十八発目「戦う女子〇衣室」

 俺は、新崎にいざきさんの声を目指して、うどんの中を駆けた。


 そしてすぐに、俺はそこ・・に辿りついた。


 俺は、一つ目の「生物の気配」に辿りついた。


 慎重に、うどんを斬りはらうと、

 そこから、浅尾和奈あさおかずなさんの、可愛い顔が現れた。


「い、いたっ!!」


 俺は、嬉しさのあまりに鳥肌が立った。

 浅尾さんがいる。

 もう会えないと思っていた、でも、手が届いた。


 浅尾あさおさんは、胸より下をうどんの壁に埋もれさせながら、眠っていた。

 悪夢を見ているのだろうか?顔色は良くない。

 素肌を出した両肩がエ〇い。

 うどんに埋もれているが、浅尾さんは今、ハダカなのだ。


浅尾あさおさん!!助けに来ましたっ!!起きて下さいっ!!」


 俺は、浅尾あさおさんの頭を、ガシガシと力強く揺さぶった。

 俺が服を着せる訳にはいかないからな。それは殺されかねない。

 是非とも、起きて自分で服をきて欲しいものだ。


 「んん……。おにーーちゃん??……やめてよぉ…もう少し……あと少し………」


 浅尾あさおさんは、可愛い寝言を呟いた。

 お兄ちゃん、が、いるのだろうか……

 正直、むちゃ可愛い…


 あ。起きた。

 浅尾あさおさんは、パチリと目を開けた。

 そして、俺に殺意を向ける。

 あ、ヤバい…


 「……もう少し……寝かせろって言ってんだろぉ!!しつこいんだよっ!!!」


 ドゴォォォ!!


 うどんの中から、浅尾あさおさんの裸足が飛び出してきた。

 その裸足は、真っすぐに…。俺の顔面を叩き潰した。


 「ブフゥゥ!!」


 容赦のない蹴りに、俺の意識は飛びそうになる。


 「えぇっ!?あぁっ!!いやぁああああ!!見っ、見るなァァ!!」


 続いて、浅尾あさおさんが絶叫した。

 どうやら、自身が裸だという事に気づいたようだ。

 そして、間髪入れずに、右足のキックが飛んでくる。


 俺は目を瞑りながら、浅尾あさおさんの蹴りを避けた。

 

浅尾あさおさん!!落ち着いて下さいっ!!はいっ!浅尾さんの服ですっ!!早く、着替えて下さいっ!!」


 俺は、浅尾あさおさんに左手に持った服を差し出した。 


「はっ、はぁぁあっ!!私のパンツっ!!なんで行宗ゆきむねくんが持ってんのっ!!?」


 浅尾あさおさんは、震え声で叫ぶと、サッと服を手に取った。


「みっ!!見ないでっ!!向こう向いてじっとしてて!!」


 浅尾あさおさんは、泣きそうな声で嘆願するが、残念な事に要求は飲めない。

 俺は、浅尾あさおさんの側へと走りだした。


 ズバァァ!!


 今この時も、うどん達は、浅尾あさおさんを取り返そうと狙って来ている。

 俺は戦い続けなければいけない。


「いやぁぁっ!!みっ、見るなァァ変態ィィ!!」


 浅尾あさおさんは、服で身体を隠しながら、また蹴りを放ってきた。


「お、俺は何も見てないっ!!目を瞑ってるだろっ!!」


「嘘だっ!今見たでしょっ!見ようとしたっ!!」


 俺は、浅尾あさおさんの攻撃を躱しながら、迫りくるうどんと戦闘をする。

 かなり激しく動いており、背中のリリィさんは、左右に振られまくって苦しそうだ。


「あ…あなたはホントに…行宗ゆきむねさんのお友達なんですか??……とりあえず、姿をみられないように、明かりを消しておきますね……」


 リリィさんは、暴力を振るう浅尾あさおさんに、若干引きつつ、火球ファイヤボールの明かりを消してくれた。

 良かった。真っ暗の中なら、浅尾あさおさんも安心して着替えられるだろう……


「きゃぁぁあああっ!!!い、いやぁぁ!!お化けぇぇっ!!あぁ……電気つけてぇぇっ!!」


 逆効果だったようだ。

 浅尾あさおさんの絶叫が、俺の鼓膜を震わせた。

 小さな空気球エアボールの中で反響する。

 うるさすぎる。


浅尾あさおさんっ!!暗闇の中で着替えて下さいっ!!俺は絶対見ませんからっ!!」


「もういやぁあっ!!もう、下着は着おわったからっ!!明かりをつけてぇぇ!!」


 浅尾あさおさんが、俺の左腕に泣きついてきた。


「【火球ファイヤボール】」


 リリィさんの魔法で、この空間に光が取り戻された…


 明るい光の中で、下着姿の浅尾あさおさんが、俺の左腕にしがみついていた。


 「あ……っ」


 浅尾あさおさんは、みるみる内に赤面して、慌てて俺から離れると、

 隠れるように背中を向けた。


 「行宗ゆきむねくん……ありがとぅっ……助けてくれてっ……」


 彼女の口から出たのは、俺に対する感謝だった。


 「はい。無事で良かったです。」


 俺は、平静を装い、返事を返した。

 だが頭の中は、別の事でおっぱいだった。



 肉付きのいい肉体と大きな膨らみ、白い肌を包む二枚の布と、その食いこみ。

 浅尾あさおさんの下着姿……エ〇すぎる…。胸でけぇ……。

 眩しすぎて直視できない。


 い、いや、何を考えているんだっ!!

 次だ次!!時間がないんだよっ!! 

 新崎にいざきさんを助けるんだ。


 

 すぐ傍にある、「生命の気配」

 きっとそこ・・に、新崎にいざきさんがいる筈だ!!


 

 







行宗ゆきむね……くん……??」


 いた、見つけた。

 新崎直穂にいざきなおほさんだ。

 俺が恋する女性、ずっと一緒にいたい女性。


新崎にいざきさん、助けにきました……」


 俺は、精一杯、カッコよく振舞った。

 嬉し涙を、グッと堪える。


 新崎にいざきさんは、俺の顔を見るなり、顔を歪ませて涙を溢した。


「あ……うぅぅ……行宗ゆきむねくんだぁぁ……また会えたよぉぉ……

 もう…会えないと思ってたぁぁ……怖かったよぉぉっ……」


 新崎にいざきさんは、顔だけを出している状態で、

 涙をぬぐう事が出来ずに、顔じゅうびしょびしょだ。


 俺も、ここで我慢できなくなった。

 頬を涙が伝っていく。

 もう、会えないと思った。死んでいるかと思った。

 でも、奇跡は起こったのだ。


新崎にいざきさん。では、うどんの中から救出します。

 新崎さんの全裸姿は、絶対に見ないので、すぐに服を着て下さい。」


 俺は新崎にいざきさんに、彼女の下着と上着、コートの山を見せた。

 

「あぅぅっ……。うぅ……。あ、ありがとぅ……」


 新崎にいざきさんは泣きながら、顔を真っ赤にして恥ずかしがった…

 でも、震え声で感謝をくれた。


「こちらこそ、生きていてくれてありがとうございますっ。」


 俺はそんな、カッコイイを口にした。

 俺はついでに、新崎にいざきさんのパンツを、オ〇ズに使ってしまった事を、謝ろうかと思ったが、やめておいた。

 世の中には、知らない方がいい事もあるだろう。


 俺は白い大剣を振りかぶり、ギュッと目を瞑って、慎重にうどんを切り裂いた。

 

 素っ裸の新崎さんお姫様が、解放される。


 

 新崎にいざきさんは、慌ててて服を受け取ると、バタバタと慌てながら下着を着ていく。

 ヤバい、衣擦れの音や、息遣いが生々しい…。

 イケナイ音を、聞いている気分になる。


 願わくば、是非ともこの目で確認したい。

 しかし、ダメだ。

 これ以上、新崎にいざきさんに、俺が変態だと思われる訳にはいかないのだ。

 でも見てぇなぁ……

 

 

 いや、冷静になれ、俺!!

 俺達は今、戦闘中だぞ!?

 集中しろ、二人を助けた、次はどうする??

 そうだ、現状の説明をするのだ。


浅尾あさおさんと新崎にいざきさん!着替えながら聞いて下さい!

 ここは、モンスターの巣です。

 周りで蠢く触手は、実は【天ぷらうどん】というモンスターなんです!!

 うどんなんです!!」


 俺は、着替え中の新崎にいざきさん、浅尾あさおさんに向けて叫んだ。

 二人は、うどんの中からの視点しか、知らない筈だ。

 つまり、【天ぷらうどん】というステータスバーは、確認出来ていないはずだ。

  


「うどん!?な、なるほど??」


「【天ぷらうどん】って…また食べ物なの??」



 浅尾あさおさんと新崎にいざきさんが、困惑したような声を上げる。


「俺の背中にいる女の子は、リリィさんと言います!

 彼女は、妹を探すために、俺に協力してくれた仲間です!!」


「リリィ…さん??」


「か、可愛いっ!!」


 二人は、やっとリリィさんの存在に気づいたようで、驚いた声を上げる。


「どうも、あたしの名前はリリィです。

 行宗ゆきむねさん、自己紹介は後にして下さい。

 もう時間がありません、すぐに脱出します。

 ですが…行宗ゆきむねさん、一つ約束をして下さい。

 もう一度ここにきて、あたしの妹探しを手伝うと。」


「当たり前です。そういう約束ですから!!」


 不安そうに俺をみるリリィさんに、俺は間髪入れずに答える。

 当たり前だ。

 俺が、二人を助けられたのは、リリィさんのお陰なのだ。

 俺の仲間が、全員見つかったからといって、

 リリィさんを見捨てるようなことはしない。


「お人よしですね…。良かったです。あたしは行宗ゆきむねくんを信じます。」



 リリィさんは俺を信じると言った。


 そして俺は、天井を見上げた。

 

 闇に包まれて、肉眼では何も見えない。

 だが俺には見える。上へと続く、長い穴。

 俺達の来た道、脱出経路だ。


「リリィさん!真上です!!」


「了解です!!お友達の二人は、じっとしていて下さい!! 【土板アースボード】!!」


 リリィさんが魔法を唱えると、

 新崎にいざきさんと浅尾あさおさんの足元に、土造りの足場が作られた。

 なるほど、これで二人は、俺の動きについて来れる。


 「ふぅ……はぁ、さぁ……いきますよ……!」


 リリィさんの荒い息が、俺の首筋を温める。

 背中から、リリィさんの汗が染み込んでくる。


 複数の魔法を同時に使うのは、負荷も大きいのだろう。

 リリィさんに無理をさせている、急がなければ…。


 俺は、うどんを薙ぎ払いながら、天井の穴を目指した。


 






 は??


 俺は……信じられない光景を目撃した。


 集まっていく、すべて集まっていく………

 

 この空間に存在する、74個の「生物の気配」が、一ヶ所に集まり出したのだ。


 まるで、俺達の出口を塞ぐように……



「リリィさんっ!!「生物の気配」が全て、一か所に、穴の出口に集まっていきます!!どういう事ですか??」

 

 意味が分からなかった。

 一か所に、「生物の気配」を集めるなど、モンスターの策としては悪手に思える。

 何故ならば、リリィさんの妹を見つけやすくなるからだ。



「え??集まっていくって……。まさかっ!!」


 リリィさんは、驚いた声を上げた。


「急いで下さい行宗ゆきむねさん!!このままじゃ逃げられなくなります!!」


 リリィさんは、焦った声で叫んだ。

 俺には意味が分からない。だが、言われた通りに加速した。


 そうして、「生物の気配」の集合地帯に辿り着いた。


 俺はやっと、その意味が分かった。


 沢山の「生物の気配」が、一斉に俺達に襲いかかってきたのだ。


 ゴォォォ!!


 裸のおっさん。装備を着た戦士。

 賢者の目で見ると分かる、彼らは洗脳状態にいる。

 全方位から襲いかかってくる。人間の集団。


 俺は剣を振ろうとするが、その手は途中で止まる。

 俺が斬ろうとしているのは、うどんとは違う。生きている人間だ。

 斬れる訳がない……


「斬って下さいっ!!行宗ゆきむねさん!!」


 リリィさんの叫びを聞いて、俺は考えるのを止めた。


 ズバァァァ!!!


 俺は、新崎にいざきさんや浅尾あさおさんを守るために。目の前の命を斬った。

 返り血がつく、生暖かい。

 切り口の断面からは、骨や内臓が……


 あぁ、もう見たくない……


「なっ!!何してるんですか馬鹿ッ!!ユリィに当たったらどうするんですかっ!!」


 俺の後ろで、リリィさんが泣き叫んだ。

 そして、俺の後頭部が、思い切りぶん殴られる。

 痛い……


「ちゃんと、前の人だけ殺して下さい!!その後ろには、あたしの妹がいるかもしれないんですよ!!?

 思いっきり剣を振るなんて!バカなんですかっ!?」


「ご、ごめんなさいっ!!」


 俺はリリィさんに怒鳴られて、反射的に謝った。

 そうか、ちゃんと確認してから、斬らないといけないのか…。


 リリィさんの妹である、ユリィさんを殺さないようにしなければ…

 あぁ…面倒くさいなぁ……







「オェェ!!……ゴホォォ………」


 俺は眩暈がして、胃の中のものを吐き出してしまった。

 

 狂ってる、こんなの……こんなのっ……


 俺はもう、戦いたくない。

 だが兵士たちの攻撃は、止まることがない……

 だから俺は、戦わなければいけない。

 大切な人を守るために……

 

 涙と血しぶきで、前が見えない……

 

「は、急いでくださいっ行宗さん!!もう賢者の時間が切れます!!」

 

「黙っててくださいっ!!分かってますよっ!!でも、妹さんに気遣いながらなんて、脱出よりも先に時間切れが来ますっ!!

 もう一か八か!!ユリィが通り道にいない事に懸けて、皆殺しでこじ開けるしかっ!!」


「ふざけないで下さい!!絶対ダメです!!

 あなたが妹を危険に晒す真似をするなら!!あたしはあなたを殺しますよ!!

 簡単です。魔法を解除するだけですから!!」


「はぁっ!?ふざけてんのはお前だろっ!!くそっくそっ!!くそぉっ!!」


 ズバァァ!!ズバァァ!!


 俺は、発狂しながら、ただただ人を斬り続ける。


 最悪だ…気持ち悪い……気持ち悪い……

 俺は、なんの為にこんな事を……


 


 「わ、私はどうすればいい??行宗ゆきむねくんっ」


 「とりあえず、前に進めばいいの??私も手伝うからっ!!」


 新崎にいざきさんと浅尾あさおさんが、恐怖に震えた声だった。

 二人とも、服は着替え終わっていた。

 

 しかし残念だ、せっかくの可愛い服が、血まみれに染まっている。


 あぁ……くそっ……新崎にいざきさんに、こんな顔をさせたくない…

 新崎にいざきさんに、怖い思いをさせたくない…


 ドガァァン!!


 浅尾あさおさんが、近寄ってくる男の頭を蹴り飛ばした。


 ああ、やめてくれ……浅尾あさおさんには人を殺して欲しくないのだ……

 人殺しの業を背負うのは、俺だけでいいのに……



 視界が暗くなる……身体が重くなる……

 戦え、戦えと己を鼓舞しても、

 手に力が入らない、足が固まって動かない……


 俺はもう、戦えない……

 

「何してるんですか!!行宗ゆきむねさん!!手が止まってますっ!!急いで下さいっ!!」


 俺はリリィさんに、耳元で怒鳴られた。


 うるせぇよ…クソガキ…じゃあ、テメェがやってみろよ……


 あぁ…もうヤダ…疲れた……


 もう、全てどうでもいい……


 あ……


 賢者タイムが終わった……


 



 「いやぁぁぁ!!」


 「まってっ!!」


 次の瞬間、俺達は人込みの中、触手の中へと飲み込まれる。

 リリィさんは、俺の背中から剥がされて、離れ離れにされてしまった。


 リリィさんの魔法が切れた。


 【空気球エアボール】が離散した。

 俺は水中に放り出される。

 息が出来ない、肺の中に水が飛び込み、むせ返ってしまう。


 【火球ファイヤボール】も消えた。

 視界は真っ暗になる。

 賢者の目も消えていて、何も見えない。


 俺はもう、賢者ではない……


 飲み込まれる、飲み込まれる…どこまでも飲み込まれる……


 苦しい…痛い……辛い……



 ああ、ゲームオーバーだ……

 



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