十六発目「オナ〇ーを知らないリリィさん」


 俺は今までの経緯を、リリィさんに説明していった。


 この世界に召喚されて、ラスボスを倒すことになった事。

 俺が、「特殊スキル」とマルハブシの毒の力で、ラスボスを倒した事。

 新崎にいざきさんや浅尾あさおさんと共に遭難して、うどんに飲み込まれてしまった事。


 ただし、俺の特殊スキルについては誤魔化しておいた。

 流石に、10才ぐらいの女の子に、性知識を教えるのは教育に悪い。

 【自慰マスター○-ション】とは、口に出さなかった。


 しかしリリィさんは、その説明が不服だったようだ。




「なるほど、今の状況は分かりました。ですが気になる点が一つ、行宗ゆきむねくんのスキルは、一体何なんですか??」


 俺が話を終えると、リリィさんは真っ先に、俺のスキルにツッコんできた。

 不満そうな青い瞳で、俺を真っすぐに見つめてくる。

 

 説明すべきなのだろうか。

 こんな少女に、オ○ニーについて……

 

 いやいや、マズイだろう。まだ小学生ぐらいのはずだ。


 俺が、どうしようかと悩んでいると、

 ぐーぐーぐー、と、

 リリィさんの腹の虫が鳴った。

 お腹が空いているようだ。

 

 俺はリリィさんに、小籠包しょうろんぽうをご馳走することにした。

 お風呂上りに、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんと、三人で食べる予定だった昼食である。


 リリィさんは、小籠包しょうろんぽうを一目見ると、目を輝かせて飛びついた。

 よっぽどお腹が空いていたのだろう。


 よし、これで話題は逸れた。

 










「んふぅぅぅ!!美味しいですぅ!!ずっと、うどんばっかり食べていた気がするので、美味しすぎて、涙が出てきてしまいます………」


 金髪少女のリリィは、大きな小籠包しょうろんぽうを口に咥えて、涙を流していた。

 こんなに美味しそうに食べられるなら、小籠包しょうろんぽうも本望だろう。

 しかし、うどんを食べていたと言ったか?。まさか。


「リリィさん、まさか【天ぷらうどん】の中で、うどんを食べたんですか?」


「はい……。どちらかというと、食べさせられていた・・・・・・・・・という感覚ですね。

 はっきりとした記憶はないんです……ぼーっとした中で、ぬるぬると身体中をいたぶられ続けるという、まさに悪夢のような……」


「食べさせられていた??」


 どういう事だよ??

 ……ヌルヌルといたぶられ続ける??、なんかエ〇くね??


「これは人から聞いた知識ですが。【天ぷらうどん】というモンスターは、取り込んだ人間に、自身の肉体を食べさせて、人間の出す排泄物を食べると聞きました。

 想像するだけで食欲が減退しますね……。記憶が曖昧で良かったです。」


 は??

 排泄物を食べるって、バクテリアかよ。

 まさか、新崎にいざきさん達も今、同じ状況にいるのだろうか。

 つまり今、【天ぷらうどん】は、新崎にいざきさんたちの排泄物を食べ………

 いや、やめよう。

 スカ〇ロは、俺の性癖の範囲外だ……


「ですので、飲み込まれた人間は、【天ぷらうどん】に生かしてもらえるんです。

 しかし、やがてうどんの一部となり、人間単体での生命活動が維持できなくなってしまいます。

 先ほど倒れていた裸の男のように……

 さらに、魔法装備を着ていない全裸状態では、取り込まれる速度が早くなります。

 行宗ゆきむねさんの友達のタイムリミットは、あと一週間程でしょうか。」


「なるほど……」


 つまり、全裸状態の新崎にいざきさんや浅尾あさおさんは、一週間経てばモンスターの一部となってしまうという事だ。

 そうなれば、生きて外へ出る事は出来ない。

 

 果たして俺は、二人助けられるのだろうか??

 俺は一度失敗している。

 しかも、肝心の【天ぷらうどん】が、何処に逃げたのか分からない。



熱蒸気ホットスチーム


 すると、リリィさんは突然、魔法を詠唱した。

 

 リリィさんの両手から、白い湯気が立ち上った。

 それは、大きな小籠包を包み込むように、熱い蒸気が広がっていく。


 

 やがて蒸気が晴れると、小籠包は湯気を立てて美味しそうに蒸されていた。


 「どうぞ、行宗ゆきむねさんも食べてください。心配は大切ですが、焦りは禁物ですよ。腹が減ってはいくさは出来ません。」


 リリィさんは、小籠包しょうろんぽうの欠片を千切って、俺に手渡してきた。

 


「ああ、ありがとう。…熱っ!!」


 俺は、リリィさんが温めてくれた、ホカホカの小籠包しょうろんぽうを、フーフーと冷ましながら頬張った。

 蒸したての小籠包しょうろんぽうは、口の中で蕩けて、疲れた体に染み込んでいく。


 俺ってこんなに疲れてたんだな。

 思えば俺は、朝起きてから歩きっぱなしだった。

 ずっと極限状態のサバイバルで、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんを失って、絶望状態だった。


 美味い、美味すぎる……

 この味を、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんと一緒に、お風呂上りに食べたかったなぁ……


「う…うぅうぅ……っぅ……美味いよリリィさん……ありがとうっ……」


 俺は涙ながらに、小籠包しょうろんぽうの美味しさを噛み締めた。


 この世界に来てから泣いてばかりだ。死ぬほど辛い事ばかりなのだ。

 クラスメイトと離れ離れになって、ギリギリのサバイバルを強制させられて…


 だが俺は、同じぐらいの幸せを知った。友達や好きな人もできた。

 俺は、新崎にいざきさんと浅尾あさおさん、そしてリリィ姉妹と一緒にご飯を食べたい。

 まだ俺は、みんなと一緒に生きたいのだ。











「あの、リリィさんは、特殊スキルをいくつ持ってるんですか??」


 俺は泣き止むと、リリィさんに素朴な疑問を投げかけた。


 リリィさんは、魔法で何でも出来る。

 乾燥機、洗濯機、電子レンジ、扇風機、エアコンに照明だって、魔法で再現できてしまうのだ。

 一家に一人リリィさんが居れば、ほとんどの家電は必要なくなるだろう。

 もし結婚するとしたら、家事には困らないな。

 それに、無茶苦茶可愛いし。




「実はあたしは、特殊スキルを使えないんです。あたしが使えるのは、応用スキルだけなので……。」


 リリィさんは、暗い顔でそう言った。

 だが俺は、「応用スキル」というのは初耳である。

 なんだそれ??

 クソ仮面男ギャベルは、「特殊スキル」としか説明しなかったぞ?? 


「ご存知ないんですか??

 スキルというのは、大きく分けると三種類あるんです。


 一つ目に、基礎スキルです。

 これは、【火素フレイム】【水素アクア】【風素ウィンド】【土素アース

 の四つのスキルの事を指し、純粋なエネルギーの塊です。

 魔法学校では最初に修得します。

 

 次に、応用スキルです。

 これは、四つの基礎スキルを組み合わせて作られるスキルで、名前のあるものは200個程存在します。

 簡単なものから難しいものまで幅広く。魔法学校では、長い時間をかけて習得していきます。


 基礎スキルと応用スキルは、どんな人でも努力すれば、理論上修得可能なスキルです。

 あたしが使えるスキルは、応用スキルまでの範囲内なんです。


 最後に、特殊スキルです。

 これは、生まれつきの性質や遺伝の影響が強く、資質のない者が幾ら努力しても、修得不可能なスキルです。


 例外として、行宗ゆきむねさんのような、異世界からの転移者は、無条件で一つ以上の特殊スキルを持って召喚されるみたいですが。


 そう言えば行宗ゆきむねさん、あなたのスキルについて、ちゃんと聞けていませんでしたね。

 いい加減教えて下さい。」



 リリィさんのスキル解説に耳を傾けていると、リリィさんは思い出したように、俺の特殊スキルへの追及を再開した。

 金髪ツインテ少女の青い瞳は、俺の顔を正確に捉えて、絶対に逃がさないと訴えている。

 に、逃げられません。


「え…??いや…。リリィさんには言えないです……。大人の話題といいますか…卑猥な話といいますか……」


「何言ってるんですか!?今から救出作戦を立てるというのに、互いのスキルを打ち明けないでどうするんですか!?

 心配ありません。あたしは行宗ゆきむねさんよりも賢くて博識です。さあ白状してください。」


 リリィは、怒った顔で、小さな胸を張ってそう言った。

 子供扱いをすると怒るタイプのようだ。

 だが実際に、彼女は頭がよくて、語彙も豊富である。

 俺よりも賢いのは確かだろう。


「ま…【自慰マスター〇ーベーション】っていうスキルです。分かりますか??オ〇ニーというか…自〇行為というか……」


「なんですかそれ!?…聞いたことないです!」


 リリィさんは、大きな声を上げて身を乗り出してきた。

 ツインテールがふわりと揺れる。

 興味深々の様子である。


 どうやら博識のリリィさんでも、オ〇ニーはご存じないみたいだ。

 ……仕方ない、教えるしかないようだ。


「ええ…と……。【自慰マスター○-ション】というのは、オ〇ン〇ンを、手で〇って、上下に擦っていく行為のことです。

 そして、〇い液〇が出た後、10分間のあいだ、ステータスが3倍となり、賢者となれるのです。」


「え!?たったそれだけでステータスが三倍になるんですか!?有り得ないです!!行宗ゆきむねさん!!やって見せて下さい。」

 

「えぇ!??」


 リリィさんは青い瞳をキラキラと輝かせながら、俺の側へと寄って来た。

 まるで、新発見をした科学者のように、知的好奇心に溢れた眼差しを、俺の下半身へと集中させる。


「まっ!!待って!!勘弁してくださいっ!!恥ずかしいんですっ!!」


「はぁ??何を恥ずかしがってるんですか??緊急事態ですよ。協力する上で、確認しておきたいんです。」


「えっと、その……実はっ!!

 このスキルには、デメリットがあるんです。

 …このスキルを使えば、体力を消耗して、しばらく動けなくなるので、

 本番まで温存したいんですっ!!」


「な、なるほど……むぅぅ……」


 リリィさんは、難しそうな顔で唸り声を上げた。

 俺は、嘘は言っていない。

 実際、先程温泉で一度抜いているから、射〇しづらくなっているだろう。

 よし、何とか、オ〇ニー鑑賞会を回避した。

 性を知らないロリ少女に、見せつけながらというのは、確かに興奮するシュチュエーションだが、

 流石に恥ずかしすぎる。

 それに、大好きな新崎にいざきさんに対して、申し訳ない気持ちもある。


「……分かりました。仕方がないですね……。」


 リリィさんは、残念そうに引き下がった。












「ですが、10分間しか戦えないのは厄介ですね。

 それに、賢者状態でも【天ぷらうどん】のレベルには及ばないので、討伐は諦めるべきです。」


「ですね…」


 リリィさんは、真剣な表情で作戦会議を始めた。

 やはり、討伐というのは現実的でないようだ。


「必然的に、討伐ではなく救出という方針となりますが、

 行宗ゆきむねさんの賢者の力では、「生物の気配」が見えるものの、それが誰なのか、識別出来ないんですよね??

 加えて、水中では呼吸が出来なくなってしまいます。水中戦においては致命的です。」


 俺はコクンと頷いた。

 そうだった。天ぷらうどんは、水の中で戦う必要もあるのか。

 酸素のない水中で、一体どう戦えばいいというのだ。

 リリィさん、まさか解決策があるんですか??


「それなら、「生物の気配」を片っ端から確かめて、三人を探すしかないですね。

 非効率ですが仕方がないです。

 そして、呼吸の問題については、あたしが魔法で酸素を補給するので安心して下さい。

 その代わりに行宗ゆきむねさんは、レベルの低いあたしを守って下さい。」


「そうか!!リリィさんは酸素ボンベにもなれるのか!?」


 俺は、衝撃のあまり声を上げた。

 酸素を出せる魔法、そんなものまであるのか。

 リリィさんが酸素を供給してくれるなら、俺は水中でもフルパワーで戦える。


「人を酸素ボンベ扱いしないでください……

 ……最後に、ボスの居場所についてです。

 【天ぷらうどん】の本体は、狩りの場合を除き、洞窟内には存在しません。

 洞窟内から隔離された、満杯の水と大量の麺に埋め尽くされた、密室空間に潜んでいます。

 そこに、きっと三人は捕らえられてるはずです」


 「え?洞窟内にいないなら、助けに行けないじゃないですか!?」

 

「いえ、一つだけ方法があります。

 【天ぷらうどん】の狩場から侵入するルートです。

 【天ぷらうどん】は、小さな穴で繋がった洞窟内の狩場・・・・・・へと、自身の肉体の一部を送り出し、温泉おんせんのフリをして、人間を誘い込むモンスターです。

 つまりすぐそこ。温泉の跡地・・・・・のどこかに【天ぷらうどん】の脱出経路がある筈です。その道を辿っていきましょう。」


 リリィさんは、先程まで温泉があった場所、円形にあいた大きな窪みを指さした。

 新崎さんと浅尾さんと共に、入浴していた場所である。


 「本当ですか!? ですか、先ほど探しても、穴なんてありませんでしたよ?」


 俺は既に、うどんが逃げられる穴がないかと探している。

 しかし、そんな穴は見当たらなかったのだ。


 俺はもう一度、洞窟の跡地を確認していったり

 隈なく探してみるも、穴らしきものはない。


「【天ぷらうどん】もバカではありません。当然、穴は埋めておくでしょう。ですが、一度掘られた土は柔らかいものです。

 行宗ゆきむねさんの賢者状態でのステータスなら、水の中を泳ぐように潜れるはずです。」


 リリィさんはそう説明した。

 リリィさんの話は、とても説得力がある。

 土の中を泳ぐなど、可能なのかと不安になるが、リリィさんが言うならそうなのだろう。

 とても頼りになる。小さいのに凄い人だ。

 だから俺は、彼女に対して敬語を外せないのだ。




「ありがとうございます。リリィさん」


「いえいえ。お礼を貰うのはまだ早いです。

 私達は運命共同隊ですから、片方がやられれば、共倒れでみんな死にます。

 生きて無事に帰れたら、その時にお礼を言い合いましょう。」



 リリィさんは、明るい笑顔でそう言った。

 そうか、俺たちは協力関係なのだ。

 酸素供給係と、戦闘護衛係。

 どちらかが倒れれば、ゲームオーバーになる関係。

 リリィさんは俺に、命を預けてくれているのだ。

 互いに命を預けて、背負う関係。  

 そんな中でも、リリィさんは笑顔で、俺を安心させてくれる。


「そうですね。ありがとうリリィさん」


 俺はやっぱり、彼女に感謝をした。











「さて、お腹は膨れましたか??」


 リリィさんは、腰を持ち上げて立ち上がった。


「はい」


 俺も立ち上がった。お腹いっぱいで元気100倍だ。


「では、虫などが寄らぬように、残った小籠包しょうろんぽうは凍らせておきます。【冷凍フローズン】」


 リリィの魔法によって、周囲は冷気に包まれ、小籠包しょうろんぽうは霜に包まれて冷凍保存されていく。


 リリィさんは万能だ。今回は冷蔵庫になってしまった。


 リリィさんには、特殊スキルが使えないというコンプレックスがあるようだったが、

 俺から見れば、リリィさんの多彩なスキルが羨ましすぎる。


 是非、俺の特殊スキルと、交換して貰いたい。

 いや、【自慰マスター〇ーション】スキルなんて、リリィさんは欲しがらないか。




「すぐに出発しよう思いますが、心の準備はいいですか?」


「はい!!万端です!!」


 俺は、気持ちを引き締めた。

 今から、命がけの救出劇が始まるのだ。

 俺はリリィさんを守りながら、三人を助け出す。

 新崎にいざきさんと浅尾あさおさん、リリィさんの妹の三人である。

 絶対に失敗できない。










 「では、作戦開始です。

 さあ、行宗ゆきむねさん、オ〇二ーを始めて下さい。」


 「あ、はい……

 ………アノ、向こうに行って、シ〇ってきますね。恥ずかしいので見ないでください。」


 「見てみたいのですが……我慢しますよ、残念です。」


 露骨に肩を落として、ガッカリとするリリィさんを置いて、俺は洞窟の隅へ駆け込んだ。

 そしてズボンを下ろす。


 なんだか締まらないが、これも立派な作戦段階フェーズなのだ。

 心して挑まなければならない。


 俺は、服の山から漁ってきた、新崎にいざきさんの下着を手に取った。

 白いふわふわの、新崎にいざきさんのパン〇ィである。

 少しシミのあとがあるが、洗濯は済んでいる。新崎にいざきさんも許してくれるだろう。きっと。


 俺は、綺麗に広げると、恐る恐る顔を近づけていった。

 やがて俺の顔面は、ふかふかの布で包まれる。


 すーーふーー。


 俺は深呼吸をした。


 ほのかな潮騒の香りがする。

 リリィさんの洗濯では、洗剤を使っていないので、微かな匂いが残っている。


 息子が起き上がるまでに、たいした時間はかからなかった。

 

 




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