二十一発目「オ〇ズにしていいよ」


 【天ぷらうどん】が倒されて、俺は新崎にいざきさんと結ばれた。


 これにて一件落着、ハッピーエンド。

 あとは、クラスメイトと合流して、皆で現実世界に帰りたい。

 そして、新崎にいざきさんの恋人として、充実した高校生活を送りたいと思う。

 

 「あれっ!!そういえば和奈かずなはどうなったの!?」

 「あっ!!」


 まずいっ、完全に忘れていた。

 俺も、新崎にいざきさんも、互いのことに夢中になりすぎていた。

 天ぷらうどん本体クソジジイに、お腹をほじくり出されていた浅尾あさおさん。

 無事なのだろうか??早く回復スキルをかけないと、死ぬんじゃないか!?


和奈かずなっ!!?」


 新崎にいざきさんと俺は、慌てて立ち上がった。

 薄暗い闇の中、周囲を見渡した。

 しかし、視界に移るのは、こちらを見つめる二人。

 リリィさんとユリィさんだけだ。


「茶髪の女性なら、私が回復しました。向こうで眠っていますよ。」


 そう言ったのは、白い長髪の幼女、ユリィだ。

 目を閉じたまま、座り込んだ状態で、闇の中へと指をさす。


「【火球ファイヤボール】!!」


 リリィさんの魔法で、周囲が明るく照らし出された。

 リリィさんの手の平の中で、神秘的に揺らめく炎。

 視界が開けて、ユリィの指さす先に、女性が倒れ込んでいた。

 


和奈かずなっ!!」


 俺達は、浅尾あさおさんの元へと駆け寄った。

 仰向けで目を瞑っていて、意識がないようだ。

 破れた服から、綺麗なおへそが覗いていた。

 

 目立った外傷はなく、ゆっくりとした呼吸とともに、彼女の横隔膜が上下していた。


「眠ってるだけか……良かったっ……」


 新崎にいざきさんは、ほっと息をついた。

 俺も、心から安堵をした。


「起こさないようにしよう。疲れてるだろうから……」


「そうだね……ごめんねっ、和奈かずなっ」


 新崎にいざきさんは、申し訳なさそうに、浅尾あさおさんの髪を撫でた。

 頬は赤みを帯びていて、どこか嬉しそうだった。





「ユリィさん!!ありがとうございますっ!!助かりましたっ!!」


 俺は振り返り、救世主にお礼をした。


「うぁっ!?い、いえっ…こちらこそっ……お姉さまを支えてくれて、私を助けてくださった貴方たちに、感謝の気持ちが止まりません。

 お姉さまも、私の為に、いつもありがとうございます。大好きですっ。」


 ユリィさんは、目を閉じたまま、早口でまくしたてた。

 もしかして、目が見えないのだろうか?

 俺の大きめの声にも、驚いた様子だった。


「うへへぇ……照れますよっ、ユリィっ……。あたしもっ……行宗ゆきむねさんと新崎にいざきさんに、感謝していますっ……皆が無事でよかったですっ!!」


 リリィさんが、嬉しそうな笑顔だった。

 彼女のこんな顔を初めてみた。


 今までは、知的で真剣な印象だったが……

 ……当然か、妹を救出できて、嬉しくない筈がない。

 不安から解放された、こちらが彼女の素なのだろう。


「ねぇ。ユリィちゃん、だっけ? 目を閉じてるのは……もしかして目が見えないの??」


「……はい、生まれつきです……。ですが心配はありません。私の傍には、いつも優しい姉さまが居ます。申し訳ないと断っても、いつも側に居てくれます。

 生き物の鼓動が見える魔法も、お姉さまに教えて貰いました」


 新崎にいざきさんの問いに、ユリィさんが応える。

 それにしても、仲のいい姉妹だなぁ。

 一人っ子の俺にとって、兄弟がいるのは羨ましい。




「リリィさん、俺達はこれから、消えたクラスメイトと合流して、現実世界に帰ろうと思っています

 俺達が来た道は、ですよね?

 どうやって、天井の穴まで登りますか?」


 俺の問いかけに、リリィさんは、ウゥムと唸る。

 

「ボス部屋ごと仲間が消えたのは、大洞窟の入口、開かずの間に繋がっていると聞きました。

 つまり、キサズ川の中流域ですから……

 ……とにかく、転移魔法陣を見つけて、大洞窟から地上に脱出しましょう。

 こんな危険な場所は、命が幾つあっても足りませんから……。

 天井までいくのは、私が土で階段を作っていけば済む話ですが……

 ……正直、もうヘトヘトなんです。行宗ゆきむねさん、もう一度賢者になってくれますか??」


 リリィさんは、トンでもない提案をした。

 もう一度、オ〇二ーをして、賢者になれという。

 確かに、賢者の力なら空も飛べるが……!!


「えぇっ?……もう一度ですか……俺も疲れてるんですけど……仕方ないですかね……」


「ねぇ、私がやろうか??」


 突然、新崎にいざきさんがそう言った。

 

「天使だって、空をとべるよ……」


「そうですね、行宗ゆきむねさんが無理そうなので、新崎にいざきさんお願いします」


 リリィさんも同意した。

 新崎にいざきさんが天使になる、つまり、もう一度オ〇ニーをするという事。


「ダメだぁああ!!……そ、そのっ!!、直穂なおほがシテるところを、他の誰にも見せたくないだっ!!

 例え、リリィさんにもっ!!」


行宗ゆきむねっ、私も同じ気持ちなのっ、行宗ゆきむねの可愛いところは、他の誰にも見せたくないから……」


 俺が思わず叫び声を上げると、

 新崎にいざきさんが、信じられない事をいった。

 俺と同じように、新崎さんも、好きな人の行為は他人に見られたくないと言った。


「うん……そう言って貰えて嬉しいけど……結局どうする??

 正直、俺は、直穂なおほのそんな姿を見られたくない」

 

「うーん、じゃあ、行宗ゆきむねがしてるところ、私にじっくりと見せてくれるのなら、権利を譲ってあげる」


「えぇ??」


 新崎にいざきさんは、恥ずかしそうに顔を赤らめて、にやにやしていた。

 俺の言い分を通す変わりに、ちゃんと見せてほしいということだろうか……

 いや、そんなの恥ずかしすぎるだろっ……

 それに、怖い……気持ち悪いと幻滅されてしまうかもしれない。

 確かに興奮もするが、それよりも、緊張感や不安が、脳内に渦巻いた。


 ぎゅっ!!


 新崎にいざきさんが、俺に抱きついてきた。

 優しく包み込んで、俺の身体を温めてくれる。

 彼女の身体は熱くて、呼吸も荒い……

 やはり胸は柔らかかった。


「大丈夫……安心して……私は行宗ゆきむねが好きだから……ずっと手放さないから……

 だから、安心してオ〇ニーしていいよ……」


 彼女の、耳元で投げかけられた言葉に、俺の心臓は止まりそうになった。

 緊張感や不安が、甘い匂いに溶かされて、強烈な高揚感と幸福感に支配される。


「私をオ〇ズにつかっていいよ……」


 もう、止まる事はできなかった……

 俺は、新崎ゆきむねさんに抱きしめられながら……

 一生懸命、右手を振りしだいた……


 


「ユリィも見ちゃダメですよ。教育に悪いですし…」


「隠さなくても、もともと見えませんよ」


「そうでしたね」


 後ろで、リリィ姉妹の会話が聞こえた。

 完全に忘れていた。

 聞こえるということは、逆も然り、俺達のセリフは彼女達に聞こえてしまうのだ。

 あまり、変なセリフは言えないな。

 俺を独り占めしたい新崎にいざきさんの為にも、声を我慢しなければ。




 そして俺は、賢者になった。




















 ―浅尾和奈あさおかずな視点ー


 ん……??

 美味しそうな匂いがする…

 これは……シュウマイ……


「………つまり…あたしの知る限り、ナロー世界からネラー世界への帰還方法はありません。

 少なくとも、神様の助力なしでは不可能でしょう。

 ダンジョン最下層、ラストボスの討伐報酬、【願いを叶える石ネザーストーン】なら、可能かもしれませんね。

 ですが……かなり貴重な石なので、国に厳重に管理されているものです……手に入れるのは難しいかと……」


「そんな……あの石ってそんなに………」


 幼い女の子と、知っている男の声がした。


行宗ゆきむね……くん……??」


 私は、眠っていたようだ。

 身体がだるい。起き上がれない。お腹に不思議な感覚がある。

 あれ……私……なにがあったんだっけ……


「あ、和奈かずなっ!!おはよっ!!体の具合は大丈夫??」


 直穂ちゃんの声がした。

 かなり、心配されているようだ。


「……んん……ちょっとだるいかも……お腹の中が気持ち悪い……」


「ホントにっ!?分かったっ、回復するねっ!!【超回復ハイパヒール】!!」


 新崎にいざきさんが焦った声で、私に回復魔法をかけてきた。

 お腹の中に、温かい感覚が忍び込んでくる。


「あの新崎にいざきさん、回復は不要です。

 浅尾あさおさんは、お腹が空いているだけですっ。ご飯を食べれば、元気になりますよ」


 幼い女の子の声に、新崎にいざきさんの手が止まった。

 確かにこの感覚は、お腹が空いている時の感覚だった。

 お腹が減りすぎて、気持ちが悪くなっていたのだ。


和奈かずな……食べられる??」


 直穂なおほちゃんの言葉と共に、私の鼻孔に美味しそうな匂いが近づいてくる。

 私の唇に、あつあつのふわふわがピトリと触れる。

 私は、食欲に従って、そのふわふわを口に入れた……


 口の中で、熱いものが蕩けだした。

 肉汁と湯気が、口の中を駆け巡り、私の味覚を刺激する。


「うっま……」


 涙が出てきた……

 死ぬほどうまい……全身が熱に包み込まれる……

 身体中に、力の入る感覚が戻って来た。

 よしっ!!立ち上がれるっ!!


「おはよっ直穂なおほちゃんっ!行宗くんっ!!」


 私は、身体を起こした。

 そして、目を開けると、目の前には焚火があった。

 その奥には大きな小籠包、私が命がけで収穫した糸欠片。

 それらを囲むように、行宗ゆきむねくんと直穂なおほちゃん。

 そして、金髪ツインテールの少女と、白い長髪の幼女が座り込んでいる。

 小籠包を片手に、食卓を囲みながら、皆が私を見つめていた。


「うぉぉ……可愛い子がいっぱい……。おかわりしていいですか??」


 それが、最初に私の口からでた言葉だ。。


 金髪の女の子は、リリィ。黒髪の女の子は、ユリィというらしい。

 二人とも、私の命の恩人だそうだ。

 敬語を使い、子供とは思えないほど賢い。



「……とにかく、私達は公国に向かいます。

 私達は貴族のお嬢様なので、使いの者に、あなた方のクラスメイトの情報や、ネラー世界に帰還する方法を調べてもらいましょう」


「そうか……誘拐されたのは、まさか貴族ってのが理由か??」


「そうでしょうね……貴族の娘を二人も誘拐など、一大事件です、あってはならない事です。

 私達は一刻も早く、公国に帰らねばなりません」


 リリィさんは、貴族の娘と言った。

 ふーん。この姉妹はお嬢様なのか。


 羨ましいとは思う。

 でも、なりたとは思わない。

 面倒くさそうだし。


「という事で、地上にでるための、転移魔法陣を探そうと思います」


 リリィさんの提案で、私達は立ち上がった。

 小籠包を、氷と土で包装して、手分けして持つ。


 そして私達は、大きな洞窟の中を、また歩き出した。

 女の子4人に男の子1人、いわゆるハーレム状態だ。

 

 喉が渇いたら、リリィさんが魔法で、水を作ってくれる。


「あの……この世界の魔法のシステムって……どうなっているんですか??

 なにもない所から水が出てくるなんて、普通に考えたらあり得ないです。

 リリィさんの体内から出ている訳では、ないんですよね?」


「そんな訳ないでしょう。魔法とは、世界に満ち溢れるダークエネルギーの形を変えて、目に見える形に変換する技術です。

 つまり、エネルギー資源は無限なんですよ。理論上は、どんなに大きな魔法だって唱えられます。

 しかし、人の身体を媒介とする以上、肉体的限界もあります、集中力と知識、才能も必要です」


 行宗くんは、リリィさんと話してばかりだ。

 新崎さんの方は、恥ずかしそうに顔を赤らめて、行宗くんをずっと見つめている。

 告白する、と言っていたが、なにも進展していないのだろうか??

 どこか、二人の雰囲気が変わった気がするが、ずっと話していない。

 

「まじでっ!!……ダークエネルギーって!本で読んだことあるわ!!俺達の世界と同じなんですかねっ!?」


「そちらの世界にも、同じ言葉があるのですか??」


 こいつら、何を話しているんだ??

 ダークエネルギーって何??アニメの話??訳わかんない。

 あれ……そういえば不思議だな……

 リリィさんもユリィさんも、日本語がペラペラだ。

 異世界の人なのに、日本語が通じている。


 私達をだました仮面の二人も、日本語で話していたよな。

 もしかして、この世界って……


「あぁ!!あったっ!!あれが転移魔法陣ですよっ!!」


「マジすか!!」


 リリィさんが大声を上げて、行宗くんがそれに続いた。

 洞窟の行き止まり、

 青い光で描かれた、複雑で規則的な紋章、それが幾つも続いている。

 

「かなり新しいですね……しかし構成が複雑です。神様ではなく、人が作っていますね。

 行先は……フェロー地区ですか……なるほど……」


 リリィさんは、ぶつぶつとひとり言を呟いていく。


「おそらくですが、私達の誘拐犯の逃走経路と思われます。

 敵国であるガロン王国領地に繋がっているので、公国の足をまくのには好都合ですね。

 しかし、私達の公国との国境付近、ここに入らない選択肢はないですね。

 一緒に行きましょう」


「そ……そうか、でも敵国に繋がってるって、大丈夫なんですか?」


「私達は表に顔を出していないので、一般市民に気づかれる心配はないですが、王族に見つかると不味いですね。

 でも、私達は急がねばなりません、私達には使命があるのです。

 さあ皆さん、魔法陣の中に入って下さい」


 私達は、魔法陣の範囲内に入った。

 この感覚は昨日ぶりだ。

 昨日は、仮面の男に騙されて、ダンジョンの最下層に呼び出されてしまった。

 最悪の記憶だ。 

 思い出すだけで、恐怖のあまり吐きそうになる。


「では、参ります」


 転移魔法陣が回転を始める。

 白い光が、周囲を包み込んでいく。


 リリィさんは、いい人だ。

 人を騙したりしそうにない、純粋で、妹想いの優しい子。

 兄弟げんかもしたことがないそうだ。兄をもつ私からすれば、信じがたい話だ。


 そもそも彼女がいなければ、私達は永遠に、ダンジョンを彷徨う羽目になっていた。

 彼女に頼るしかないのだ。

 もう、疑うのはやめよう。


「あ……伝え忘れていました。

 転移先は、高確率で水中です。

 水の中に出ても、驚かず暴れず、身体が浮き上がるのを待って下さい……」


 え……


 リリィさんの言葉が聞こえた。


 次の瞬間、私は一度意識を失って……


 目が覚めると、冷たい水の中にいた……




「ごはぁああ!!!おぼっぼぅぅぅ」


 一瞬で、鼻の穴に水が入る。

 どちらが上か下か分からない、ただただ苦しくなる。

 吐き出せば吐き出すほど、水が入ってくる。

 目が開けられない、水中ゴーグルはない。


「うごぉぉおぉっ……っばぁああ……たずけ……でぇえ……」


 私は、サッカーや陸上は得意だけど……

 泳ぐのだけは、無理なんだ……


(うがぁががががが……じぬぅぅぅぅ!!!)




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