九発目②「新崎直穂と現世帰還」

 【ルート②】


新崎直穂にいざきなおほを生き返らせて、現世に帰してくれ」


 俺は、クラス内が殴り合いの喧嘩に耐えられず、神様にそう願った。

 誰が何と言おうと、俺は新崎にいざきさんが好きなのだ。

 彼女を見殺しになんて出来ない。

 たとえクラス全員が反対したとしても、俺は新崎にいざきさんと現世に帰るのだ。

 

 「承知した」


 と、天から声がした。

 

 「はぁ!?」

 「なんつった!?」

 「おい!ざっけんなよ!!取りけせよ!!」


 「ううっ!!」


 ドゴォ!ドッ!!ドゴッ!!


 周りにいたクラスメイトが、一斉に俺を押し倒し、

 俺は首を掴まれながら、ボコボコに殴られる。

 まあ、そうなるよな…

 俺が悪い事は、よく分かってる。

 

 (ごめん、ごめん!!

 でも!俺だって!!新崎さんを生き返えらせたいんだ!!)


 誰に何と言われようと、この二つの【ネザーストーン願いを叶える石】を手に入れたのは、俺なんだ!!



 目の前が真っ白の光に包まれていく。

 じわぁあぁ・・・

 と、身体が溶けて、焼かれていく……

 でも、熱くない…


 俺達は、純白の光に身を焼かれながら…

 元の世界へと、一年一組の教室へと帰っていった…

















 「…ということで、これが、[ド・モルガンの定理]というものであります。この定理を利用すれば…

 って、皆さんどうかしましたか?」


 あ…


 俺達は、教室の中にいた。

 教壇の前では、数学の先生が、数学1Aの授業を進めていた。

 本当に、戻って来たのか…


 クラス中が、ザワザワとし始める。

 俺の隣には竹田たけだがいて、前には沢渡さわたりさんがいて、いつもと変わらない教室の景色…

 もしかして、さっきまでの異世界の記憶は、夢だったのだろうか??

 と、思ってしまうほど。


 そうだ、新崎にいざきさんは、生き返ったのだろうか?



 「ん?なんでお前、俺の隣にいるんだ?」

 「なーちゃん!!良かったっ!生きかえった…」

 「はぁっ、なんでよっ!!和奈かずなの席はどこ!?」


 教室が、一気に騒めきだす。

 数学のメガネ教師が、あたふたと慌てふためく。


 「どっ、どうしたんですか皆さん!?何かありましたか?!」


 「先生っ!!…和奈かずなのっ!!、浅尾和奈あさおかずなの席はどこですか!?なんで無いんですか?!」


 「ねぇ!?和奈かずなはどこよ?!」


 浅尾さんの友達が、泣きながら先生に叫ぶ。

 よく見ると、本当だった。

 浅尾あさおさんの席は、最初からそこ・・に無かったように消えており、同列の席が、そこ・・を埋めるように、一つづつズレていたのだ。

 

 「浅尾和奈あさおかずな?、とは、誰の事ですか?」


 「は?はぁ!?」

 「ふざけてんじゃねぇよ!!サッカー部の女子!!明るくてスポーツ万能の、浅尾和奈あさおかずなだよ!!」


 「何を言っているんですか?うちのサッカー部に女子部員なんていませんよ。」


 「え…?」


 先生は、そう言った。

 俺達は息を飲んだ。

 この世界線の一年一組には、浅尾和奈あさおかずなという生徒は居なかったのだ。

 まるで最初から、この世に存在していなかったみたいに。

 彼女の存在だけが、自然とこの世界から消えていた。



 「うわ"ぁぁあ"ああ"あ!!!!!」

 「はぁああ!?どういう事だよ!!なんで和奈かずなを知らないんだよ!!」


 クラスメイトが騒然として、慟哭を上げて泣き叫んだ。

 何人かが、俺をもの凄い顔で睨んでくる。

 下手したら殺されそうだ。


 「皆さん!?どうしたんですか!?急に騒ぎだすなんて!!」


 先生はアタフタと手を震わせている。

 

 「藤田ふじた先生。少し授業を中断して、クラスメイトだけで話し合いをしてもいいですか?今、話さなきゃいけない事があるんです。」


 俺の片想いの相手、新崎にいざきさんが、震え声でそう言った。


 「わ…分かった。そうだな…」


 先生は逃げるように、荷物を纏めて、教室の外へと駆け出していった。


 新崎にいざきさんは、ゆっくりと立ち上がり、顔を真っ青にしながら、率直な疑問を口にした。


 「ねぇ、何があったの?私は死んだと思って…気づいたらここにいたの。浅尾あさおさんは…あの時に死んだまま、戻ってきてないの??」


 新崎にいざきさんは、何も分からない様子だった。


 「おい、口を慎めよビッチ。あんたのせいで浅尾あさおが消えたんだよ、人殺し…」


 「え?どういう事…」


 新崎にいざきさんの近くの女子が、新崎さんの胸倉に掴みかかり、低い声で詰め寄った。


 「ここじゃ見られるからよ。放課後ちょっと付き合えよ。話し合おうぜ…」


 深い悲しみと、ドス黒い殺気が飛び交い、一触即発の緊張感がこの場を支配した、

 ここが教室でなかったなら、俺と新崎にいざきさんは、殺されていたかも知れないほど。


















 すすり泣く声の中、数学の授業が再開された。

 授業内容は、全く頭に入ってこなかった。

 俺は、俺たち二人は、クラスメイトから完全に殺意を向けられている。

 どんな目に遭わされてもおかしくないだろう。

 下手したら、いじめ、休学とか…


 

 放課後になって……


 「おい、行宗ゆきむね新崎にいざき、ついて来いよ。ちょっと話そうぜ。」


 帰ろうとしていた、新崎にいざきさんと俺は、女子8人男子5人ぐらいに囲まれた。

 特に浅尾あさおさんと仲の良かった人達である。

 浅尾あさおさんに、恋をしていた人もいる。


 俺と新崎にいざきは、その13人に、裏の廃校舎へと連れ出された。


 「うぉら!ざけんなよブス!!和奈かずなを返して○ねよ!!」

 「調子のんなよ陰キャ。ほら、和奈かずなに謝れよ!」

 「泣いてんじゃねぇよ豚の分際で!」

 「泣きたいのはコッチだっつーの!」

  

 「うぐっ!!ぁあ"っ!!っつ!!」


 ボゴッ!ドゴッ!!ドゴッ!!


 新崎にいざきさんは、女子達に囲まれて、制服を脱がされて、

 殴られて蹴られて、冷水をかけられるなど、さまざまな虐めを受けた。

 


 「なぁ、この身体でアイツに媚びたのかよビッチが!」

 「てめぇが〇ねよ!和奈かずなを返せや!!」

 「変態女!豚が色気使ってんじゃねぇよ!」

 

 裸に剥かれてボロボロと泣く新崎にいざきさんは、四方八方から罵声と暴力を受け続けている。




 「おいクソ野郎!和奈かずなちゃん返せよ!!」

 「○ねクズ!」

 「浅尾がどれだけスゲェ奴か、お前はしらねぇだろ!!」


 俺も、男子と2人の女子に囲まれ、全裸に剥かれて棒で叩かれ、踏みつけにされ、蹴飛ばされている。


 「和奈かずなに〇んで詫びろっ!クズ!変態が!〇ね!〇ねよ!!」


 大きく膨らんだ俺の息子を、容赦なく踏みつけられていく。

 これをご褒美という奴らは馬鹿げている。

 痛い、マジで痛い。

 

 「やめろっ…新崎さんは…悪くないっ…悪いのは俺だけだっ……!!」


 俺は、あまりの痛みにボロボロと泣きながら、新崎にいざきさんを囲む奴らを睨み続けた。

 俺が痛めつけられるより、俺のせいで新崎さんが痛めつけられる方がもっと痛かった。

 こんな形で、新崎にいざきさんの服の中なんて見たくなかった…


 でも、俺の息子は正直に反応してしまう。


 そんな地獄が、ずっと続いた。




 うちの学校は、真面目な人が多い進学校である。

 虐めなんて噂にすらならないのだが、

 やはり人の死が関わると、人は変わってしまうのだろうか…?


 




















 夕暮れの廃教室の中、クラスメイトは家に帰ってしまい、俺と新崎にいざきさんと二人きりになった。


 新崎にいざきさんは、投げ捨てられたタオルで身体を拭いてから、無言で制服を着始めた。

 彼女の身体中は真っ赤に腫れあがり、所々青い痣ができている。

 しかし、顔や手など、人から見える部分は驚く程綺麗だ。

 俺の身体も、同じ感じだ。


 うちのクラスの生徒は頭がいい。

 俺たちは、エ○動画のようなモノを撮られて、ネットにばら撒くと脅され、口止めをされた。

 更に彼らは、制服は汚れないように早めに脱がせて、外部から見えない部分を痛めつけた。


 彼女が着替える音が、静かに響く中で、俺も無言で、制服に着替え始めた。

 


 

 「ねぇ……行宗ゆきむねくん……

 ……なんで、浅尾あさおさんじゃなくて、私を選んだの?…」


 新崎にいざきさんが、ぽつり、と、そう言った。


 「好きだから…新崎にいざきさんが好きだから…」


 俺は答えた。

 俺は新崎にいざきさんに、生きていて欲しかったんだ。


 「そっか…」


 新崎にいざきさんは、素っ気なく答えた。

 そして、俺の元へとゆっくりと歩いてくる。


 「……酷い目にあったね…【超回復ハイパヒール】が使えたらいいのに………」


 「うん…」


 「なんで、こんな目に遭ってるんだろうね。私達、頑張ったのにね…」


 「いや…俺は…」


 「行宗ゆきむねくんは頑張ったよ…クラスの皆は、君が助けたんでしょ?」


 「でも、最初から【自慰マスター〇ーション】スキルを使っていれば…」


 「それは仕方ないよ。誰だってそんなスキル、恥ずかしくて使えないし……。

 でも君は使った。クラスの皆に見られてる中で、恥を捨てて、君は戦ったんだよ。

 凄いよ…カッコいいよ。」


 「………」


 「ねえ行宗ゆきむねくん、大好きです。」


 「え?」


 「ずっと前から気になってたんだけど、今日大好きになりました。

 カッコよくて、優しい君が大好きです。

 私じゃ釣り合わないかもしれませんが、私と付き合ってくれますか?」


 新崎にいざきさんは、真っすぐに俺の顔を見て、そう言ってきた。

 心臓が飛び出そうなほどの衝撃を受けた。

 好き!?新崎にいざきさんが、俺を!?

 思わず口元がぬるむ。

 どうする??勿論、喜んでYESなのだが!!

 ぎゅっと抱きしめる!?キスする??

 いやいや、普通に「付き合いましょう」、か??

 いや、しかし、「私の奴隷になってくれますか?」とか言ったよな…

 あの言葉のせいで、俺に恋心は無いものと思ってしまったのだが…

 えぇっと…なんて答えれば…


 「……奴隷っていうのは…継続ですか…?」


 思考を巡らせた結果、出てきた言葉がそれだった。


 「……奴隷プレイが好きなら、好きなだけシテあげるけど??」


 新崎にいざきさんは、少し首をかしげながら、そう言った。


 「じゃあ、付き合いたいです。」


 「……そっか」


 新崎にいざきさんは、ふっと頬を緩めて、顔を赤くして微笑んだ。

 そして、両手を広げながら、ゆっくりと、俺の身体に抱きついてきた。

 俺は、ギューーッと、新崎にいざきさんの身体に包み込まれる。

 新崎にいざきさんの身体は冷たくて、プルプルと震えていた。

 俺も、新崎にいざきさんの背中へと手を回し、小さな背中を優しく撫でた。


 「うっ…ううっ…うわぁあああっ」


 新崎にいざきさんは、糸が切れたように、くしゃくしゃに泣き始めた。

 俺も同じぐらいに泣いた…

 それは、嬉し涙だけではなかった。

 互いの体温の安心感や、虐められた苦痛、朝尾さんの死への悲しみなど、色んな感情が溢れ出して、涙が止まらなかったのだ。

 そうやって泣きながら、しばらく抱き締め合った後、

 俺はファーストキスを、彼女の唇に捧げた。


















 一年生の間は、俺達は虐められて、クラスの中でも浮いていた。

 痛い思いばかりで、新崎さんの事を守れないばかりだったけど、

 互いに互いを支え合いながら、なんとか二人で耐えぬいていった。


 休日になると、新崎さんと一緒に、家でアニメを見たり、勉強を教わったり、映画館に行ったりと、

 幸せな時間を過ごした。


 二年生になると、クラス替えが起こり、

 俺たちへのいじめや、浅尾さんに関する話題も無くなっていった。

 竹田たけだとは、友達として付き合い続けた。

 岡野おかのは相変わらず、野球に打ち込んでいる。


 二年生になって、新崎にいざきさんは更に可愛くなった。

 飾らなくなったというか、学校内でも、素直に思った事を話すようになったのだ。


 彼女の頭の中は、実はとんでもなく面白い。

 しかし今まで、彼女はそれ・・を、表に出すのを躊躇っていた。

 嫌われるかも知れない。真面目キャラが壊れる気がする、と思ったらしい。

 だが、そんな心配をする必要はなかったのだ。

 彼女は少しずつ、素直に会話が出来るようになり、友達も増えて、笑顔も増えた。


 彼女には、  

 「全部、行宗のおかげだよーー。」、とか言われたが、

 そんな訳がない。

 彼女自身が工夫して、成長したのだろう。

 俺も彼女に見限られないように、成長して行かないといけないと思う。

 

 そして、三年生になって、俺達は仲良く卒業をした。

 そして、同じ大学へと進学して、

 二人とも就職したタイミングで、俺と直穂なおほは結婚した。






[エンディングβ]

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