プロローグ
よく、自分がどうやって時間を認識しているのか分からなくなる。空間は、音や光などを感覚器官を通して知覚し、それらの情報を統合することで認識できる。しかし時間は時計という媒体から間接的に認識しているだけだ。時間を認識できているのかできていないのかは定かではないが、”少なくともこの状態にあるときは時間を認識できない”という身近な例を僕は知っている。夢だ。夢の中ではある出来事が一瞬のようにも何時間のようにも感じられる。そして、見ていた夢が実際には何分かけて再生された映像なのかも想像がつかない。
今日もおかしな夢を見た。どんな夢かはっきり思い出せないが、不安だったり、楽しかったり、寂しかったり、感動したりした気がする。瞬く間の回想のようにも、数年かかる物語を読み終えたようにも感じる。やはり夢に時刻は無いと、僕は思った。
今朝は大気が雨の香りを鬻いでいた。雨上がりの朝だ。雨は嫌いじゃない。アンニュイでお洒落で、珈琲も普段より美味しい。リビングで淹れた珈琲を持って自分の部屋に戻る。僕以外の家族はまだ起きていない。ふと、机に端に置きっぱなしの小説を見つけた。持ち主に飽きられようとも役目を全うする栞に促され、なにとなく小説を開くと、見えないアンダーラインが引かれているような妙に目立つ文が目を引いた。
『人を好きになるって、どういうことだろう』
途中で飽きてしまって捨てるはずだった小説のその一文が、なぜか頭について離れなかった。
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