やがてやがて、あるべきところに
母さんに術式の
カレンが細部を整えてくれた。
そして稼働の際は、母さんやカレンはもちろん、ミント、ショコラ、ポチ——家族みんなに魔力を分けてもらうことになっている。
こちらとしては万全を期したつもりだ。
だけどやっぱり万が一ということはあり得て、だから事前にそれをしっかりと伝える。
もし失敗したら——『
つまり最悪の場合、錨たる
彼らの不死性や『意思あるものには観測できない』という特性まで消えることはないだろうが、だからといって家がなくなっていいはずがない。あれはヒトであった頃のふたりが、生まれ故郷である日本での思い出を残すべく想像した場所なんだから。
けれど
「構わないよ。やってくれるかい?」
「……いいんですか?」
あまりの迷いのなさに思わず問い返すが、
「いいのよ。このお城も、お花たちも、確かに大切なものだわ。あなたが思い出させてくれた、わたしたちの『未練』が込められているのだから、今はなおさら」
「でもね。ぼくらのいちばん大切なものは、場所じゃない。家族なんだ」
「わたしたち夫婦と、五つの子供たち。
その思いは、やっぱり僕らと——ハタノ家のみんなと、同じもので。
だからもう、止めたりはしない。
あとは僕らが全力で、全身全霊を尽くすだけだ。
※※※
彼女には並木道の終わり、
穴を開けてもらっているのは、我が家の庭と牧場の境目あたり。
かつてこの建物が転移してきた時にはまだ『
術式を行使するのに——座標を固定するのに、これ以上の場所はない。
何故ならそこは、花壇——父さんの
「では、始めます」
僕の背後に立つのはうちの家族たち。
母さん、カレン、ショコラ、ミント、ポチ。
『穴』を挟んだ場所で見守るのは妖精の家族たち。
「大丈夫よ。……うちの息子を、どうか信じて」
母さんが妖精たちへ優しく語りかける。
「スイならできる。私たちが見てる」
カレンは僕の背に手を添え、落ち着かせてくれる。
「みんとも、がんばるよ!」
ミントがふんすと鼻息荒く、自分の両拳をぎゅっと握った。
「きゅるるるっ」
ポチはぶるりと身を震わせ、静かにその場へしゃがみ込む。
「くぅーん」
そして——ショコラは。
すてすて歩いてきて、ぺろぺろと。
知らず強張っていた僕の指を、舐めた。
「ありがとう、みんな」
いつの間にか緊張していたみたいだ。
だけど、もう大丈夫。
僕は頷き——そうして、始めた。
「……
これから行う術式は、大きく分けてふたつの効果を併せ持つ。
ひとつは、因果の偽造。
「……
要は、世界を誤魔化すのだ。
『
そしてもうひとつは、
「……菫は土を撫でる。春凪は光へ向かう。星雨は闇に寄り添う。石英は風と
因果の創造だ。
背後で、家族たちが魔力を立ち上らせる。
それを母さんがひとつに集積する。
そしてカレンが
「——そして
だからこそ『
「夜、星、花。
ならば
「……鮮やかならずとも、
それが、僕らの住むこの地。
スイ、ヴィオレ、カレン、ミント、ショコラ、ポチ、カズテル——それらの魔力が宿り、土地に根差して強固に存在している、
「巡って七度。揺らめいて七度。色めいて七度。そよいで七度。繋げ満ちて、帰り来たれ。七度曲がれば、
——この家そのものを、
同時にこの家の一画と『
そしてこのふたつを束ね、
世界の狭間に撃ち込み、恒久と為す。
彼らと僕らの間に、繋がりを作るんだ——。
「……『永劫は、
詠唱を終えた瞬間。
光が
※※※
「ああ……懐かしいわ。ずっと忘れていた」
彼女は、一歩を踏み出した。
「外の世界は、こんなにも色に満ちていたのね」
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