そしてみんなで焼き芋を食べよう

 やがて落ち葉も枯れ枝もすっかり燃え尽きて、あとに残るのは炭の山となった。

 しかしその中に、黄金の宝が埋まっている。


「熱いからミントは触っちゃダメだよ」

「うー……おいも、だいじょうぶ? もうもえちゃってない……?」


 不安げにこっちを見ているのはミントだけではない。妖精たちも同様に、そわそわしながら僕の動向をうかがっていて、微笑ましい。


 ショベルを使って炭をざくざくとかき分ける。この炭はあとでボイラーの燃焼室に処分する予定。


 で、かき分けた先にこんもりとした土の山があって、浅く取っ払うと、


「よかった……まだあった!」

「うん、ミントが見守ってくれてたおかげだね」


 土とすすで汚れた新聞紙に包まれた、さつまいもが姿を現す。


「っと、あとは上手く焼けてればいいんだけど」


 軍手をつけて拾いあげ、中を確認する。アルミホイルがあればちょくで放り込んだところだけど残念ながらないから、工夫する必要があった。それが、薄く土をかぶせての蒸し焼きだ。


 いちばん下、さつまいもに直に触れる部分の新聞紙はしっかり濡らしていて、その上から何重にも包んで水分を逃さないようにしている。その上で直火を避け、低温でじっくりと焼きあげた。だから——。


「わあ……こげてない! おいも、きれい。いいにおいする!」


 中央からぱかりと割ると、アミラーゼさんがしっかり仕事をこなした、ねっとりで蜜たっぷりの黄金色が姿を現した。


「ミント、味見してくれる?」

「ふおおおお! する! する!」

「熱いから気を付けるんだよ」


 カレンがキッチンからスプーンを持ってきてくれていた。

 だからそれで少しすくって、ふーふーして冷まし、ミントに差し出す。


 匙をぱくっと口に運んだミントは、はふはふとしながら満面の笑みを浮かべた。

 手をじたばたさせながら、身をよじらせ、叫ぶ。


おいしーほひひー! あまいははい! ……んぐ……。すごい! おいも、すごいっ!」


「わ、わたしもたべてみたいっ!」「ぼくも……!」「興味があるね、ぼくも是非とも」「わたしもたべる、わたしも!」「次はわたしたちの番よ、にんげん!」


 妖精たちが目を輝かせて殺到した。


「待って、めちゃくちゃ熱いからね! 気を付けて食べないと火傷するからね!」


「あつい! わたしまだこれ食べられない……」「うわあ、甘いなあ!」「あの固いお芋がこんなに柔らかく……」「はふっ、ん〜〜〜〜!」「おいし……なにこれ……」


「スイ、私たちにもちょうだい?」

「うん、カレンと母さんはこっち。四季シキさんたちにはこっちを」


 焼き芋を取り出し、包みを開いて割りながらみんなに配っていく。そして僕も自分の分を確保し食べようとして——途中で大切なことを思い出し、家へ駆け込んだ。


 冷蔵庫を開け、の詰まった容器と小匙を持って、再び庭へ。


「スイくん、どうしたの? そんなに急いで……」

「そのままのを味わったあとはこれも付けて食べてみて」

「なに?」

「バターだよ」


「バター!? これに!!」


 全員が血相を変えた。

 わかってしまったのだ——直感で。


 この焼き芋とバターの相性が、マリアージュなことを。


「ああ、これすごいわ。罪の味がする」

「ん、……美味しい。けど絶対に太る。でも美味しい……どうしよう……」

「ああ、いいなあこれ。どこか懐かしい感じもする」

「そうね、もしかしたらうんとむかし、食べたことあるのかもしれない」


 大人組がカロリーを気にしながらも完全に堕ちている。くくく……抗えまい……!


 ただ本当は僕、バターよりもマーガリンを塗る方が好きなんだよね。あの、バターより薄めの味わいが焼き芋の風味を際立たせてくれるというか。……まあ、さすがにこの世界でマーガリンを作れる気はしないし、ないものねだりだ。


 それにバターはバターでまた別種の美味しさがあるし、不満があろうはずもない。


「ショコラ、お前とポチの分もちゃんとあるからな。充分に冷まさないといけないからもうちょっと待ってろよ」

「きゃうん! わうわうっ」

「待ちきれないのか……そうだよな、みんなが食べてるもんな」

「わふっ、ふぅー……」


 僕の周りをぴょこぴょこ跳ねながら、手元の焼き芋に鼻先を近付けようとするショコラ。


「よし、母さんに頼むか」

「あおん!」


「それにしても本当に甘いわねえ」

「ん。原種と比べてもかなり改良されてるはず。スイのいた国の技術はすごい」

「こんなに美味しいとあっという間になくなっちゃいそう」


「母さん、これショコラとポチのために冷やしてもらえる? 大丈夫だよ、まだたくさんあるし、今日で全部収穫しちゃった訳でもないし」

「お芋だし、日持ちするんでしょう? ……ショコラの分ね、いいわよ」


 魔術で焼き芋の熱を吸い取ってくれる母さん。火属性の応用だ。


「土がついたまま新聞紙で包めばかなりいけるはずだよ。……『食糧庫ストック』使うなら、何年でも大丈夫な気もするけど」

「スイくんに任せるわ。冬の間も食べられるといいわね。……はい、できました」


「ありがとう」

「わうっ!」


 常温となった焼き芋を受け取ると、ショコラはもう限界とばかりに僕の身体に前脚で飛びついてきた。


「こらショコラ、だよ。……ミント! こっちきて、ショコラと一緒に食べようか。ポチも呼んできてくれる?」

「うー、わかったー! いこ、きりさめ!」

「仕方ないわねえ、付き合ったげるわ」


 焼き芋の欠片を両手に抱えたまま、ふわふわとミントへついていく霧雨キリサメ。それを見送りながら、僕はつぶやく。


「冬の寒い日にも、もう一回やりたいな」


「野営で火を焚くのとはまた違った良さがあるわねえ」

「ん。楽しいし美味しい。……でも、お腹いっぱいになった。晩ご飯が入るか心配」

「あら、大丈夫? お芋を使ったデザートを作るって、さっきスイくんが言ってたわよ?」

「……っ、だいじょぶ。夜までにショコラとかけっこをがんばる」


 母さんとカレンがくすくすと笑い合う。




 彼女たちの食い気を心地よく感じながら、僕は秋風に背伸びした。

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