テール大森林

第3話 2デス目

そよ風に吹かれて目を覚ます。

「ああ、目覚めが良いとは幸先が悪いな。」


どうやら俺が寝ていたのは、だいぶ深い森に生えた一本の大樹、その木陰らしい。ちらちらと差し込む柔らかな日差しと、初夏らしい陽気が、まるで祝福しているようで気分が悪くなる。頼むからもっと尊いものを祝福してくれ...!


辺りを見渡せば、木、木、でっかい木、木、家。


......家!?

驚いて二度見すると、確かにある一軒家。といっても必要最低限。家というよりは扉のついた箱。とても住みにくそう(にっこり)。


とりあえず中に入ってみると、家具も窓もない空間に絵葉書が一枚。表にはいつしか撮った白川さんとの写真が張り付けられており、裏の差出人のところにフシギさんより、と記されていた。なにからなにまで、流石としか言いようがないな。


加えて、補足事項が手短に書かれていた。

目を覚ました時にあった大樹を中心に、ここら一体は安全地帯になっているらしい。着の身着のまま生まれ変わることになったもんで、サバイバルキットすらない訳だから、これはありがたい。


ふむふむ。いや飯は!?てかどこだよここ!?

どうやら早々に積んだらしい。一応眠気覚ましのガムくらいはあるが、これで栄養を取るのは無理があるし、俺は餓死するしか選択肢がないようだ。

あーあ、これじゃあ仕方ないね(棒)


第一学生服のままだし、顔もそのまんまだし、死んだはずの人間が生きてたら大問題だと思うんだが。ここは、フシギさんのためにも、誰かに迷惑をかける前に死んでおこう。


まるっきり生きる気力がなかったから、だらーんと大の字に寝転がって、そのまま眠ることにした。目が覚めては、まだ息をしていることに落胆し、もう一度寝る。それを何度も繰り返し、これまた何度目かわからない朝を迎え、そこでようやく重い頭を働かせる。


「......いや、おかしくね?」


いくらでも寝られる、というのも妙だが、まず腹が減らないのだ。

気分的な問題ではなく、もう一週間は確実に経っているというのに、一向に餓死する気配がない。


「フシギさんの対策済みってことか?」


だが、そこは諦めの悪い男。餓死できない原因を、仮説を立てては検証することにした。まず、家の中、大樹の周りではお腹が空かない、という可能性。


「となれば、やるべきことが決まったな。」


なりふり構わず、見るからに危険らしい森へと入っていくことにした。




***


むせ返るほどの濃い緑。存在からしてふざけている奴が言うのもなんだが、鬱蒼とした森の雰囲気に、どこか神妙な気持ちになる。


「危険といえば、熊とかイノシシとかそこらへんか?つっても日本かどうかも怪しいしな。突然インド象が踏みつぶしに来る可能性もゼロではないか。」


そこらへんに落ちてた、ちょっと太めの枝を見つけて持っておく。舗装されていない道と、血脈のように張り巡らされた木の根っこに、足を取られながら進んでいく。


じんわりと額に汗がにじんできたとき、すぐ横に生い茂った草木がガサガサと音を立てた。


何かいる。


バタバタとはばたく鳥。

驚いて、反射的にヒノキの棒(仮称)を構える。


......来るッ!


ヒュッと飛び出す影。

丸い尾に、長い耳。深紅の瞳はじっとこちらを見据えている。




___間違いない、ウサギだ。


「みゅー!」


「かわいいッッ!!!」


大きな声に驚いたウサちゃん。急いで全力土下座をかます。


「いやほんとすんません、怖がらせるつもりはなかったんですけど、つい体が反射的にね、こう、なんていうか......へへ、すいやせんね......。」


鍛え上げた三下ムーブは、しかしながら逆効果だったようで、怯え切ったウサちゃんは臨戦態勢をとる。


「まて、話せばわかる......!」


犬養よろしく言論での解決を試みたが、向こうには何も伝わっていないらしい。言語の壁は厚いなあ......!(諦め)


瞬間、肥大化する脚。

おおよそウサちゃんの体と同じか、それ以上にまで膨らんだ筋肉は地面を踏み抜き、猪突猛進、一直線に飛んでくる。

いやそうはならんやろ!


「なっとるやろがい!!!」


セルフツッコミで自分に活を入れ、腹で受けようとする。が、反射的につい体が避けてしまった。しかしそこは流石のウサちゃん、とても素早い。

どれくらい早いかというと、反射神経が全く反応できず、鋭く尖った角が深々と腹に突き刺さったくらい。


ってあれえ?突き刺さってるう!!


肉体をぶち抜いても勢いは留まることを知らず、体ごと木に叩きつけられた。

ていうかウサギって角、あったんだね(錯乱)。


なのは、にも角が体を貫通していたこと。そしてどうやら後ろの木にまで刺さった角が抜けないらしく、ウサちゃんからの追撃が来ないこと。


「みゅー、みゅー......!」


どうやら身動きが取れなくなるのは想定外らしく、焦るウサちゃん(かわいい)。でもジタバタしないでもらえるかな、ちょと傷口ぐああぁぁ......!


まあ焦るのもうなずける。なにせまだヒノキの棒(仮称)を持っているから。腹の痛みに呻きながら、その棒を短めに折る。先端は木の節で鋭くなっており、ウサちゃんにとどめを刺すくらいの威力はありそうだった。


横目に尖った枝の先を見つけたウサちゃんは、怯えたような目でさらに激しくもがきだした。


だが、無慈悲にもその棒をウサちゃんに振り下ろす___。




なんてことはなく、口にくわえた。うん、素朴な味。

別に限界まで腹が減ってたとか、そういう訳ではない。


「んぐぎぎぎぎぃぃぃぃ!!!!」


強い痛みにこぼれる叫びを、棒を強くかじることで抑えつける。そうしてゆっくりとウサちゃんを腹から引っこ抜いた。


スポッと抜けた勢いで尻もちをついたウサちゃんは、そのまま一瞥もくれずどこかへ走って逃げだしてしまった。べ、別にお礼が欲しかったわけじゃないんだからね!


あふれ出る血を手で庇いながら、どうにか立ち上がろうとするも、力が入らない。こりゃ死ぬな。襲い掛かってくる眠気と、ブラックアウトしていく視界とを、高揚感でかき消して、叫ぶ。


「それじゃあ、2デス目逝っときますか!」

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