十四発目「全裸フル〇ン賢者様」


 ー万浪行宗まんなみゆきむね視点ー


 ふー。落ち着くなぁ…

 俺は温泉が大好きだ……

 昨日からの筋肉痛や、悩みや不安もどうでも良くなるくらいに気持ちいい……

 反対側では、新崎にいざきさん達も、ゆっくりと温泉に入っているのだろうか??


 しかし不思議な事に、あまり興奮はしていない。声も聞こえないし姿も見えないからかもしれないが…

 温泉の湯が気持ちよすぎて、エロい気分にならないのだ……


 昨日から色々な事があって、学校でずっと陰キャだった俺には、刺激の強い事が続いた…

 

 新崎にいざきさんには、ドキドキしてばかりだな。

 でも不思議な事に、新崎にいざきさんと話す時に、俺は緊張をあまりしないのだ。


 あり得ないと思う。片思いの相手で、オ〇ニーを見られた相手なんて、陰キャの俺なら恥ずかしすぎて、目すら合わせられない筈なのに…


 新崎にいざきさんはそれでも話しやすい。


 はぁーーー。このままの関係が続いて欲しいなーー


 俺は、それだけでいいと思う。

 別に、付き合わなくてもいい気がしてきたのだ。

 今みたいに、新崎にいざきさんや浅尾あさおさんと他愛のない話をするだけで、俺にとっては十分に楽しいのだ。


 今の俺なら学校の教室に戻っても、ちゃんと楽しく生活出来る気がする。

 このクラスには、いい人が沢山いるのだ。

 俺が心を閉ざしていただけで、俺はちゃんと恵まれていたのだ。


 俺達のクラスをぶち壊したのは、この世界にクラスメイトを連れてきた奴ら、ギャベルとシルヴァである。

 全てあいつ等のせいなのだ。

 名前は確か、マナ騎士団とか言ってたよな。


 あー。まあいい、考えるの疲れた…



 


 ヌルッ……


 !!??

 俺は突然、ヌルヌルとしたものに巻き付かれた。


 ヌリュリュリュリュ!!


「は??なんだよこれっ!!?」


 突然、温泉の床が、粘土みたいに柔らかくなったのだ。

 そして、幾つもの白くて太い柱が天に向かって伸びていく。


 白くて太い大蛇達が、湯を撒き散らしながら暴れ回る。

 それを表すの言葉はたった一つだ。


「触手??」


 しかしそれは、触手と言うにはあまりにも太い。

 サッカーボール程の太さがある。

 巨人用かな??


「きゃあぁあぁ!!」


 岩の向こうから、浅尾あさおさんの悲鳴が聞こえた。

 まずい、こいつモンスターか!?

 最下層のモンスターなんて、俺たちじゃ敵わないぞ?

 死ぬ、のか?


ギュルルルルルルルル!!


 そして、周囲の触手が勢いよく巻きついてきた。

 俺の身体はグルグルに締め付けられていく。



 しかし、俺は何とか、股間に右手を添える事ができた。

 もう、これしかない。

 【自慰マスター〇ーベーション】スキルしか勝機はないだろう。

 急いで済ませなければいけない。

 このままじゃ、窒息する。


 「助けて!行宗ゆきむねくん!!」


 新崎にいざきさんの叫びが聞こえた気がした。

 助けないといけない。


 俺は、触手に口を塞がれながら、右手を上下に振りしだいた。

 あまり乗り気では無かったが、命がけでヤルしかない。


 うおおおおおおおぉぉおおおおおお!!!どりゃぁああああああああああああああああ!!!!!


 俺は、新崎にいざきさんの姿を想像した。


 裸で触手に囲まれるプレイなんて、興奮しない訳が無い。


 太くてヌメった触手に、新崎にいざきさんのあそこがあーなって、あっちはこうなって……

 よし!大丈夫だ、イける。


 早く!!もっと早く!!急げ!!急げ!!いそげぇぇ!!!


 俺は感覚を高めながら、右手を振りしだき、頂点へと登っていった。


 どばぁぁぁ!!


 と、俺は全てを解き放ち。


 賢者となった。











 バシャァァァ!!!


 俺は、周囲の触手を切り裂いて、空中へと飛び立った。

 賢者の力で、俺のIQが跳ね上がる。

 全身が白い光に包まれて、力が漲ってくる。

 

 ただしフル〇ン、全裸である。

 俺は裸で空を飛ぶ、風がスースーして落ち着かない。

 しかし気にしている場合ではない。


 俺は高く飛び上がると、モンスターの名前をHPバーを発見した。

 

 モンスター名 【Tenpura Udonテンプラウドン

 

 いや、天ぷらうどん。って、ふざけてんのかよ。

 食べ物シリーズはもういいんだよ。


 大きな円形の温泉の中に、図太いウドンが触手のように動いている。


 その真ん中の大きな三つの岩が、鮮やかな薄茶色に染まっていく。

 ロケットの形で、表面がザラザラしていて……

 

 いや、エビフライじゃねぇか。



 

 さて、まずは互いの力関係を調べていこう。


 俺のレベルが52×3倍で、156レベル。

 「天ぷらうどん」のレベルは、203レベル。


 あれ?俺のレベル高くね??

 そうか、俺の基礎レベルが、27レベルから52レベルに上がっているのだ。

 

 そうか、ラスボス討伐によって得た経験値で、レベルアップをしたのだ。

 まだ、50レベル近くの差があるが、もしかしたら殺れるかもしれない。


 そして、空中からこのボスの攻撃判定を見る。

 レベル差のせいで上手く見えないが、うどんの集合体の中に、生き物の気配が強い場所が、五か所ある。


 五つの内の二つの気配は、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんだろう。

 大丈夫、まだ生きている。


 しかし判別が出来ない。

 ボスの急所と、新崎さん達の存在の、見分けがつかないのだ。


 くそ…これでは無闇に剣を振れない。

 新崎にいざきさんと浅尾あさおさんを巻き込んでしまう可能性があるからだ。


 危険を伴うが、近づいて確かめるしかない。

 ボスの急所を探して……


 いや違う、倒さなくてもいいじゃないか。

 さっきと同じだ。二人を見つけて、助け出すだけでいいのだ。

 ボスを倒す必要なんてない。


 


 くそ、しらみ潰しに探すしかないな…


 俺は、一番近い「生き物の気配」へと突っ込んでいった。


 周囲から、触手達が俺を飲み込もうと襲ってくる。

 

 「新崎にいざきさん!!浅尾あさおさん!!」


 俺は彼女たちの名を叫びながら、図太いうどんを一刀両断する。


 ズバァアア!!


 しかし、それも一瞬のことだ。

 斬られたうどんは粘土のように形を変えて、本体へと合体していく。

 

 なるほど、このボスの「うどん」に、実態はないのか。

 ただ、操られているだけ。 

 幾らうどんを斬っても、すぐに繋がってしまう。


 「くそぉぉ!!」


 俺は、白い聖剣で、無理やりうどんをこじ開けていく。

 俺の前には、うどんの壁が作られて、ちっとも前に進まない。


 マズイマズイマズイ!!

 俺は、あの二人を失う訳にはいかないのだ。絶対に。

 岡野大吾おかのだいごの夢を否定してまで、生き返らせた二人だから。


 でも、俺の剣は届かない。












 ゴォオオオ!!!


 突然、大地が唸った。

 そして、


 ズズズズ………


 温泉の中に、大きなお湯の渦が出来た。

 それが、どんどんと大きくなっていく。


 ゴォオオオ!!!!


 この感じ、見覚えがある。

 お風呂の栓を抜くときと同じだ。


 温泉の中心に穴が空いたのだ。

 温泉の水と、天ぷらうどんの麺が、穴の中へと飲み込まれていく。

 

 同時に、5つの生き物の気配も、穴の中へと吸い込まれていくのだ。


 (まずい、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんが、穴に引きずり込まれる!!)




 ズバッ!!ズバッ!!ズバァァァ!!!


 俺は必死に剣を振った。


 ザバァァ!!


 と、水の中へと飛び込んで、視界がぐちゃぐちゃになる。


 水の抵抗の中で剣を振り続けて、どんどんと息が苦しくなってくる。


 でも、でも二人の方がもっと苦しいはずだ。

 死なせてたまるか。生きて皆で帰るって、約束したんだ!!!

 俺は涙ながらに、生き物の気配を追いかけていった。


 そして俺は、ようやく辿りついた。


 俺は、うどんに埋め尽くされた壁から飛び出した、2本の手を見つけた。

 

 良かった!!見つかった!!


 俺は酸素欠乏の中で、二人の腕を救出した。

 そして、頭がぼーっとする中で、二人を抱えて水面へと浮上していく。


 かなり息が苦しい。

 賢者と言えども、酸素がなければ死んでしまう。

 いやむしろ、エネルギーを多く消費するため、酸素の消費も早く、すぐに息が切れてしまう。


 ザバァァ!!!


 俺は何とか水面から浮上した。

 そして、温泉の外へと二人を連れ出していく。


 二人の服が脱いである場所にたどり着いた。

 

 同時に10分が経ち、俺の賢者スキルが切れた。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 俺は2人と共に、その場にバタリと倒れ込んだ……









「…ハァ、ハァ、ハァ……」


 危なかった……


 俺は、自分の呼吸の音しか聞こえなかった。

 周囲は異様なほど静かで、風が吹き抜ける音だけが聞こえる。



 あれ?

 水中では見る余裕が無かったけど

 今、俺の隣に倒れている二人は、どちらも素っ裸なんだよな?!


 まあ俺も同じく素っ裸なのだけど…これ絵面的にまずくないか?


 クラスの男女が裸で3人、何も起こらないはずがなく……

 

 顔を上げていいのだろうか。

 俺は今、地面に顔を突っ伏しているのだが。

 二人の裸を見てもいいのだろうか??


 いやダメだろ、流石に変態が過ぎる。


 もちろん見たいよ。見たいけれど、

 それで嫌われてしまうのは嫌だ。

 ただでさえ新崎にいざきさんには、俺のあらゆる変態行為を見られているのだ。

 これ以上、変な事をすれば、ほんとに幻滅されてしまう……


 結局俺は、目を瞑ったまま、じっと顔を突っ伏していた。


 ん??


 2人とも動く気配がない…

 それどころか、生きている気配がしない。

 まるでもう、死んでいるみたいに…


 あれ??

 これヤバいやつ??


 心配停止、心臓マッサージ、人口呼吸、AED、救急車、集中治療室……


 俺は飛び起きた。


 そして…愕然とした……










 そこには、新崎にいざきさんも浅尾あさおさんもいなかった。


 俺の隣に倒れていたのは、知らない二人だったのだ。

 

 右隣には、裸の男が倒れていた。

 かなり体がゴツイ、スポーツ選手だろうか??


 左隣には、白い服を着た幼い子が倒れていた。

 金髪ツインテールの、恐らく女の子であろう。


 二人とも水浸しで、地面に突っ伏していた。




「あれ??…新崎にいざきさん?……浅尾あさおさん??」


 俺は、目の前の光景が信じられなくて、体をガタガタと震わせながら後ろを振り返った。

 

「え??」

 

 そこにあったはずの、温泉がなかった。

 

 そこにはただ、お椀型の大きな穴だけが残っていた。


 あれ??え???


 俺は、頭が真っ白になった…


 助け出したはずの二人は、全くの別人だった。

 そして、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんは、おそらく穴に飲み込まれたまま…


 …………!!


「おぇ"ぇええ!!」


 俺は、その場で嘔吐した。

 涙がボロボロと溢れ出す。


 二人を助けられなかった事への後悔もある。

 でも、それよりも……


 「置いてかないでよ……新崎にいざきさんっ…浅尾あさおさんっ…!!」


 俺が一人ぼっちになった事への、寂しさの方が大きかった。


「ううぅうううぅ!!」


 居なくなった事で実感する、新崎にいざきさんと浅尾あさおさんが傍にいる事の心強さ。安心感。

 俺が二人にどれだけ助けられていたのかと、よく分かった。

 

「どこっ……?どこにいるの??…帰ってきてよ……直穂なおほ…」


 俺は、新崎直穂にいざきなおほを名前で呼んだ…

 そうしたら、更に悲しくなってきて…

 俺は大きな声で泣いた。











 「ううん……ふぁぁ……ママ……」


 俺が泣き疲れて、その場にうずくまっていると、

 傍で可愛い声がした。

 顔を上げて見てみると、俺がうどんの中から連れ出した白い服の女の子であった。


 (生きていたのか……白服の子…新崎にいざきさんと浅尾あさおさんが、生きていたら良かったのに……)


 俺はそんな非道いことを考えてしまう。


 歳は、小学校高学年くらいだろうか。

 金髪ツインテールの、あなどけない顔の女の子である。


 水に濡れた白い服が、幼いカラダの透けさせて、とてもシコリティが高い。

 別に、俺は別に、現実リアルではロリコンという訳ではないのだが…ないのだが…

 二次元だけは別である。


 俺の推し、メスガキ系VTuber【白菊ともか】ちゃんだ。

 アニメ顔の強気な女の子は、俺の性癖にどストライクだ。


 目の前の金髪少女は、ともかちゃんのルックスに似たものを感じる。

 アニメ顔というか、童顔で可愛らしいのだ。


 まあ、新崎さんの可愛さには遠く及ばないがな……


 夢のような時間は…もう終わってしまった…

 もっと早く、新崎さんと仲良くなっていたかったな…

 


 「うん?…んん……ふぁあ……」


 俺が動けないでいると、目の前の女の子はゆっくりと起き上がった。

 そして座り込んだまま、ゴシゴシと濡れた目を擦る。

 その女の子の手には、黒い腕輪がついていた。


 「起きたか…おはよう…」


 俺は彼女に、掠れた声で挨拶をした。


 どんな時でも、挨拶は大切だ…

 挨拶とはコミュニケーションの第一歩だ。

 

 もしかしたら、この女の子は、俺の知らない事を知っているかもしれない。

 例えば、現実世界に帰る方法とか、離れ離れになったクラスメイトと再会する方法とか。

 死んだかもしれない友達を、生き返らせる方法とか…


 まあ、この女の子がとんでもなく悪いヤツの可能性もある。

 俺はつい昨日、仮面男ギャベルとシルヴァ様に騙されたばかりだ。


 でも、俺はこの女の子を頼るしかない。それだけは確かだ。

 



「んん、おはよ…」


 女の子は、眠そうな目で俺に挨拶を返してきた。

 返事してくれた!!

 やっぱりこの子はいい子だ!


「おはよう!大丈夫!?元気??」


 俺は嬉しくなって、大声で彼女を呼んだ。

 女の子はビクリと驚いて俺を見て、そしてさらに驚いた顔をした。


 そして、身体をブルブルと震わせたと思ったら……


 俺に向かって飛びかかってきた。


 「いやぁぁぁ!!変態っ!!」


 ドゴホォォォッ!!


 「ぐはぁぁぁぁ!!?」


 俺の股間に、容赦のない蹴りを入れた。


 玉袋がぐにゃりと歪み、全身に激痛が駆け巡る。

 

 「このド変態がっ!!毒か??魔法か!?お前の汚らわしい愚息で、寝ているあたしに何かしたのか!?あたしが誰だか知っての狼藉ろうぜきか!?」


 ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴォォ!!


 金髪ツインテ少女は、その童顔に似つかわしくないドスの効いた怒号で、俺の股間に蹴り続ける。


 ぜ、前言撤回……やっぱコイツ…悪い奴だわ……

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