七発目「俺は〇〇を失い、賢者となる」


 俺は、新崎にいざきさんの声を聞きつけ、はっ、と目を開けた。

 そこには、倒れた俺をのぞき込むようにしゃがみ込み、涙を溢れだしながら安堵の顔を見せる、新崎さんがいた。


 はぁ、はぁ、と、呼吸が荒く、額や胸元、首筋まで汗が滲み、明らかに体調が悪そうだった。

 「ハルハブシの猛毒」の効果が、切れ始めているのかもしれない。

 俺はまだ大丈夫だが、新崎にいざきさんの命はもう、長くないのかもしれない。


 しかし、そんな中でも、俺は新崎にいざきさんに見つめられて、安心感を覚えた。

 性的興奮を妨げていた恐怖心は、新崎にいざきさんの包容感に包まれて、いとも簡単に離散した。

 そして、汗の滲んだ彼女のエロスは、俺の下半身を立ち上がらせた。


 今なら出来る。と、思った。

 目の前にいる彼女が傍に居てくれれば、俺は何時だって、何処でだって、出来る気がした。

 だが、いいのだろうか。このまま新崎にいざきさんの気持ちを無視して、彼女をオ○ズとして、抱き枕として、ラブ○-ルとして、俺がつかってもよいのだろうか?

 躊躇をした。やめておこうとも思った。

 でも俺は、やってしまうのだ。



 それは、抑えきれない興奮のためだろうか、それともクラスを救うためだろうか、

 きっとその両方だったのだろう。


 俺は、新崎にいざきさんの華奢な二の腕を、両手でガッチリと掴んだ。

 そして、動揺する新崎にいざきさんの身体を、俺の方へと引き寄せる。

 新崎にいざきさんは、小さな悲鳴を上げながら、俺の胸の中へと倒れ込んだ。



 「うぅっ」


 新崎にいざきさんの体重が、俺の上へと乗りかかる。 

 互いの肉体が勢いよく重なり合い、俺と彼女は軽いうめき声をあげる。

 新崎にいざきさんの身体には、しっかりとした重さがあった。

 妄想の中で創られた新崎さんにせものとは違う。本物の重さである。 

 次に、柔らかさがある。 

 もちろん硬い部分は硬いのだが、太ももや腹筋、胸などの柔らかい感触は、男子の身体では再現不可能であった。

 最後に、熱と蒸れた汗である。

 新崎にいざきさんの身体は、高熱のように熱く、息づかいが荒かった。

 明らかに体調の悪そうな様子に、心配なるのと同時に、その生々しい姿に興奮を覚えてしまう。


 「大丈夫?新崎にいざきさん?」


 と、心配する言葉をかけながら。

 俺は左腕を、新崎にいざきさんの脇の下へとくぐらせて、熱い身体をギュッと強く抱きしめる。

 

 「ハァ、ハァ。……一生、私をオ○ズにしちゃだめだって…言ったよね?」


 新崎にいざきさんが、耳元でそう囁いた。俺の心拍数がバクバクと跳ね上がる。

 新崎にいざきさんは脱力した様子で、俺の上で抱きしめられ続けている。


 「ごめん…」


 「クラスの皆に、君が変態だってコト、バレちゃってもいいの?」


 「ごめん。でも、それでもいいんだ。俺がどう思われようと、皆を、新崎にいざきさんを、助けたい…」


 「そっか………」


 新崎にいざきさんは、諦めたような、どこか投げやりな口調でそう言った。


 「かっこいいと思うよ、私は…」


 新崎にいざきさんは、優しい声で、そう続けた。


 その言葉でもう、ダメだった。

 俺は、こんなに優しい新崎にいざきさんを、抱きしめながら、性的な目で見て、頭の中でぐちゃぐちゃにしているのだ。


 俺は右手を走らせた。


 ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん!!


 俺は興奮と背徳感でおかしくなりそうになりながら、高みへと上っていった。


 ごめん!ごめん!ごめん!ごめん!ごめん!ごめん!ごめんっ!ごめんっ!


 あと少し、もう少し、ほんの少しでたどり着く。

 そんな時だった。


 

 「何してんだよクソ野郎!!」


 近くでそんな怒鳴り声がして、新崎にいざきさんの身体が、俺の元から剝がされた。

 次の瞬間、俺の顔面と腹が、順番に蹴飛ばされた。


 ドゴッ!ドゴ!!

 

 「ガ八ッ!!」


 俺は、あまりの痛みに吐き出した。

 動かしている手が止まる。


 (くそっ、あと、ちょっとだったのにっ!)


 いや、まだだ、まだ諦めるな。

 新崎にいざきさんの匂いと汗が、まだ身体に残っている。まだやれる…。

 俺は、もう一度手を強く握り直し。想像上の新崎にいざきさんと、行為を続けていく。

 

 「直穂ちゃんに何してんだよ!?クソ野郎!!キモ野郎!」


 ゴッ!!ドッ!!ゴンッ!!


 俺を蹴飛ばしていたのは、俺の友達、だった人である。

 竹田慎吾たけだしんごであった。

 まあ、そりゃあ怒るよな…

 自分の好きな人を、強引に抱きしめながら致しているやつなんて、クソ野郎でキモ野郎だ。

 

 でも、俺は、やらなきゃいけないんだ。

 俺は、必死で動かし続ける。

 でも、痛みのせいで、どんどんとしぼんでいく。


 「きっも…」

 「〇ねやカス」

 「最悪、きも」


 クラスメイトが、俺の行為を見ながら、そんな事を呟く。

 心臓が抉れる程つらい、人として恥ずかしい、涙が溢れてくる…

 でも、俺は止められない、止まられない…

 だって、あと、ちょっとなのだ。

 諦めて、たまるか。

 


 「危ないっ!慎吾しんご!!」


 そんな声が聞こえた。

 俺達に大きな影がかかる。

 俺を蹴り続けていた、竹田慎吾たけだしんごの足が止まった。

 

 「ちっ!、もういいわ。そのまま〇ねよ」


 竹田慎吾たけだしんごはそう言い捨てて、俺の側から離れていった。

 俺は一人になった。俺は一人になっても、シ〇り続けた。


 

 目を開けると、巨大なチュロスが、俺に向かって振り落とされていた。

 あんな硬くて太そうな棒に叩き潰されれば、俺は死んでしまうだろう。

 もし俺がギリギリで生き残っても、新崎にいざきさんはかなり弱っていたから、

 今の新崎にいざきさんに、俺を治す力なんて残っていないかもしれない。


 ゴォォォォ

 

 大きなチュロスがどんどんと近づいてくる。

 ああ、俺、死ぬのか…

 クラスメイトに汚物を見る目で蔑まれながら、一度も〇ケずに逝ってしまうのか。

 なんて惨めで、情けない死に方なんだ。


 クラスメイトには、俺を守れる人は沢山いるだろう。

 しかし、俺を助けにくる人なんて、誰もいなかった。

 そりゃあそうだ。

 朝尾あさおさんが死んだ直後に、戦場でオ〇ニーをしているようなキチガイを、助ける人なんていないのだ。


 たった一人を除いて。


 

 バサァァァ……


 俺の頭をまたぐように、マントをはためかせながら、

 スカートを履いた女性が立ちふさがった。

 俺の頭を挟んで踏みしめる華奢な両足からは、特に太ももから、ぽたぽたと汗を振りまきながら。

 その太ももの付け根には、真っ白な布地があった。

 綺麗なパンツである。

 ひらひらとはためくマントやスカートの中心で、そのパンツは、綺麗な花のめしべのように、煌々と輝いていた。

 

 俺は、信じられないものを目にしながら、右手を動かしていた。


 「新崎にいざきさん!?、なんでっ!?」


 俺は、腹の底から叫んだ。

 俺の顔に跨りながら、大きなチュロスと対峙したのは。新崎にいざきさんだったのだ。


 「あーもう、じれったいわっ!」


 新崎にいざきさんが、パンツの上からそう叫んだ。

 そして、


 「とっとと〇ケよ、〇漏野郎」


 最後に、そう言い捨てた。


 (あ………)


 

 俺はただ、唖然とした。

 時が止まったような感覚…

 その言葉の意味を理解するのに、少しかかった。


 

 その後。新崎にいざきさんは、俺の顔面に向かってしゃがみ込んだ。

 新崎にいざきさんのパンツが、俺の顔面を襲い、覆い尽くす。

 え??

 そのふかふかとした布は、言葉では言い表せない、すごい匂いがした。


 同時に、俺は頂上へと達した。



  

 グシャァァア!!!


 違った。

 新崎にいざきさんは、しゃがみ込んだのではなかった。

 叩き潰されたのだ、大きなチュロスによって。

 新崎にいざきさんから、大量の赤い血が噴き出る、骨が折れる音がする。

 

 少し遅れて、俺にも大きな衝撃がくる。

 ぺちゃんこに潰されそうな、凄まじい痛み。

 でも、骨は折れていない。俺は死んでいない。

 俺は新崎にいざきさんに、守られたのだ。

 


ー-


 

 俺は、絶望と快感を同時に味わった。


 新崎にいざきさんが、死んだ…


 俺は、何も考えられなかった……

 何も感覚がしなくなった…

 世界から、色が消え、味が消え、匂いが消えた…

 俺の身体に溢れ落ちる、新崎にいざきさんの血の温もりも、全く感じる事が出来ない…


 俺は、君を守りたかった…。君だけを守りたかったのに…。

 これじゃあ、何の為に賢者になったのか、分からないじゃないか…

 何が賢者だ、何がっ…!

 一番大切なものを、守れていないじゃないか…


 新崎にいざきさん、新崎にいざきさんっ……!

 俺はまだ、君と居たい。君と一緒に過ごしたい。

 話したいこと、遊びたいこと、行きたい場所、沢山あるのだ。


 中学以来、諦めてばかりで、本当の幸せがわからなくなっていたけど…。

 でも俺、やっぱり!新崎にいざきさんが大好きなんだ!!



 いや、まだだ、まだ終わってない…。

 【ウィザーストーン願いを叶える石】に願うんだ。

 俺は知っている。理解わかっている。

 あのボス、【スイーツ阿修羅】の頭の中には、三つの【ウィザーストーン願いを叶える石】が入っている。

 俺は、あれを手に入れて、三つの願いを叶えるのだ。


 一つ、「ハルハブシの猛毒」を解毒してくれ。

 一つ、浅尾和奈あさおかずな新崎直穂にいざきなおほを生き返えらせてくれ。

 一つ、俺達を元の世界へ帰してくれ


 この三つの願いを、叶えてもらうのだ。


 

 気合いを入れろ!!戦え!!戦え!!

 俺がみんなを救うんだ!!


 

 身体の奥底から力が湧いてくる…!失われた五感が蘇ってくる…

 俺の上に崩れ落ちた、新崎にいざきさんのすべてを感じる、分かる。

 まだ温かくて、ドロドロとして、冷たい響き…

 新崎にいざきさんの冷たいぬくもりは、俺を優しく包み込む、

 新崎にいざきさんの匂いだ…優しさだ…笑顔だ…可愛さだ…


 全て見える、全て聞こえる、全て感じる、全て理解わかかる、全て知ってる…

 俺は、賢者だ。


 新崎にいざきさんを!クラスメイトを!、酷い目に合わせたアイツらを、俺は絶対に許さない!




--



 「なんだ?アイツ…気配が変わったねぇ」

 「あれは賢者!?しかも賢者のクセに、なんだ、あの化け物じみた魔力は!?」

 「こ、怖いよぉお!私達、殺されないよね??」


 ラストボス【スイーツ阿修羅】の三つの頭、エクレア、マドレーヌ、ワッフルは、そんな会話をする。



--


 「シルヴァ様、奴は一体、何者なのですか!?あの莫大な魔力量は…!!」

 

 赤い結界の中、仮面の男ギャベルは、

 もう一人の小柄な仮面「シルヴァ様」に、焦った様子で問いかけた。

 

 「シルヴァ様」は、少し顔を傾ける動作をしてから、幼くも大人びた声で答えた。


 「知らぬのかギャべル?特殊スキル【自慰マスター○ーション】じゃ。惜しいのぉ、二分の一を外したか。」

 「あれが【自慰マスター○ーション】ですか!?それならば……!」

 「いや、アレは使えぬ。しかし奴は強い。ギャベルよ、戦闘準備をしておけ。」

 「は、はっ!!」

 


――


 

 俺は、立ち上がった。

 ラストボス【スイーツ阿修羅】から、無数の攻撃が、俺に対して飛んでくる。

 でも、俺には全て見えている。

 どう動けば、効率的にアイツの側にたどり着けるのか、分かるのだ。


 ビュゥゥン!!


 俺は攻撃を掻き分けて、ボスの懐に入り込む。

 そうして、魔力で生成した、巨大な白い聖剣で、ボスの肉体を思いっきり切り裂いた。

 

 ズバァァァァン!!


 ボスのHPが、目に見えて減少する。

 このボスには、弱点が存在する。

 魔力の集まった部分を攻撃すれば、大きなダメージを与えられる。

 その位置は絶えず入れ替わっているが、俺には全て見えている。


 ズバッ!ズバッ!!ズバッ!!ズバッ!!


 あと57発、56発、55発当てれば倒せる。

 急がないといけない、この状態は10分しかもたない。

 もっと早く、効率的に、攻撃を避けつつ弱点を狙うんだ。


 俺は、もの凄い集中力で、ラスボスを一対一で圧倒していく。



ーー


 

 「なんだよ?あの強さ…」

 「強すぎだろ、あり得ない…」

 「ふざけんな…なんでだよ…」


 クラスメイトは皆、俺のあり得ない強さに、唖然としている。

 それはそうだろう。

 

 今の俺のレベルは「ハルハブシの猛毒」によって三倍、賢者タイムによって更に三倍、合わせて9倍となり。

 Lv287となっている。


 さらに、真理を見抜く【賢者の力】が加わる。

 俺には、この世界の全てが見えている。全て知っている。

 だから俺は知っている。

 俺は今、紛れもなく世界最強の剣士であると。



 「おい!ふざけんなよ!おっぱい野郎!!

 そんな強いなら、なんで今まで使わなかった!?なんで 朝尾あさおを、新崎にいざきを見殺しにした!?クソ野郎!!

 あいつらを元に戻せよ!!」



 俺が今まで嫌いだった人物。岡野大吾おかのだいごがそう叫んだ。

 泣きそうな声で、俺を非難する。


 「ごめん!ごめんっ!ごめんっ!!

  でも、あの二人は絶対に生き帰えらせる!!

 俺は賢者だから分かるんだ!

 あの【ネザーストーン願いを叶える石】は、何でも願いを叶えられる石なんだ!!」


 俺は全力で、謝罪の言葉を叫んだ。

 岡野おかのの言う通りである。

 俺が【自慰マスター〇ーション】スキルを最初から使っていれば、二人が死ぬことも無かったのだ。

 でも、時は戻らない。

 だから俺は前へと進む、絶対に全員を助け出すのだ。



ーー


 

 「そうはさせるか、【ウィザーストーン願いを叶える石】は一つも渡さぬ。

 ギャベル、ボスのHPが削り切れた瞬間じゃ。一つとして奴に渡すな。」


 赤い結界の中で、仮面の人物「シルヴァ様」が、仮面の男ギャベルに声をかけた。


 「で、ですが、アレは化け物です。私には勝てませぬ。」

 「やれ。絶対命令じゃ」



ーー


 

 ズバァァァァン!!


 俺は、一撃も攻撃を喰らうことなく、ボスのHPを削りきった。

 ボスの頭上のHPバーが消滅し、ボスの三つの頭部を守っていた、神の結界が消滅した。


 よし、あとは三つの頭を倒すだけだ。



――



 「へぇ…強いねぇ、やるじゃないか」

 「ここまでみたいだな!さあ、俺らを殺して願いを叶えるがいい」

 「えぇっ!、なんで二人とも冷静なの?嫌だよぉ、死にたくないよぉ…」


 ラストボス、【スイーツ阿修羅】の三人が、そんな会話をした。



ーー


 

 ビュン!!


 同時に、俺の後方から、

 仮面の男ギャベルが、凄い勢いで、こちらへと突っ込んでくる。

 やっと殻から出て来たか、クソ仮面。

 

 「さあ、ラストバトルと行こうじゃないか!」


 俺は賢者タイムのハイテンションから、悪役のようなセリフを叫びつつ。

 三つの頭、エクレア、マドレーヌ、ワッフルへと、向かっていった。


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