず、ひとりの冒険者として扱ってくれた。
あいつがチート持ってるからそれを使ってもらえばいいや、なんてこと、ベルデさんたちは決して考えないんだ。
「わうっ!」
「そうだな。お前のドッグフードも入ってるもんな」
いつの間にか僕の横に来ていた鼻先に、手をひらひらさせる。追いかけてぴょんぴょんするショコラと戯れながら、僕の足取りは軽い。
「……もういいぞ、たぶん逃げてった。おそらく、
シュナイさんが一同に告げると、小さな安堵の空気が広がった。
「おい、気は抜くな。そろそろ、ふだん俺たちが行かねえ
※※※
——正直なところ。
深奥部で暮らしている僕らだけの時は、表層部のこの辺りなんてまるで警戒に値しない。鼻歌混じりでポチの背中に寝転がり、ミントを抱っこして空を眺めているだろう場所だ。……いや深奥部でもやってるか。
でも今回は違う。
結界ですべてを守り、なにが襲ってきても大丈夫だよと進む、そんな旅じゃない。ベルデさんもシュナイさんも、ノアもパルケルさんも、リックさんもノエミさんも——そんな
僕の結界は、僕が『家族』と思っている人に対しては無意識の全自動で稼動する。けれどそれ以外の人たちには、意識しておかなければ効果を発揮しない。緊急時はともかく、二十四時間ずっとその状態を維持することは不可能だ。
そして彼らもまた僕に『お前の結界で楽がしたい』なんて言わなかったんだ。
だったらその気持ちに応えて、冒険者として頑張らなきゃね。
荷物は軽い。けれど、責任は重い。
僕はしっかりと気合を入れ直し、でかいリュックの肩帯を握った。
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スイの結界について。
・庭や牧場を含む家、家族だと思っている相手
→完全な全自動。
スイがいない場所や無意識であっても稼働する。
・その他
→任意の半自動。
「この人たち守ろう」と意識し、かつスイが同じ場所にいれば自動で発動する。
眠っている場合などはちょっと難しい(やれないこともないが48時間くらいが限界)
なお、どちらも任意で切ったり稼働閾値を調整することができます。
今回の調査では「誰も予測できず対応もできない不意の急襲」には稼働するけどそれ以外は切ってる、みたいな感じです。
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