第11話 未来

特待生寮には小さいが訓練場が設けられている。

そこにエフティアと二人で立っていた。


「構えて――」

「はいっ!」


エフティアは先ほどまでの疲れた様子が嘘のように、威勢よく返事をした。

もちろん疲れてはいるのだろうけど、今はそんなことを考えている場合ではない。


「剣に想いを馳せよ――エフティア、いくよ」

「はいッ!!」


すかさず、彼女との間合いを容赦なく詰めた。

時間が惜しい。


「今、君は僕の動きを目で追えていた。そうだね」

「はっ……はい!」

「でも、なぜか君は、むしろ身体が固まってしまっている。どうしてか、説明できる?」

「次にどう動けばいいのか……分からなくて」

「そういう風に見えた。でも、本当に全く考えが浮かばなかったのかい」

「……」

「思っていること、全部話してみてほしい。君は、本気なんだろう」


エフティア、君とはほんのわずかな時間しか関りがなかったけれど、君の本質の一端に触れるには、たったの一瞬で十分だった。


「僕は、君を使として見ているんだ」

「わたしを……剣使として……」


彼女はそのあどけない顔で、歯を食いしばり、その瞳に闘志をみなぎらせた。

そうだ、それが君だ。


「……最初に思いついたのはこの動きで……次は、こうで……次はこう……。それで――」


エフティアは先ほどまでのためらいを捨て、素振りをするかのように、を繰り返す。しかし、彼女の表情は真剣だ。だとすれば、間違っているのは僕だ。それに、一つ一つの彼女の動き自体は、ものだった。


「――次はこう。次はこう――」


黙って彼女の剣を見つめる。十、二十、三十と繰り返される動きを見守る中で、ようやく正しく彼女の剣を理解した気がした。だけど、止めてはならないとも思った。最後まで見届けなければならない――見届けたい。


静寂と風を切る音。それだけが交互に繰り返される。


「――最後は……こうっ!!」


千回もの剣が振られ、確信した。

彼女は本物の剣使で――天才んだ。


「アル君が……初めて……最後まで見てくれた」

「そうか」

「今まで、色んな人に話したんだけど、誰も聞いてくれなくて……」

「うん」

「手に負えないって……言われてた。自分でもどうしたら……いいのか……分からなくて……どうしたら強くなれるのか……分からなくて……」

「うん」

「でも……わたし……ばかだけど……強くなりたいんだ」


彼女の、ずっと抑えていたものがあふれ出した。

膝を押さえ、地面を見つめている。

彼女がそれを出し切るまで、僕は待った。

ようやく顔を上げると、燃えるような瞳がこちらを睨んでくる。

強くなることしか考えていない顔だった。


それなら――


「――強くなればいい」


彼女の一振りは、既に完成している。

ならば、後は守りを完成させるだけの話だ。

おそらく、彼女が見ている剣の世界は、二千や三千では済まないだろう。


「全部見せればいい――」


もう一度、剣をエフティアに向ける。


「――そのために、君は今日、僕に試合を……申し込んだんだ」


エフティアは、震える手に力を込め、再び剣を構えた。


「……そうだッ! わたしは、そのために君に挑んだんだッ!!」


彼女の瞳の奥に、未来を見た気がした。

彼女が剣使《バアリ―シュ》になる未来を。

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