ようせいのおはなし(Fairy tail has lost)
むかしむかし、あるところに
かくして
「あの、これも食べてみてください」
「ん、美味しい。でもちょっと待って……種類が多い、口が追いつかない」
「うん、ぼくらは土属性の魔術に長けているから、
「なるほどねえ。新しいワインなのに、香りがいいわ」
「果物はね、栄養いっぱいなんだよ! ほら、クー・シーが食べられるものを取ってきた」
「わふっ。はぐっ」
「いい食べっぷりねえあんた。花輪ひとつ追加しちゃう」
「きゅるるっ!」
「こっちはどう? 少し酸っぱいけど、元気が出るよ」
「うー、おいし! はなかだ……はないかだ、も、いっしょにのむ!」
妖精たちはよほど嬉しいのか、みんなにつきっきりだった。
カレンに懐いているのは、
母さんと話し込んでいるのは
ポチに花輪をあげている
そしてミントに甲斐甲斐しく世話を焼く
——あれ、よく考えたら僕、あぶれてない?
いやほんとここのフルーツ美味しいな。
まるで——。
※※※
やがてみんながお腹いっぱいになり、賑やかさも落ち着いてきた。
ポチなどは広間の隅で休んでおり、ミントもそんなポチのお腹に寄りかかってうとうとしている。
一方で退屈したのか、僕の膝に前脚を乗せてじゃれつき始めるショコラ。
「ほんと元気だなお前」
「わうっ! わうわう」
わしゃわしゃと全身をいじり倒しながら、僕はお皿に残ったナッツを軽く
——と。
母さんがワインの入った杯を置き、改まって上座のふたりへ視線をやった。
「
妖精王——
「うん、疑問もごもっともだよ、ヴィオレ殿。というより、カレン殿、スイ殿、きみたちをこの城に呼んだのは、そういう目的もあるんだ。つまり……きみたちに、ぼくらのことを知ってもらいたい、というね」
次いで妖精女王——
「あなたたちは、わたしたちが発生して以来、ほとんど初めてここへ来た人間よ。世界の制約をすり抜けた存在、ううん。世界の制約をすり抜ける方法があると示した存在なの」
母さんは目を細めた。
「それよ。『制約』……あなた、ここへ来る穴を作った時も、その単語を口にしたわよね?」
「ヴィオレ殿は高名な魔導士であったんだっけ。気付くとは
続いて、カレンが問う。
「私も
その顔は少し不安げだ。道理だろう。
自分のルーツがどこにあるのかって話なんだから。
僕は——僕にも、疑問はある。
それを口にすべきか迷っていると、
「……まずは、ぼくらがどうやって発生したのか、その話をしよう」
どこか厳粛なその声音。
そこで気付く。いつの間にか、妖精たち——あの可愛らしい五体の子らが、この部屋から姿を消していることに。
ミントとポチはすやすやと眠っている。ショコラもいつの間にか大人しくなり、床にお座りしている。
妖精王たちがそう仕組んだのかどうか。
ここは既に、真面目な話をする場になっていた。
そして、彼は告白する。
「ぼくらは、遥か昔に発生した。およそ二千年ほど前になるかな? 正確な月日はもうよくわからない」
自分たちが、途方もない時を生きてきた存在であると——。
「二千年……先史が終わり、有史が始まる頃ね」
その長さをいまいち実感できずにいた僕だが、母さんが補足をくれた。
歴史を記した文献がかろうじて残っているのが、だいたいそのくらいであるらしい。
もちろんそれ以前のことも伝わってはいる——たとえば
「あなた方はそんな昔から、ずっと生きてきたんですか?」
「正確には、ぼくと
「な、っ……」
追加された情報は、更に驚くべきことで。
僕の全身に寒いものが伝う。
それはまるで、ロボットみたいな——。
「怖がらせてしまったのならすまない。でも、仕方ないんだ。あれらがそうなのは、そうせざるを得なかったからさ。あの子たちの心は、二千年の永遠に耐えられない。かの偉大な
「……、確かに、そうかもしれません。僕だってそんなに長く生きていたら、きっとどこかで記憶をリセットしたくなる」
心は追いつかなくても、頭では納得できる。
ただ——釈然としない僕の気持ちに、
続いた言葉は、僕にとって、母さんやカレンにとって、あまりにも衝撃で。
ロボットみたいだ、なんて思ってしまった自分に対し怒りを覚えるほどのものだった。
「ぼくらはね、元々は人間だったんだ。ただのありふれた、人間の夫婦さ。そしてあの子たちは……ぼくらの子供だったもの。ぼくと
「わたしたちは、世界と契約したの。死にゆくさだめだった子供たちを生かすため」
「神の寵愛を受けたあの子たちを、死なせないためにね」
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