八発目「残酷なオ〇ズ選択」


 


 ズバァァァァン!!!

 

 ラストボス、【スイーツ阿修羅】のHPバーが、全て削り切れた。

 後は、三つの【ネザーストーン願いを叶える石】を、三つの頭から奪うだけである。


 俺はまず、左側の顔を狙いに行った。

 モンスター名【Madelineマドレーヌ】、男のような女の顔をしている。


 「一個目!!」


 バシュッ!!!


 俺が、白い聖剣を振りぬくと、マドレーヌは一瞬で爆散した。

 「勇敢なる貴様に、アガトン神の祝福あれ」と、言い残して。

 そして、白く光る宝石だけが残った。俺はそれを手にする。

 

 よし、まずは一つ目だ。

 あと二つ。手に入れないと。


 

 すると、俺の背中から叫び声がした。

 

 「貴様には、一つも渡すわけにはいかんのだぁあ!!」


 さっきまで赤い結界の中でイキっていた仮面の男ギャベルが。俺に向かって真っすぐに突っ込んでくる。

 

 (バカがよ。お前は知らないのか?【ネザーストーン願いを叶える石】は、最初に手にした者にしか使えないみたいだぜ)


 それに、クソ遅ぇよ雑魚が。二つ目も取っちまうぞ。



 ズキィィッ!!!


 (いっ!、なんだ?、胸が痛い…!)


 突然、心臓が内側から掴まれるような、激痛が走った。

 ああ、そうか。タイムリミットだ。

 10分の制限時間ではない。。

 毒だ。短時間の超高速戦闘で、毒が回ってきたのだ。


 でも、だからこそ、もっと早く動かなきゃいけない。

 クラス全員の運命は、今の俺にかかっているのだ。


 (だからテメエに構っている暇はないんだよ。クソ仮面!!)



 俺は真ん中の顔、モンスター名【Eculairエクレア】の元へと飛び込み、白い刃で切り裂いた。


 ズバァァァァン!!!


 エクレアの顔が爆散した。

 「知恵のある君に、アガトン神の祝福あれ」と、言葉を残しながら。

 

 しかし、剣の威力が、明らかに落ちているのが分かる。

 毒の回りが、かなり早いのだ。


 

 「クソォ!それは世界を救う石なんだ!貴様に渡すわけにはいかぬのだ!!」


 そんな泣き言を言いながら、ギャベルが俺の背中から、剣を振ってくる。

 こいつは確かに強い。おそらく岡野大吾おかのだいごと同じくらいだ。

 しかし、今の俺にかかれば一撃だろう。

 ぶち殺してやるよ!!



 ズバァッ!!


 俺は容赦なく剣を振った。

 

 バジィィィ!!!


 その剣は、赤い壁に遮られた。

 赤い結界である。


 バリィィィ!!


 俺の剣の勢いで、赤い結界は破られた。

 しかしギャベルには届かなかった。結界で威力を殺され、仕留め損なったのだ。

 ギャベルがにやりと笑う。

 くそっ、手足が震えてきた。もう毒が回るまで時間がない。

 コイツを倒しておかないと、後で殺されかねないのに!!



 (!!!?)

 

 俺は戦慄した。身体中が震えた。

 俺の横を、とんでもなく強い奴が通り過ぎていった。

 もう一人の仮面の人物、シルヴァ様と呼ばれていた者である。


 俺は、コイツを警戒していなかった。賢者の目で確認した時。こいつは全く強くなかったからだ。

 しかし、今、こいつの力はとんでもなく強い。下手したら今の俺よりも。

 まさか、力を隠していたのだろうか?

 いや、考えてる暇はない。

 三つめが取られる!!


 「よくやったギャベル!!一つだ!一つだけでいいんだ!それでアイツ等は解放される!!」


 シルヴァ様は、必死な叫びを上げながら、最後の頭【Waffleワッフル】へと向かっていく。

 

 「やめろ、それは俺達のだ!!」


 俺も気づけば叫んでいた。急いで背中を追いかける。

 間に合え、間に合え、と。


 しかし、俺の身体は、どんどんと重くなる。

 どんどんと視界が暗くなる…

 

 (だめだ…、それは…俺達のモノだ…)


 駄目だ、間に合わない、くそぉ、くそぉ…

 ふざけんじゃねぇ…。なんでお前らが必死な顔をしてんだよ。悪者のクセによ…。

 くそっ、それは俺達の…



 ……




 あ…

 もう一人…いた。

 最高に強くてカッコいい、クラスのリーダーがいたのだ。

 そいつは、シルヴァ様より先に、最後の頭へと辿り着いた。

 

 「これは、俺様のモンだぁあ!!」


 クラス最強の戦士、岡野大吾おかのだいごが、フラフラの身体で剣を振った。


 バシュッ!


 最後の頭、【Waffleワッフル】が、音を立てて爆散する。


 「優しい貴方達に、アガトン神の…

 「いいから早く!!、早く俺達にかかった毒を消してくれ!!」


 岡野大吾は、被せ気味にそう叫んだ。

 白い宝石。【ネザーストーン願いを叶える石】が、虹色に輝きだした。


 『承知した…』


 石の中から、そんな声がした。



 (いや、まだだ!まだ終わってない!)


 まだ毒によるバフが残っている内に、このシルヴァ様を、倒しておかないといけない!!

 今の俺がっておかなきゃ!俺達はこいつに絶対勝てない!!

 俺が殺す!早く、毒の効果が消える前に…!


 

 ◆◆◆



 「そんな…、ふざ、けるなっ…嘘だ…」


 仮面のシルヴァ様は、声を震わせて絶望していた。

 俺は速やかに、剣を振りかざして…


 「シルヴァ様!!危ないっ!!」


 後ろから、ギャベルが叫ぶがもう遅い。

 俺は、身体を硬直させたシルヴァ様へ、本気の剣を振りぬいた!!


 「このクソ仮面がぁぁあああああ!!!!」


 ザシュゥゥゥ!!!


 「ギャァァアアア!!!」



 白い剣に撃たれて、シルヴァ様が血を撒き散らしながらフッ飛ばされて、白い壁へと激突した。


 ドゴォォォオオ!!!


 次の瞬間、俺達にかかっていた、「ハルハブシの猛毒」の効果が切れた。

 そして、息をつかぬ間に、俺の賢者タイムが終了して、

 俺はとてつもない疲労感に襲われる…。


 そのまま俺は、空中で気を失った。



 ◆◆◆



 「ねぇ、起きて…起きてよ…」


 真っ暗な闇の中、新崎にいざきさんの声がした気がした。


 「あ…」


 俺は、ゆっくりと目を開けた。

 どうやら俺は仰向けで床に寝ていて、二人欠けたクラスの皆に、ぐるりと囲まれていていた。

 


 (ああ、斎藤さいとうさん、パンツ見えそうだよ…)


 最初に思い浮かんだことは、そんな下らない事だった。


 「あ、起きたか、行宗ゆきむね


 素っ気なく、そう声をかけてきたのは、竹田慎吾たけだしんごだった。

 俺の友達だった人。俺を無茶苦茶に蹴りつけて、「〇ね」とまで言った人である。

 

 同時に、クラスメイトの安堵のため息がした。



 「すまなかった!行宗ゆきむね!!、俺はお前を疑ったっ!!酷い事を言ったし、やった!!

 蹴ってくれ!!俺を好きなだけ蹴ってくれ!!」


 竹田慎吾たけだしんごは、ギュッと目を瞑りながら、俺に謝ってきた。

 ああ、やっぱりコイツ、無茶苦茶いい奴だな。

 俺の友達には勿体ないくらいの。


 「蹴ってくれって、ドМかよ。

 竹田たけだは悪くない。悪いのは俺だよ…。

 俺のスキルはさ、【自慰マスター〇ーション】なんだ…

 行為をしたら、賢者になれるスキル…。だから、使えなくて、戦えなくて…」


 「そっか、そうだったのか、それは同情するよ」


 「…………」


 女子達が、気まずそうに目を逸らした。

 この場の空気と、俺の心が、キンキンに冷えてしまった。


 

 「いいから早く、死んだ二人の蘇生と元の世界への帰還を、神様に願えよ!」


 そんな中、岡野大吾が、イライラした声でそう言った。

 そうだな。

 あの仮面どもが俺達を、元の世界に返してくれる保証はないし…

 あれ、あいつらはどうなったんだ…?


 「なあ、あの仮面の奴等はどうなった??」


 俺は、疑問を口にした。

 

 「ああ。背の高い方が、血まみれで死にそうな小さい方を背負って、どこかへ消えて行ったよ。」


 「そうか、良かった。」


 最後の一撃が効いたのだろう。ギリギリだったが、なんとかなったな。



 ◆◆◆



 さあ、二人を生き変えらせてから、元の世界へ帰ろう。


 俺は、二つの【ネザーストーン願いを叶える石】を両手にもち、二つの願いを口に出す。


 

 「神様どうか、新崎直穂にいざきなおほさんと、朝尾和奈あさおかずなさんを生き返らせて下さい。

 そして俺達を、元の世界へ戻して下さい。」


 俺は、神に願った。



 ◆◆◆



 『残念ながら、それは無理だ。

 死者の復活は、世界を飛び越えるより遥かに難しい。

 新崎直穂の復活で一つ。朝尾和奈の復活で一つ。クラス全員のネラ―世界への帰還で一つ。

 これは三つの願いである。

 私が貴様に叶えてやれるのは二つまでだ。』



 「は??」


 俺は、混乱した…

 ええと、つまり、二人の復活は、二つの願いとして、カウントされるということだ。

 つまり、二人を復活させれば、元の世界への帰還は叶わない、という事だ。


 でも、だからって、二人を見捨てる選択肢なんてない。

 つまり、俺達は元の世界に帰れない??


 クラスの皆が唖然とする中…



 「なぁ、お前ら。どっちを選ぶ?朝尾あさお新崎にいざきか?」


 岡野大吾おかのだいごが、そう言った。



 「は、はぁ…?。今、なんつった?」

 「二人のどっちかを、見殺しにしろって事??」

 「てめぇ、大吾だいご!!

 元の世界に戻る方法ぐらい、他に見つかるだろ!

 どっちか見捨てるなんて選択肢ねぇよ!!」



 どちらか選べ、という、岡野大吾おかのだいごの残酷な提案に、クラスメイトは騒然とし、一斉に大吾だいごを非難する。



 「はぁ!?きっと、帰る方法が他に見つかるって!?、夢見てんじゃねぇよ!!

 こんなクソみたいな世界でまだ生きろってか!?、家族も野球もない世界でよ!

 俺はプロ野球選手になりてぇんだよ!!

 考えてみろよ、クラスメイトなんて所詮他人だろ。卒業すれば終わりの、今だけの関係なんだよ。

 大切な家族や将来の夢と、ただの高校のクラスメイト、どっちが大事だよ!?」


 

 岡野大吾おかのだいごは、もの凄い剣幕で、そう主張した。

 その言葉は、驚くほど俺に刺さった。

 確かに、大切な両親や妹と、朝尾あさおさん、どちらか選べと言われたら、俺は絶対家族を選ぶ。

 もし、新崎にいざきさんとなら、すごく迷う、けど…


 

 「でも、それでもっ!!」


 「じゃあ。グダグダしない内に、多数決とるぞ。

 新崎にいざきを見捨てて、朝尾あさおを復活させたい奴、手を上げろ。」


 岡野大吾おかのだいごは、冷たい声で残酷な多数決を取り始めた。


 「ねぇちょっと待ってよ!!」

 「考え…させてよ…」


 「考えたって辛くなるだけだ。どうせ心の中では最初から決まってんだろ?ほら!締め切るぞ。」


 「ううっ……」



 クラスメイトは、ある者は叫びなながら。ある者は泣き崩れながら、パラパラパラ、と手を上げた。

 10人くらい…


 「はぁっ!なんで!?あんた直穂なおほの友達でしょっ!!」

 「そっ、そうだよっ!そうだけどっ!!」

 「くそっ、ヤダよっ…クソっ…」

 「ねぇっ!手、上げてよっ!!友達でしょっ!」


 クラスは地獄絵図であった。


 

 「13人か、じゃあ次。朝尾あさおを見捨てて、新崎にいざきを復活させたい奴、手を上げろ。」


 俺は手を上げた…。

 俺以外には、彼女の親友と…

 彼女に恋する、竹田慎吾たけだしんご…………は、

 手を上げていなかった。

 

 (は?なんで??)



 「おい竹田たけだ!お前、なんで!?」


 俺は思わず、竹田の肩を強く掴み、怒鳴り声で問い詰めた。


 「うるせぇ黙れよ!選べねぇよ。選びたくねぇ…。

 新崎にいざきの事は好きだけど。朝尾あさおは部活の友達なんだ!選べねぇよ…」


 「はぁっ!でも!だって…」


 

 クラスの中で新崎にいざきさんを選ぶ人は、明らかに少ない。

 知ってた、知ってたけどさ…

 新崎にいざきさんの友達は、あまり多くない。

 数人の親友がいるだけだ。

 対して朝尾あさおさんはクラスの陽キャである、人気投票で勝てる訳がない。


 「6人か。決まりだな。ほら、おっぱいクン、『朝尾あさおを復活させて、全員を元の世界に帰して下さい』、って、神様に願え。これがクラスの総意だ。」


 岡野大吾おかのだいごは、俺にそう言ってくる。



 「いやっ!!ふざけんなっ!お前が〇ね大吾だいご!!

 ねぇ行宗ゆきむね君!中学の頃、なーちゃんの事が好きだったんでしょ!?なーちゃんを選んでよ!!」

 「てめぇそれ、和奈に〇ねって言ってんだぞ!!」

 「そうだよっ!そっちだって同じじゃん!!」

 「なぁ、やっぱ選べねぇよ。元の世界に帰る方法は絶対、他にあるって!だって来れたんだから…」



 新崎にいざきさんの親友が、俺に詰め寄ってくる。

 それにつられて、クラスの皆が、俺に詰めより。

 俺の胸倉を掴み。各々の主張をしてくる。


 俺は、俺はどうすればいい?…

 何を願えばいい?

 クラスメイトは、罵倒や乱闘を始める。

 くそぉ、くそぉ…


 俺はっ、俺は……


 

 ◆◆◆



 ※以下、三つにルート分岐します。


①浅尾和奈と現世帰還


②新崎直穂と現世帰還


③新崎直穂と浅尾和奈

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