第14話 みたび女神の間

「よー戻ったの~」


 気がついたときには、すでに女神の御前おんまえに居た。

 俺とミヤはうやうやしくこうべを垂れた。


「なんじゃ、急におとなしくなりおって」


「いろいろと思い出して、感傷に浸っておりました」


「そうか。いいゲームじゃったろ?」


「ええ、そうですね」


「まあ、わらわは発売三日目にはクリアして、一週間後にはコンプしたがのう」


「遊びすぎです。神さまのお役目はどうなっているんですか」


「お主らとは生きている時間軸が違うのじゃよ。最近はちゃんとやっとるわい」


 どうやらサボっていた時期があるようだ。

 俺の痛いところを口うるさくつついてこないあたり、なにか思うところがあるのかもしれない。

 この女神はいったい何者だろう。

 西洋かぶれなせいで、和の物語には疎いのだが……。


「それで、お次はどうするのじゃ?」


「そろそろ勇者さまの酔いも醒めた頃合いではないでしょうか」


「たしかに。いちど戻ってみようか。ということで、女神さまお願いします」


「よかろう。と言いたいところじゃが、その前に──」


「なんでしょう?」


「お主、オンラインゲームはやらんのか?」


「オンゲは時間食い虫なので、創作のためには振り切らないとと思って……」


 筒抜けかもしれないが、ネトゲ廃人だったことは隠そうとする。


「でも、結局オフゲーやってたじゃろ?」


「うっ……そのとおりにございます」


「べつに責めておるわけではない。ちょっとしたお誘いじゃ」


「お誘い?」


「わらわはおぬしらのことが気に入ってしまったのじゃ。だから、ここでずっと一緒に遊ばないか、という相談じゃ」


『ええ!?』


 俺たちは飛び上がらんばかりに驚いた。


「人は、その者に合ったものをやるのが良いと思うのじゃ。好きなものだったら時間を忘れ没頭してしまうじゃろ? そなたはゲームに生きるべきだったのじゃ」


「むう……」


 そう言われても仕方がない人生を送っていた。

 遊ぶために生きていると周囲に言ってはばからない時期もあった。

 しかし──


「たいへん魅力的なお話ですが、とりあえず今やるべき事をやらせてください」


「やるべき事、とな」


「今は、女神さまがお与えくださったこの試練をなんとしてもやり遂げたいのです。それが終わったら、またお返事させてください」


「ふむ。よかろう」


 相手はつまらないという表情を浮かべた。

 機嫌を損ねてはいけないが、この問答自体も試練の可能性がある。

 だがそれ以上に、ここで終わりたくない気持ち、そしてあわよくば、その先の何かを期待している自分がいた。

 それは、女神の仰るようなものではなかった。


「ようし、それでは今一度DCJに戻るがよい」


「唐突な略称! デモキャスでいいじゃないですか」


「最後のJとはいったいなんでしょう?」


「ジャパニーズ・エディションのことじゃ」


「え、値段が高いほかに、なにか仕様が違ったので?」


「海外版と比べて、素材要求数が多いのじゃ」


「日本人なめられてるぅぅぅ!」


 例によって、俺たちは女神の生みだした渦に飲みこまれていった。

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