第二膜 ドキドキ♡異世界ダンジョンハーレム編

十発目「ドキドキ♡異世界ダンジョンハーレム」

 ボス部屋にて、二人生き返らせる選択をした行宗ゆきむねが、岡野大吾おかのだいごに殴られて、気絶した直後の場面。

 

 (生き返った直後の)

 ー浅尾和奈あさおかずな視点ー


 ★★★



 

 


(眠い…くそ眠い…)

 私は、ぐっすりと眠っていた。

 眠っていたのに、周囲がやけに騒がしい。


 ドゴォォォ!!

「やめろ大吾だいご!!」

「良かったっ!!なーちゃん!」

「いやでも、現実世界へ帰れなくなっちまったんじゃない?」

「やめろよ!それ以上は死んじまうって!!」

「クソ野郎っ!ゆるさねぇ!」


(なに?クラスの皆??うるさいよ……寝られないじゃないっ!…)


和奈かずなちゃん!!良かった!!生き返ったっ!!」

「うるせぇって言ってんだろ!!まだ眠いんだよ!」


 気づくと私はそう叫び、声のする方に向かって、拳を振っていた。

 

「あ、ごめん」


 ボゴォォン!!!


「うぐぅっ!!?」


 気づいた時にはもう遅かった。

 私の一撃は、私の親友の、五十嵐真中いがらしまなかの顔面へとクリーンヒットしていた。

 またやってしまった……


「うわっ!!真中まなかっ!?ごめんなさいっ!!」

「イテテ……。痛いっけど…大丈夫…。和奈かずなの寝起きの悪さを忘れてたよ」

「ホントごめん。、無理矢理起こされると、つい手が出ちゃって…」

「それよりもっ!!生き返って良かったよぉぉーー!!かずなぁああ!!」


 五十嵐真中いがらしまなかは嬉し泣きをしながら、私にぎゅっと抱きついてくる。

 

(え??何言ってるの??真中まなか。生き返ったって、どういう事??


 私は、真中まなかの突然の言葉に違和感を覚え、自身の記憶を探っていった。

 ……あ……そうか、思い出した。

 …私はあの時、大吾だいごを庇って、お菓子のボスに殺されたんだ。


(!!?)

 途端に吐き気が襲ってくる。

 フラッシュバックだ。痛い!苦しい…!

 視界が暗転してから、大きなドーナツに、身体を叩き潰される痛みを思い出す。

 身体がガクガクと震えてしまう。

 怖い、怖い、怖い…


 あの時は、毒のせいで頭がぼんやりしていたけれど、

 よくもまあ、人を庇って自分は犠牲になるなんてマネができたな。と、不思議に思う。

 今の冷静な私には、とてもじゃないが怖くてできない。


 自分を犠牲にして人を助ける、って、ダサいけどカッコいいよね。


 それにしても、生き返ったってどういう事だ??

 ボスはどうなったのだろう?毒は無くなったのだろうか??

 私は、真中まなかに質問を投げかけた。



「私は生き返ったって事?、私が殺された後、何があったの?男子共は、なんであんな騒いでんの?」


 男子たちは、叫んだり怒鳴ったりして、もうめちゃくちゃである。

 そんな中、五十嵐真中いがらしまなかは、思い出すような素振りをしながら、ゆっくりと話し出した。


「あのね。あの後すぐ、新崎にいざきさんが殺されて、万浪まんなみくんが強いスキルでボスを倒して、宝石の力で、和奈かずな新崎にいざきさんを生き返らせたの。

 でも、二人を生き返らせたぶんで宝石を使い切ったせいで、元の世界に帰れなくなったから、岡野大吾おかのだいごがキレて大変な事になってるの」


「はぁ!!?マジで!?」


 新崎にいざきさんが死んで!?万浪まんなみくんがボスを倒した??

 それで私は生き返って、大吾だいごがキレてて…なるほど…。

 私は、男子たちの方へと、注意を向けた。



「やめろよっ!!元の世界に帰る方法なんて探せばいいじゃねぇか!!」

「黙れモブ!!俺がどれだけの想いで、野球選手を目指してると思ってる!!」

「全員生きてるんだけでいいじゃねぇか。お前が暴れれば死人が出る!!」

「やめてっ!!みんな落ち着いて!!」


 男子たちは、岡野大吾おかのだいごを中心に、特殊スキルをぶつけ合って争っている。

 血を流す者、泣き喚く者、吹き飛ばされる者がいて、いつ誰かが死んでもおかしくないような激しい戦場だった。

(まったくっ!何やってんのよっ!!)




「邪魔するならブチ殺すぞ!!俺はなァ、おっぱいクソ野郎を殺さなきゃ、気が済まねぇんだよ!!」


 岡野大吾おかのだいごは、男子たちと闘いながら怒鳴り散らしている。

(ヤバいな、ブチギレモードだ…)


 彼の視線の先には、真っ赤な血に塗れた誰かがいた。

 身体中が血まみれで、生きているのかすら怪しく思える。


(あれは、まさか、万浪行宗まんなみゆきむねくん?)


 明らかに瀕死の状態で倒れていて、誰かなんて判別できないが。

 大吾だいごがおっぱいクンと呼ぶのは、万浪行宗まんなみゆきむね、彼しかいない。

 早く誰かが回復しないといけない。新崎にいざきさんか回復ポーションか、どっちか!!

 私の心臓の鼓動が、ドンドンと早くなる。

 あーもう、なんでよ!!

 お菓子のボスはもう倒れてるのに、なんでまだ殺し合ってるのよっ!?

 ほんとにバカ、バカ野郎!!男子ってホントにバカっ!




 私が焦っていると、血まみれの万浪まんなみくんの元へ、一人の女の子が駆けつけた。

 褐色のマントをはためかせて黒髪をなびかせながら、激しい戦場へと突っ込んでいったのだ。


 

「ダメっ!ダメっ!!死なないでっ!!死なないでよ!!行宗ゆきむねくんっ!!【超回復ハイパヒール】!!【超回復ハイパヒール】!!【超回復ハイパヒール】!!!」

「なーちゃん危ないよっ!!」


 血まみれの万浪まんなみくんに手を重ねて、ボロボロに涙を流しながら、彼を回復しているのは新崎直穂にいざきなおほさんだ。


「ねえ行宗ゆきむねくん!私を助けておいて、死ぬなんて許さないからっ!!ずっと私の奴隷って言ったじゃない!!なんで??なんでよっ!?、なんで上手く回復出来ないのっ!!?」


 新崎にいざきさんは、何度も何度も回復をかける。

 緑色の回復の光が、ピカリピカリと点滅する。

 おかしい。

 新崎にいざきさんの超回復ハイパヒールは、どんな重症者でも、生きてさえいれば一瞬で回復する。

 まさか……万浪行宗まんなみゆきむねくんは、もう死んでいるの??


「おい新崎にいざき!!勝手な事すんじゃねぇよ!ブチ殺すぞ!!」

「ざけんな!!こっちのセリフよっ……!!行宗ゆきむねを返せよっ……!!」


 大吾だいごの怒鳴り声に、新崎にいざきさんも半狂乱で怒鳴り返した。

 もしかして、新崎にいざきさんは行宗ゆきむねくんの事が…

 いや、そんな事、今はどうだっていい。

 新崎にいざきさんが危ない。


「てめぇ、取り消せよ…」


 大吾だいごは明らかに殺気立ち、泣いている新崎にいざきさんを睨みつけた。

 だめだ。

 あの状態の大吾だいごは、何を言っても聞かない。


「なーちゃん危ない!」

「一旦落ち着けよ!大吾だいご!!」

「逃げて!なーちゃん!!」

「やべぇって、これ以上はっ」


 クラスの皆が、必死で止めようとするも、ブチ切れた大吾だいごは止まらない。

 岡野大吾は強すぎるのだ。

 

 私しかいない。

 【爆走バーンダッシュ】で、クラス内で最速の私なら、大吾だいごからでも逃げられる!!


 

 私は、新崎にいざきさんと行宗ゆきむね君に向かって、走り出した。

 

新崎にいざきさん!!捕まって!!」


 そして私は、新崎にいざきさんと行宗ゆきむね君を抱え上げた。

 二人を抱えた私は、部屋の隅へと全力で走り、逃げていく。


(あれ?、なんで?、おかしいな。全然スピードが出ない。)




「待てや、浅尾あさおっ!!そのクソ野郎を寄こせ!!」


 背中側から、大吾の追いかけてくる声が聞こえる。

 しつこい!

 くっそ、どこへ逃げればいんだよ。

 ここはボス部屋である、体育館よりは大きいものの、円形の空間に隠れる場所なんてない。

 どうしようかと考えていると、私は、穴を見つけた。


 ボス部屋の入口、大きな扉に、人が通れる程の穴が開いている。

 しめた!と思い。

 私はその穴へと飛び込んだ。

 ボス部屋の外へと逃げ出したのだ。



 寒っ!

 ボス部屋の外は洞窟になっていて、薄暗くて寒かった。

 大吾だいごの怒りを収める最善手は、その原因と引き離すことである。

 とにかく、どこか物陰に隠れなければ。

 私は、前方に洞窟の窪みを見つけて、その中へと入った。


 ドッカンドッカン、と、

 ボス部屋から、籠った戦闘音が響いてくる。

 大丈夫だろうか??

 その後

 ガシャーンという音と共に

 扉の穴が、大きな岩で塞がれた。

 このスキルは、金沢大成かなざわたいせい君の【石球ストーンボール】だ。

 ナイスプレー!!

 これによって、穴は一時的に塞がれた。




浅尾あさおさんっ!助けてくれてっ、ありがとぉっ…でも行宗くんがぁっ!!上手く治らないの!!」


 私の肩に、新崎にいざきさんが泣きついてきた。

 やはり、もう既に死んでいるだろうか??

 私は恐る恐る、行宗ゆきむね君の胸に、手のひらを重ねた。

 

 とく、とく、とく……。


 行宗ゆきむね君の心臓は、ちゃんと動いていた。

 

新崎にいざきさん!!心臓はまだ動いてるよ、まだ死んでない!」

「え……?」


 新崎にいざきさんも、恐る恐る手を重ねた。


「ほっ、ホントだぁ。脈が戻ってる。良かったっ……!」

「これは私の予想だけど、猛毒のステータス上昇の効果が消えた分、新崎さんの回復力が下がったんだよ。私のスキルも遅くなってたから。」

「なるほどね。…そっか。あの猛毒も解いてくれたんだね、行宗ゆきむねくん。」

「でも、まだ息してない」

「うん」


 新崎にいざきさんはそう言って、自身の両手を、行宗くんの首へとかけた。

 行宗ゆきむねくんの口に、顔を近づけてから……

 優しく唇を重ねた。

 そして、フー、フー、フーっと、自らの息を吹き込んでいく。


 (マジで!?)

 突然の事に驚いたが、正真正銘の人工呼吸である。

 緊急事態における正しい対応ではあるのだが、私は不謹慎にもドキドキしてしまった。

 クラスで真面目な新崎にいざきさんと、大人しい行宗ゆきむね君がキスをしているなんて、信じられない光景だった。

 そして…


 こほっ!

 と、行宗ゆきむねくんが血を吐き出した。

 そうして少しづつだが、呼吸が元に戻っていった。

 行宗ゆきむねくんの顔色も回復していく…


「はぁーー、良かったーー」


 新崎にいざきさんは、疲れた様子で、地面にグッタリと座り込んだ。

 まだ意識は戻らないが、傷も塞がり、呼吸が続いている。

 なんとか命を繋げたみたいだ。

 良かった。


 

 それに、真中まなかの話によると、行宗ゆきむねくんがボスを倒して、私を生き返らせてくれた人らしい。

 マジでクラスのヒーロー、私の命の恩人である。

 とにかくこれで、クラス全員無事である。

 


(大吾の怒りは収まっただろうか?)


 私はボス部屋の方へと目線を向けた。

 いつの間にか騒がしい戦闘音は鳴りやんでいた。

 洞窟の中は静寂に包まれている。


(良かった、落ち着いたみたいだ。)


 ここから、全員で元の世界に帰る。

 その方法を見つけるんだ。




「え…??」

 

 は??

 なんで?なんで?

 目に入った光景に、私は驚きのあまり、声を漏らした。

 

新崎にいざきさん、ちょっと見て…」

「なに…??えっ……」


 新崎にいざきさんも私の指さす方向へと視線を向けて、アッと絶句した。


「ボス部屋が、無い…」


 なんと、そこ・・にあったはずの、大きな扉が消えていたのだ。

 そこ・・には、ただゴツゴツとした石壁があるのみであった。




 私は駆け出していた。

 温度のない洞窟で、大きすぎる不安に駆られながら、走りだしたのだ。


「みんなっ!?どこ!?どこにいったの!!」


 叫んでも、叫んでも、自分の声が返ってくるだけである。

 

「ねぇっ!!置いてかないでよっ!!みんなっ!!!」


 涙がボロボロと出てきた。

 そして私は、神にすがるように祈った。


(お願いです、もう嫌です、家に帰して下さい。お腹が空きました。疲れました、辛いです。

 お母さんに会いたいです。お兄ちゃんに会いたいです。父さんに会いたいです。

 夢なら覚めて下さい。)


 それでも、どれだけ神に祈っても、私は一人だった。

 泣いて泣いて、泣き疲れたころ、後ろから足音が聞こえてきた。




「私達だけ取り残されたみたいね。」


 新崎にいざきさんが、疲れたような声でそう言った。


「きっと皆無事よ。きっと、どこかで生きてる。そう信じようよ。」

「……………」

「私達はまだ生きてるわ。まだ終わってない。だから一緒に生きようよ。」


 新崎にいざきさんは後ろから、私の身体を包み込んだ。

 彼女の柔らかい身体に、ぎゅっと優しく抱きしめられる。

 あたたかい……


「……んっ……っううっ……!!」


 私はまた、泣き出してしまった。

 でも、これは悲し涙じゃない、嬉しいのだ。


「……っぅんっ……ぁりがとっ……新崎にいざきさんっ…」


 私は新崎にいざきさんの胸の中で、弱々しく泣いた。



















「ねぇ、新崎にいざきさんはさ、行宗ゆきむねくんの事が好きなの??」


 落ち着いた私は、新崎にいざきさんにそう訊いた。


「えー、誰にも言わないって約束するなら、教えてあげる。」

「絶対、誰にも言わないからっ!」

「……分かった…。言うね……


 …うん…好きだよ……行宗ゆきむねくんが好き…好きになった……」


「……そっか……」


(マジかよ!!?)

 平静を装ったものの、私は興奮を隠しきれなかった。

 胸の鼓動が高鳴り、口元がにやけてしまう。

 新崎にいざきさんも、唇をキュッと締めながら、顔を赤くしている。

 いや、ガチやんけ!!

 新崎にいざきさんは真面目な優等生で、男子に興味なんてなさそうに見えてたけど。

 まさか行宗ゆきむねくんとは!!

 いやー。恋する乙女は可愛いねぇ…


「ねぇ、行宗ゆきむね君のどこが好きなの??」

「ん……。話しやすくて楽しい所かなぁ。優しくて、カッコよくてっ……」

「ふーんっ、そっか…

 ……告白はしないの?」

「あー。実はね……

 ………告白されたの。今日。」


(は?なんつった?)

 え??告白されたの!?行宗くんに!?

 しかも今日!?嘘でしょ!?

 ……て事は、二人はもう結ばれてるってコト!?恋人同士ってコト!?


「な、なんて返事したの!?」

「ど…私の奴隷になって下さいって…」

「え……はぁっ!?ドっ…ドレイ!!?何言ってんの!!?もしかして、新崎にいざきさんってソッチ系の趣味??」

「ちっ、違くて…。その…行宗ゆきむねくんが致しているのを見た直後だったから、なんとなく…気まずくてさ。」

「致すって??どういう意味??」

「え?…あぁ………その……エッチなことだよっ、オ〇二ーしてる所を見たの……」

「はぁあああっ!!?」


 今何て言った??

 新崎にいざきさん!?

 真面目で優等生の新崎にいざきさん??

 だよね??あれぇ??

 行宗ゆきむねくんがオ〇二ーしてた!?

 それを新崎にいざきさんが見た!?

 その直後に告白!??


「どういう状況よ!?」

「あの……。スキルの練習の時間に、洞窟の中で彼が私でオナ二ーしてる所に出くわしちゃってさ…」

「はぁ!洞窟の中!?ド変態じゃない!!!」

「いや違うのっ!!行宗ゆきむね君の特殊スキルは、実はオ〇二ーをすることで発動して」

「オナ二ーをして発動!??」


 私は、衝撃の事実の連撃に、愕然とした。

 新崎にいざきさんのオ〇ニー連呼にも愕然とした。

 それから新崎にいざきさんが、丁寧に説明してくれるのだが、

 理解するのに一苦労した。




「あははははっ!!つまり、行宗ゆきむねくんがボスの前でオ〇ニーして、賢者モードでアイツを倒したって事か!?」

「ホントにね、バカみたい」

「いやー。変なのっ!命がけの戦いの話なのに、笑いが止まらないよ」



 私と新崎にいざきさんは、あっという間に打ち解けていた。


 新崎にいざきさんは、いつも休み時間まで勉強していて、真面目な人だと思っていたのだが

 まさか下ネタで盛り上がれる人だとは思っていなかった。

 私は、お兄ちゃんのエロ本を読み漁ってたから、下ネタの耐性は強いほうだが。

 なかなか女子同士で、下ネタで盛り上がるなんて初めてだった。

 サッカー部の男子は下ネタ好きだが、私は女子としての立場上、スルーしているし。


「ねぇ、新崎にいざきさんの事を、直穂なおほちゃんって呼んでいい?」

「うん、じゃあ私も和奈かずなって呼ぶ」

「よろしく直穂なおほちゃん!」

「うん、和奈かずな


 ということで、私達は親友になった。

 新崎にいざきさんは、話してみるととっても楽しい。

 絶望ばかりの異世界だが、僅かばかりの希望が出来た。


 それにしても、行宗ゆきむねくんの話は面白すぎる。

 スキル【自慰マスター〇ーション】って、可哀そう過ぎるでしょ。

 本人は至って真面目なのも、お笑いポイントが高い。

 早く目を覚まして欲しいな。

 新崎にいざきさんも私も、早く彼と話したいのだ。

 



「ふぅ……疲れた…眠くなってきたよ。」

「だねぇ…。あと、喉も乾いた…お腹も空いた…」

「そうだ!回復ポーションとか余ってないかな??あれならお腹にも溜まるし」

「なるほど!!」


 私達は、それぞれバックの中を漁り、余っていた二本の解毒ポーションを取り出した。

 行宗ゆきむね君のバックの中は…空だった。


「どうしよっか?」

「一本開けて、二人で飲もう」

「そだね」


 ゴクゴクゴク…と、解毒ポーションを飲み込んでいく。

 濃い薬草のような味で、とても苦いのだが、渇きと腹の虫は収まっていく。


「ねぇ、洞窟の出口とか、転移魔法陣を探したり、水と食料を見つけたりとか、すべきことは色々あるけどさ、

 疲れたから、とりあえず寝ない?」

 

 新崎にいざきさんがそんな提案をする。


「賛成…。頭回らなくなってきた…」


 私も同意した。


「にしても、どんどん寒くなって来てるね。一緒にくっついて寝よ。コレを布団にしてさ。」


 新崎にいざきさんは、温かそうなマントを脱ぎながらそう言った。

 正直ありがたい。

 洞窟内の空気はどんどんと冷え込んでいる。原因は分からないが、身体を寄せ合って寝たほうが良さそうだ。

 もし、万が一、このまま気温が永遠に下がり続けたらどうなるだろうか……

 いや、やめよう。悪い想像をしても仕方ない。しょせん私の頭が作った空想に過ぎない。そんな事起こらない、うん。

 

「そうだね。修学旅行みたいで楽しいね!」


 私は、楽しいイメージへと切り替える事にした。





















 という事で、右から、直穂なおほちゃん、真ん中に行宗ゆきむねくん、左に私の順で、肩を並べて、新崎さんのマントを掛け布団にして寝る事になった。

 

 

 WHYなんで!?

 WHYなんで IS YUKIMUNE行宗くんが CENTER真ん中??   

 と、突っ込みたくなるが。ここには明確な理由が存在する。

 行宗ゆきむね君の身体が、カイロのように温かいのだ。

 男子はみんな暖かいのか、新崎にいざきさんが回復をかけまくったせいなのか、私には分からない。

 でも、私のお兄ちゃんの身体は、暖かったのを覚えている。

 

 というか、家族以外の男と添い寝なんて、初めてなのだが!

 私の初めてが、こうもあっさり失われていいのだろうか!?


 まあ、生存確率をあげるためには仕方ないのだ。体温を保つためなのだ。別に変な意味はない。

 そんな事は分かっているが、私はソワソワして眠れなかった。

 一方、新崎にいざきさんはすぐに、ぐっすりと眠ってしまった。


 えー?好きな人との始めての添い寝でしょう?そんなにぐっすり出来るものなの??

 というか、せっかくの修学旅行の夜でしょう?、もっと恋バナしたかったよぉ。

 

 とか何とか、私は頭の中で、一人でぺちゃくちゃと喋っていたが、

 次第に睡魔に勝てなくなり、ぐっすりと眠ってしまった。


 右隣の行宗ゆきむねくんが、すごく暖かかった。

 




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