インタールード - 北東グレゴルム地方:『虚の森』中層部
王立魔導院、
局長であるヴィオレから
カレンにとって幸運と不運がある。
幸運は、自身が発生地点の近くにいたこと。地質調査は退屈な上に気乗りしない仕事だったが、受けてよかったと心から思う。少なくとも王都からよりは遥かに早く辿り着けるからだ。
だが一方で不運とは、現象の発生地点がここ——『虚の森』、よりによって深奥部だったことである。
王国の抱える未活用資源にして前人未到の魔境たる『虚の森』。中でも深奥部は変異種の
『魔女』の称号を持つ者ですら、生きて踏み込めるのは数名だろう。自分とヴィオレを除けば、名を思い付けるのはほんのわずか。いずれも歴史に名を残せるほどの高名な
探索を困難にしているのは、
地脈と地形、気候や気温などの諸条件がある特定の
その魔力坩堝に影響された魔物が、特異な形質と力を持つ超常個体と進化するのだ。
『虚の森』深奥部は、この魔力坩堝が極端に発生しやすく、かつ消えにくい場所だった。
人呼んで『
カレンの心臓が
融蝕現象が十三年前と同じであるなら、適切な行動さえ取れれば幾日かは持ち堪えられはしよう。だが一歩
このまま全速力で走ったとして深奥部——計器の示したという座標まで辿り着くには、
幸いにして、
「……おじさまのもたらした技術が、彼らを救いますよう」
祈るようにつぶやく。
もちろん
汗ばむ額を拭うように、かぶっていた
——カレンのかみ、きらきらしてるね。
幼い頃の五年間、いつも共にいた男の子の声を記憶の中で再生する。
——ぼくのはまっくろだから、うらやましいな。
黒。
あちらではありふれた色。
対してこちらでは、最も尊ばれる色。
夜と
魔導士の頂点たる魔女が、その証として羽織ることを許される
あの子は髪だけではなく、瞳も漆黒だった。
父親の眼は茶色がかった黒であったのに、それよりも遥かに濃い——母の
それがこちらにおいて持つ意味は大きい。
故にこそ十三年前、自分たちと彼らは分かたれた。あの子の力はあまりに深くあまりに強く、それを満たすに彼の器はあまりに
だが十三年を経て再び道が交わった以上、彼もまた成長しているだろう。魔力器官は
蜘蛛の脚、牛の顔、虎の身体を持つそいつら——
「邪魔」
上空と左右から襲いかかってくるそいつらを前にして、カレンは逆に加速した。彼女の双眸——
「……
圧縮言語により刹那で詠唱を終えた魔術は、霧の
魔物たちがくずおれた時にはもう、カレンの姿は後ろ髪すらも見当たらない。
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