第11話 主人公の面影
「なるほど、君はアレを探しに戻ってきたんだね」
道中、俺は久しぶりに会った仲間たちに、簡単な事情を説明していた。
アレとはもちろん、本作で最も入手が難しい秘められた財宝のことであり、心残りだった真のエンディングを見るために必要不可欠なアイテムであった。
「それにしても、そちらではもうそんなに時間が経っているなんて。よくこの物語のことを覚えていてくれたね」
「この作品は本当に好きだったんだ」
「うちらの名前は忘れてたくせに」
「仕方ないだろう、何周もプレイしたんだから。最初はレイミアを主人公の名にしていたけど、いつからか、自分から切り離したキャラクターにしたくなったんだ」
「なるほど、君はそうやって創作のイマジネーションを鍛えていたってわけか」
「……まさにそうなるね。当時はただ純粋にそうしてた。無意識だったんだ」
じつに奇妙だった。彼らは、自分たちが物語の一人物に過ぎないことをすんなりと受け入れている。人工知能が高度に発展していけば、いつか人間がつくるものでも、そのような会話が可能となるのであろうか。
「それで、いったい私たちはどこへ向かっているんでしょうか?」
「メインストーリーには関わってこない、脇道のダンジョンだ」
「地下の奥深くにまで続いていてね。僕たちは、最後のボスまでは倒したんだけど、道すがら探していた秘宝を見逃してしまったんだ」
「もう一度やり直す、なんて、こいつは言ってたんだけど……」
「当然だ! 頑固一徹、意思堅固!」
弓使いに見つめられた騎士は、握りこぶしを高々と掲げた。びくりとしたアルは、苦笑いを浮かべる。
「あはは……。久しぶりだというのに、皆さん仲がいいんですね」
「まあね~。ところで、うちらの名前は思い出してくれた?」
「すまない。記憶にないんだ」
「ふうん。なんか寂しいな」
「昔は適当に語感で決めていた。でも、あとで調べると微妙な意味だったり、ほかの作品から無意識に模倣していたり、それではまずいと思うようになった。だから今はしっかり意味を調べてからつけてるんだ」
「そうだったんですか。それでは先ほど私が演じたあのサキュバス──アルディナはどういう意味を込めて名づけたんですか?」
「うん、それは適当につけた」
『おい!』
全員でツッコミを入れるのが、このパーティの雰囲気であったようだ。
いつの間にか、ミヤもその一員となっていた。
「もしかして、アルと関りがあるのかな?」
「彼女の名はほんらいもっと長かったけど、まさに由来が原因で
「ひとりの名前にどのくらい時間をかけているんですか? 私はさくっと決めちゃいますが……」
「植物から決めるのが早いが、何度も変更を繰り返し、何日も悩むことはある」
「ふうん。あんたも苦労してんだね」
「思い出せないし、いま適当につけたくもない。君たちを俺の物語のなかに表現するときが来たら、あらためてつけさせてくれないか。納得いくものにしたいんだ」
「かっこいいのを頼むぞ」
「……好きにすればいいわ」
こうやって何人も新しいキャラクターが生み出されては、作り上げることができずに忘れ去られていった。なんだかとても申し訳なく思えてきた。
召喚師である青年だけは独自の物語が与えられ、いくつもの要素が付け加えられたものの、やがては彼も退場しなければならなくなる。
なぜなら俺が現在向き合っている作品は、十四歳に向けて作られているからだ。
初めて創作者に憧れをいだいたころ、当時読んでいた雑誌の読者はその年齢が最も多く、人気作品の支持層は男女比が半々であった。
だが近年はどんどん読者の年齢層が上がっているとされ、それに比例して若者向けのものは減り、性別にしてもどちらかにターゲットを絞る傾向が強い。
長らく作品を生みだせなかった自分は時代に取り残され、自らの分身から始まった主人公は、自身の成長とともに年齢を重ねていく。
ようやく本腰を上げて取りかかることになったとき、彼は若い人物に生まれ変わる必要があったのだ。
「さて、いよいよ入口が見えてきたよ」
「なんだか恐ろしい所ですね」
「覚悟はいいか? 絶対に守ってやるから離れるなよ」
「今度は忘れ物、しないでよね」
「ああ、もちろんだ。行こう」
緑に覆われた人工物を前に意気込むと、俺たちは慎重に敷地内へと足を踏み入れていった。
ようやくまともな出陣だ。最初のはわけもわからず戦う羽目になったからな。
女神の話のとおりなら、俺たちはいくつものゲームのラストバトルを連戦していくことになる。お手柔らかに頼むぜ。
……ラストバトルの連戦ってなんだ?
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