十一発目「苦い〇〇キスの味」

 

 新崎にいざきさんと浅尾あさおさんは、俺が気絶していた間にあった事を話してくれた。


 俺は、岡野おかのにやられて死の間際を彷徨ったが、この二人に助けられたという話。

 ボス部屋は消滅して、外にいた俺達は、ダンジョンの中に取り残されてしまった。という話。

 眠気と寒さから、三人で添い寝をする事になった話。


 俺はそれを聞いて、色々な感情を抱いたけれど、

 そのほとんどが、重い後悔だった。



「………俺は選択を、間違えたのかな………??」


 俺は、後悔をした。

 クラスメイトは消えてしまい、俺達は洞窟の中に取り残された。

 今は生きているものの、こんな場所で、これから生きていける保証はないのだ。


(お腹も空いた、喉も乾いた、まだ身体が痛む……)


 こんな所に、レストランや自動販売機があるはずもなく、このまま俺達は、近いうちに飢え死ぬだろう。


「ごめん、せっかく二人を助けたのに、これじゃぁもう……」


 二人のどちらかを見捨ててでも、現世に帰る選択をしておけば良かったのかも知れない。

 いや、違うな…もっと前だ。

 俺が始めから、【自慰マスター〇ーション】スキルを使っていれば、誰も死なずに済んだのだ。


「ごめん……ごめんっ……俺のせいだ……俺が始めからスキルを使っていれば………」


 俺が後悔にさいなまれて、地面を見つめながら二人に謝罪をした。




「………ばっかじゃないの、悲劇のヒーロー気取りのつもり?」


 すると、新崎にいざきさんがやってきて、俺は胸倉を掴まれた。

 そうして、グイッと引き寄せられて顔を上げると、新崎にいざきさんと目が合った。


(近っ!?)


「あなたはボスを倒した!クラスの皆を助けた!私達の命を助けたのよ!?ほら、私の心臓!まだ動いてる!私達がまだ生きてるのは、行宗くんのおかげなんだよ!」


 新崎にいざきさんは、俺の腕を掴んだ。

 そして俺の手のひらを、自身の胸の真ん中へと強く当てた。


 流石に、胸に触れただけで、心臓の鼓動なんて分からないけれど。

 その想いは強く伝わってくる。

 新崎にいざきさんがこんなに叫ぶのなんて、初めて見た気がする。

 隠すことなく本心をぶつけてくれているのだ。

 俺は、新崎にいざきさんの気迫に圧倒されて、息を飲んだ。


「だから、私達は生きなきゃダメなの。行宗ゆきむね君が助けてくれた命だから!無駄になんて出来ないからっ………!ありがとう……本当にありがとうっ………す…………かっこいいよ……」

 

 新崎にいざきさんは、俺の手を両手でギュッと握りしめながら、泣きそうな目で俺を見つめる。

 感謝をされた。助けてくれてありがとう、と。だから生きなきゃ駄目だ。と。

 ああ、新崎にいざきさんはなんて優しい人なのだろう。

 その通りだ、まだ誰も死んでいないのだ。

 クラスメイトは消えてしまったけど、死体を見たわけじゃない。

 まだ俺の選択は、間違っていたとは言えないのだ。

 とりあえずこの三人で、生き延びよう。

 そうすれば俺の選択は、間違いでなかった事になるから。 

 諦めたらそこで試合終了って言葉もあるじゃないか。

 俺は二人を助ける選択をしたのだ、だからその選択に最後まで責任をもたなければいけない。二人を死なせる訳にはいかないのだ。

 よし、大丈夫だ。俺はまだ前を向ける。


「俺の方こそ、ありがとう……。

 ……助けてくれてありがとう。新崎にいざきさん、浅尾あさおさん…」


 俺は、岡野大吾おかのだいごから俺を逃し、回復してくれた二人へと、感謝の言葉を重ねた。

 互いに助けて助けられた。これからもそうやって、絶対に生き延びるのだ。




「……うん。私もね、凄く感謝してるよ。生き返らせてくれてありがとう、行宗ゆきむね君!」


 今度は浅尾あさおさんが優しい笑顔で感謝の言葉をくれた。

 笑顔で感謝されると、無茶苦茶明るい気持ちになれる。

 嬉しい、嬉しいな……

 こんな絶望的状況だけど、俺は今、幸せを感じている。

 浅尾あさおさんも新崎にいざきさんも、すごく優しい人だ。

 話していると、心がポカポカと暖められる。

 

「ありがとう……。絶対に三人で生き延びて、クラス皆であの教室に帰ろう。俺は、二人を生き返らせる選択をしたんだから!」


 俺は自分自身を鼓舞するように、これからの目標を口にした。


「もちろん!」

「うん!」


 新崎にいざきさんと浅尾あさおさんも力強く頷いた。

 掛け声というものは便利である。

 どんな窮地きゅうちに追い込まれても、自然と大丈夫な気がしてくるのだ。

 前を向きなおして、一歩を踏み出す勇気が湧いてくる。


 クラスの女子二人とハーレムしながら、過酷なダンジョンで生き延びるサバイバル。

 天国か地獄か分かりゃしないが、俺の中にあった後悔は、少し和らいでいた。





















「さーてっ、お腹減ってるっしょ。朝ごはんにしよ!」


 浅尾あさおさんが両手をパチンと叩いて、提案をした。

 そして、傍にあったバックの中に手を突っ込んで、ガサガサと何かを取り出した。

 朝ごはんなんて、持っているのだろうか?


「じゃーん!解毒ポーション!!」

「えぇ……」


 俺は思わずため息を漏らした。

 

「なによそのため息。コレしかないから仕方ないじゃん。ほら飲んで!」


 浅尾あさおさんは、俺の手に解毒ポーションを手渡した。

 この味、苦手なんだよなー。

 濃厚な苦味の不協和音ディスコードというべきか、

 まあ、仕方ない。喉が渇いているのだ。背に腹はかえられない。


 ごく、ごく、ごく、


 俺は解毒ポーションを、ゴクゴクと飲み込んでいく。

 紫色の液体が俺の食堂を通り、胃の中へと入っていく。

 不味い……

 俺は思わず顔を顰めてしまう。

 苦いっ、苦すぎる………!!

 だがしかし、悔しいが効果は本物だ。

 飲み始めた途端に、空腹感は満たされていき、喉の渇きも潤っていく。

 

「あ、そうだ。半分くらいは残しておいてね。」


 浅尾あさおさんの言葉に、俺は慌てて飲むのをやめた。

 そして、既に腹一杯であった事に気づく。

 解毒ポーションで空腹を満たせる理屈はわからないが、このポーションを現代で売れば、かなりの額になるだろう。


「じゃあ、次は直穂なおほちゃんね。」


 浅尾あさおさんは、そう言いながら、俺に右手を差し出してくる。

 俺は何も考える事なく、浅尾あさおさんが差し出した右手に、半分残った解毒ポーションを手渡した。


「ほら、直穂なおほちゃん、好きなだけ飲んでいーよっ。」

「えっ?」

「ほら、お腹空いてるでしょ?昨日も、行宗くんの回復を必死に頑張ってたし」

「ん……んまあ…お腹は空いてるけどさっ……」


(え??)


 新崎にいざきさんは浅尾あさおさんの手から、俺が口をつけたポーションの瓶を受け取った。


(え??まさか!!飲むんですか新崎にいざきさん?俺の飲みかけを!)


「え……いいんですか?間接キスじゃ……」


 あっ!!しまった、つい口に出してしまった。

 新崎にいざきさんは、ビクッと身体を硬直させ、ギョッとした顔で俺を見る。

 マズイ、これで気づかれてしまったか。

 何も言わなければ、そのまま間接キスをしてくれていたのに!!

 くそっ、言わなきゃよかった!

 


「だってさー、新崎にいざきさんはどう思う??別に間接・・キスくらい、気にしないよねー?」

「あ……あたりまえでしょっ、バカバカしいっ」


 二人がそんな会話をする。

(え?気にしないの!?)


 新崎にいざきさんは、ポーションの瓶の口に唇をあてがい、勢いよく瓶を傾けて、ゴク…ゴク…ゴク…と、解毒ポーションを飲み込んでいく。

 嘘だろ!?気にならないのか!?

 マジで間接キスじゃないか!?

 間接キスとは、すなはち二人の唇が間接的に触れ合う事象である!!

 新崎にいざきさんが口をつけた瓶には、俺の唾液がついている。

 つまり今、新崎さんは俺の唾液も一緒に、飲み込んでくれているという事。

 つまりコレって、実質ディープキスなんじゃないか!?

 いや、新崎にいざきさんの喉の動きエロ過ぎだろ!?


 気が付くと、俺の息子は背筋を伸ばして立ち上がっていた。

 まずい。流石にコレ・・を、二人に気づかれる訳にはいかない。

 くそっ、収まれ!収まれ!!

 そう思う程、パンパンに膨れ上がってしまう。


「どう?直穂なおほちゃん。美味しかった?」


 浅尾あさおさんは、ニコニコとした笑顔で新崎にいざきさんに味を訪ねた。


「苦いわよ…すっごく…もうお腹一杯……」


 新崎にいざきさんは小声で呟き、少し残った解毒ポーションを、浅尾さんに差し出した。


「ん、ありがと」


 浅尾あさおさんは、新崎にいざきさんから瓶を受け取ると、残った分を一気にゴクリと飲み干した。


「ぷはぁ…。うへぇ、マズ…」


 浅尾あさおさんは、おっさんみたいな溜息をついて、空の瓶を地面に置いた。

 浅尾あさおさんは、男っぽいというか、サバサバした女性だ。でも可愛いのだ。だからクラスの男子にモテる。

 根が優しくて、明るいから、自然に過ごしているだけで、男子を魅了してしまうのだ。


 まあ新崎にいざきさんも、性格の良さでは負けてないけど。

 うんホントに、俺なんかじゃ勿体ない女性だよな……

 この三人の中で、俺だけがパッとしていない。




「さて、これで私達は、同じ釜の飯を食べた仲間って訳だけど、私達の食料は底をつきました。何か食べ物を探さないといけません。」


 浅尾あさおさんが、そう言った。


「とりあえず動きましょ。洞窟の出口を見つけるにしても、動かない事には始まらないわ。」


 新崎にいざきさんがそう言って、腰を起こして立ち上がった。


「よいしょっと」


 次に、浅尾さんも立ち上がる。

 さて、最後に俺が立ち上がる時が来た。

 しかし、ここでトラブルが発生する。

 俺はこのままでは立ち上がれない。

 なぜなら股間にテントが張っているからだ。

 このまま立ち上がれば、俺の下半身が興奮している事がバレてしまう。

 

「どうしたの?行こうよ。」


 新崎にいざきさんが、俺を見下ろしながら不思議そうな顔をする。

 ごめんなさい、俺も出来る事なら立ちたいんだ。でも立てないんだ。

 息子の方は、元気に立ち上がっているけれど、それを知られる訳にはいかないのだ。

 くそっ、どうしよう……

 俺がしゃがんだままでいると、新崎にいざきさんが俺の前で座りこみ、優しく右手を差し伸べてくる。


「ほら、握って。」


 くそぉ、こんなの立つしかないじゃないか!

 俺は恐る恐る、新崎にいざいさんの右手に右手を重ねた。

 その手はひんやりと冷たかった。

 俺は、もうどうにでもなれ!と思い、正々堂々と立ち上がることにした。


 ここでもし恥ずかしがるしぐさをすれば。気遣いの上手い新崎にいざきさんは、俺の下半身に気づいてしまうだろう。

 それだけは駄目だ!

 俺は、胸を張って堂々とした態度をつくり、新崎にいざきさんの手に引かれながら、ゆっくりと立ち上がった。 

 新崎にいざきさんの手は小さくて、指も細くて綺麗だった。



行宗ゆきむねくんの手、思ったより大きいんだね。」


 すると新崎にいざきさんが、興味深々に俺の手を見て、俺の指や手のひらを、グリグリと弄りはじめた。

 うそっ!?、くすぐったいっ……それに手つき、エロすぎるだろっ……これ、なんてプレイですか??

 俺の手指をサワサワと撫でまわす新崎にいざきさんに、俺は興奮してしまった。

 もし、俺のこの手・・・・を、股間・・に置き換えたとしたら、同じように新崎にいざきさんは興味を持ってくれるだろうか?

 ………

 ……いやマズイ。これ以上の妄想はやめておこう。

 いよいよ下半身が暴走する。起立した息子が見つかってしまう。


「じゃあ、いこうか。」

「う、うん」


 そんな言葉を交わして、名残り惜しくも、俺は握った右手を離した。

 そして三人で、洞窟の闇の中へと出発した。

 幸運な事に、俺の股間の膨らみは気づかれる事がなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る