五発目「揉〇てる場合じゃないラスボス戦」


 「ハッハッハッ!まんまとハマってくれたなぁ!!

 さーてぇ、コレでお前らみんな、一時間だけ、世界最強クラスの戦士だぜぇ!その後死ぬんだけどよぉ!

 さあ、死にたくなければ必死に戦え!!

 教えてやるよ、その毒を解く方法はこの世に一つだけだ!!

 今からこの部屋に現れる、ヴァルファルキア大洞窟!深層第九十二階のラストボス、【スイーツ阿修羅あしゅら】を倒して、

 そのラストアタック報酬ボーナスである、【ウィザーストーン願いを叶える石】に願う事だけだ!!

 さあ、俺達の為に戦え!!生きたいならな!!」


 

 俺達をこの世界に導いた、仮面の男ギャベルは、豹変した。

 俺達は騙されていたのだ。

 

 ギャベルは、俺達をこの世界に呼び出して、19億円という報酬で誘惑し、俺達に【特殊スキル】の練習をさせて、

 この、「マルハブシの猛毒」を、俺達に飲ませた。

 

 そのお陰で、俺達のレベルは跳ね上がり、ラスボスと戦える力を手に入れて、

 そして、死ぬ運命となった。


 

 報酬19億円、破格の日帰りバイトは、突如として、

 死と隣り合わせのデスゲームへと、変貌した。



 「はぁ!?ふざけんじゃねぇっ!!騙してたのかよ!!?」

 「いや…いやぁっ…!!!」

 「はぁぁ?、何、言ってんのっ、話が違うじゃん!!」

 「いやぁああっ!!やだぁっ!!死にたくなぃよ!!」

 「一時間って…、嘘…。」

 「てめぇ!!何言ってんだよ!!元の世界に戻せ!」




 ボス部屋の中では、クラスメイトの、悲鳴に、泣き叫ぶ声、叫び声に包まれる。


 

 部屋の奥では、遥か高くから。ボスモンスター、【スイーツ阿修羅】の三つの顔が、こちらをじっと見つめている。

 3階建ての、俺達の高校の校舎ぐらいデカい。

 いや、地面についている、下半身のヘビのしっぽのような部分を入れれば、そのさらに二倍ほど長い


 大きなスイーツを六本の手に持つ、上半身が阿修羅像、下半身が大蛇の化け物だ。

 六つの手には、大きなパフェやソフトクリーム、チュロスやドーナツなど、スイーツを掴んでいるという、ふざけた見た目なのだが、

 その威圧感と迫力は、俺達を震え上がらせるのには十分だった。

 


 一気にどん底に突き落とされた俺達は、

 絶望と恐怖に縛られて、動けなくなってしまう。



 「お、おい!どうなってんだ!?死ぬのか?、俺達!?」


 俺のそばにいた竹田慎吾たけだしんごが、顔から汗を噴き出しながら、俺の肩を揺すって訊いてくる。


 「あぁ、この猛毒のせいで、一時間後に死ぬみたいだな。」


 ああ…手の震えが止まらない。俺もまだ…よく分かってねぇんだよ。


 「ぐっ、くそぉ。俺、まだ死にたくねぇよっ!、どうすればいい!?この毒、どうにかならねぇのかよ!?」


 「あの仮面野郎の言葉を信じれば、あのボスを倒せば、【ウィザーストーン願いを叶える石】が手に入り、毒を治せる、らしいけど。

 ……俺達をボスと戦わせるための、嘘かもしれない。」

 

 「いや、ある!あるぞ!!【ウィザーストーン願いを叶える石】!

 【透視クリアアイ】スキルで見える。

 あのボスの三匹の頭の中に、ギラギラ光る宝石が一つづつ。全部で三つある!

 そうか、あれを取ればいいんだな。」



 (そうか!!竹田慎吾たけだしんごは【透視クリアアイ】が使えるから、中身が見えるのか。

 よく分からないが、勝機が少し、見えた。)



 「なるほど、あの頭の中に、ちゃんとあるのね!やるじゃん慎吾しんご!」


 後ろから声がした。

 俺たちの会話に、割り込んで来たのは、

 茶髪のスポーツ系美少女、浅尾和奈あさおかずなさんだ。

 うちのサッカー部で、唯一の女子部員として奮闘している。

 いつも明るい女子で、男子からも女子からも人気がある。



 「みんな聞いてっ!

 とにかく、私たちは、あと一時間で死んじゃう!

 助かる方法は、あのボスモンスターの三つの頭の中にある、【ウィザーストーン願いを叶える石】を手に入れる事!!

 皆で戦おうよ!」



 浅尾あさおさんは、大きく息を吸い込み、精一杯の大声をあげて叫んだ。

 その迫力に、クラスメイトは皆、驚いた顔で黙りこんだ。


 (なんだこの人、カッコ良すぎだろ。この状態で、なんでこんなに冷静なんだよ。)


  

 「でっ、でもっ、あんな化け物と、戦えんのかよ…」

 「だ、だれか、あいつを倒してよ…」

 「くそっ…やるしか、ねぇかっ…」



 周囲の反応は様々だった。

 しかし、誰一人として、その場から動かない。

 いや、動けないのだ。

 俺だってそうだ、身体がガタガタと震えて、まともに剣を握れない…。


 


 「皆さーん。頑張ってくださいよぉー。このままじゃ死んじゃいますよー。私達の為に、戦ってくださいよぉ…」

 

 そんな中、クラスの群衆から離れた場所にいる、二人の仮面のうちの一人、

 俺達を騙した男ギャベルが、ふざけた口調で俺達を焚きつけた。

 

 

 そこに、一人の男が怒鳴り声を上げる。


 「てめぇ、クソ仮面野郎!!!俺様たちを元の世界に返せやぁぁ!!」


 その男は叫びながら、仮面の男ギャベルへと、まっすぐに空中を走っていく。


 その男は、五つの特殊スキルを持つ、クラス最強の戦士、岡野大吾おかのだいごであった。



 岡野おかのは、【空中浮遊エアフロー】によって空中を駆け、

 【聖騎士ホーリーナイツ】と、【怪力パワー】を、聖なる剣に重ねがける。

 さらに、マルハブシの猛毒による作用で、彼のレベルは、146まで、跳ね上がっていた。


 黄金に輝く剣が、ギャベルの元へと斬りかかる。

 クラス最強の男の、最高の火力が、仮面の男ギャベルを襲う。



 ガギィイイイン!!!!!



 大きな金属音が、この場の空気を震撼させる。 

 岡野大吾おかのだいごの鋭い剣は、赤く光る結界によって静止させられた。



 仮面の男ギャベルを中心とした、半径2メートルほどの、赤い光を放つ結界だ。

 いや、正確には違う。

 この結界の中心は、仮面の男ギャベルではなく、その隣の、小柄な仮面の人物であった。


 「ハハハハハッ!!!自惚れるなよ糞ガキ!!貴様如きにシルヴァ様の結界が破れるものか!!」


 赤い結界の中で、仮面の男ギャベルは、意気揚々とそう叫ぶ。



 「くそぉ!!ふざけんじゃねぇぞクソ仮面!!俺はこんな、ふざけた世界で、死んでたまるかぁ!!」


 岡野大吾おかのだいごは強く剣を握りしめ、赤い結界に向かって、すさまじい速度の斬撃を叩き込む、



 「うぉおおおぉぉ!!!」


 ガガガガガガガガガ!!!


 岡野大吾おかのだいごの凄まじい猛攻をもってしても、赤い結界はびくともしない。


 ただ、甲高い、耳障りな衝突音だけが響きわたる。



ーー



 「わたしらを前にして仲間割れとは、随分と舐められたものやなぁ。」

 「誰が敵なのか、分からせねぇとな!」

 「うん、じゃあ、ドッカーンと爆破しちゃおう!」


 このダンジョンのラストボス、【スイーツ阿修羅あしゅら】の

 三つの顔、エクレア、マドレーヌ、ワッフルは、そんな会話をした。

 次の瞬間。


 「「「パウンド・ボム!!!」」」


 三つの顔は、大声を出した。

 六本の腕のうちの、パウンドケーキを持つ腕を、大きく振って。

 剣を振り続ける、岡野大吾おかのだいごに向かって投げつけた。



 ドゴォォォンッ!!!



 パウンドケーキが音を立てて爆ぜる。

 凄まじい振動が、この空間に地震を起こした。

 

ーー



 「ほーう、厄介な結界じゃぁ。マナ騎士団め。」

 「貴様らは、ワシらと遊ばねぇのか?」

 「自分たちだけ守るなんて、ずるいよぉ。」


 【スイーツ阿修羅あしゅら】の三つの頭が、そんな会話をした。

 大爆発を喰らっても、赤い結界は破られていなかったのだ。



 「はっ!俺達は今回、ただの観客だ!」


 赤い結界の中で、仮面の男ギャベルは、得意気に叫んだ。


ーー



 幸い、集団から離れていた為、クラスメイトの被害はなかった。

 一人を除いて。


 岡野大吾おかのだいごは、背中から煙を出しながら、その場に倒れ込んでいた。

 あの爆発で壊れない装備や、肉体がカタチを保っていることに驚いたが。

 しかし、その痛々しい姿は、俺達クラスメイトを、絶望の底へとつき落とした。


 「大吾だいご、大丈夫なのかよ?」

 「こんなの、無理だろ…」



 

 ◆◆◆


 ー岡野大吾おかのだいご視点ー


 (痛ぇ……痛ぇ…痛ぇ……)


 視界が真っ暗だ、目が開かない。

 頭がクラクラする。

 死んだ方がマシかと言う痛み…

 痛い、痛い痛い、痛すぎて声もでない。

 業火が背中を灼き続ける。俺の命が削られていく。

 俺は、死ぬのか…

 こんな訳の分からない世界で、訳の分からない仕打ちを受けて…。

 嫌だ、嫌だっ、死にたくねぇよ…

 俺様は、プロ野球選手に、なるんだよっ。まだ死にたくないっ…。

 

 俺は、地獄の業火に焼かれ続ける。

 あぁ、だめだ、俺はここで死ぬんだ…。

 俺は、あの赤いバリアを壊せなかった。あの仮面男に、触れる事すら出来なかった。

 くそぉ、くそぉ、くそぉ……。


 俺は、激痛と無力感の中、地面に這いつくばっていた。

 随分と長い間、そうしていた気がする。




「【超回復ハイパヒール】」


 近くで優しい声がして、俺の身体は、温かい光で包まれた。


 (なんだ、これは、天国か?)

 

 まるで温泉に浸かっているような心地良さの中で、背中の灼けるような痛みが、だんだんと退いていく…



 

 「大丈夫?、立てる?」


 優しい声で、俺の目の前に手のひらが差しだされる。

 俺は、軽くなった身体を起こして顔を上げた。


 その手を差し出してくれたのは、新崎直穂にいざきなおほ、うちのクラスの学級委員長であった。



 「まだ戦える?岡野おかのくん??」


 新崎にいざきは、まっすぐに俺を見て、そんな事を聞いてきた。

 いや、俺は……

 俺はもう、戦えない…

 コイツらには、どう頑張っても敵わないのだ。

 どれだけ戦っても、苦しいだけで、結局負けて死ぬのだ。

 あぁ…同じような事が、中学の時もあったなぁ……

 どれだけ頑張っても、チームでレギュラーになれなくて

 ずっと、悔しくて、苦しいばかりで。

 努力する意味があるのかって、思ってた……

 俺は、もう、頑張れない……。


 「俺は……もう戦えない。アイツらには、勝てない…。」


 俺は、無力感のあまり泣いていた。悔しい、悔しいけど。俺の力じゃ、どうにもならないんだ。

 


 「岡野おかのくんは一人じゃない。私達も戦うよ。どんな怪我をしても、私が絶対治すから。だからお願い、戦ってくれない?」


 新崎にいざきは、優しく手を差し伸べてくる。

 俺はその手に、右手を重ねた。

 新崎にいざきの手は、小刻みに震えていた。


 怖がってんじゃねぇか。お前も…。


 俺はなんとか、気だるい身体を持ち上げた。



 「ねぇっ!みんなっ!一緒に戦おうよ!!あのモンスターを倒して、皆で元の世界へ帰ろう!絶対!!」

 

 新崎にいざきが、俺の隣でそう叫んだ。

 こいつ、こんなに感情を出すタイプだったっけ?



 「いや、でっ、でもっ、大吾だいごでも敵わないなんて。

 俺達に勝てる訳がねぇじゃんかっ、」

 「あの仮面達に、勝てないし」

 「どっちみち、死ぬんだよ。私達っ」


 クラスメイトのモブ共は、そんな弱音を吐き出した。

 雑魚どもめ、自分はやってもみないのに、すぐに弱音を吐きやがる。

 俺様は、お前らみたいなヌルい奴らが大嫌いだ。

 自分は、やってもみないのに、弱音を吐いて・・・

 ・・・いや、それは・・・俺じゃねぇかよ。

 


 「だからこそ戦うんでしょ!大吾だいごくんだけじゃ、勝てないから、皆で戦うの!!

 うずくまってないで剣を持て!泣きたくなるなら戦え!

 戦わなければ死ぬだけだ!!

 怪我したら、私が回復ヒールで治すから!!」



 新崎にいざきは、声を荒げて叫んだ。

 クラスの皆は、いつもは大人しい学級委員長の怒鳴り声に、衝撃を受けて唖然としている。



 おい、新崎にいざき

 その役目は、俺の役目だろう。

 くそっ、弱音ばかり吐きやがって、不甲斐ねぇ。

 死ぬまで諦めてたまるか。俺は絶対に元の世界に帰って、プロ野球選手になるんだ!



 俺様は、足元に転がっていた、俺の剣を手にして、立ち上がった。

 そして、大きく息を吸って、こう言うのだ。


 「お前ら!戦うぞ!!俺様は、死んでも生きてやる!!

 俺様が絶対、あの化け物を倒してやる!

 だから安心して、手を貸しやがれ!!」


 俺は、そう叫んだ。

 俺は、目の前の化け物を睨みつける。


 クラスの反応は様々だ、やる気を出す奴、まだビビってる奴、

 だが、俺のやることは変わらない。


 「うぉおおおぉぉ!!!」


 俺は、空を飛び、ふざけた見た目のラスボスへと突っ込んでいく。

 

 「俺様について来いやぁぁ!!」


 俺は、叫んだ。皆の絶望を吹き飛ばす為に。

 俺の恐怖心を吹き飛ばす為に!


 ラストボス【スイーツ阿修羅】は、右上の手に持つ、チュロスの剣で、俺の体を狙ってくる。

 だが、俺には見える。

 特殊スキル、【予見眼フューチャアイ】によって、集中力を要するが、一秒先の未来の景色が見えるのだ。


 俺は、チュロスの剣を軌道を交わしつつ、ケーキの形をした胸部の中心、心臓の位置へと、剣を突き刺す。


 「うぉらぁぁああぁ!!!」


 ズバァァァァン!!!

 

 心臓の位置に、剣がつき刺さり、中からクリームが血飛沫を上げる。

 そこには、確かに歯応えがあった。


 「!!?」

 身体が、震えた。

 危険を察知したのだ。

 特殊スキル、【野生感ワイルドセンス】の力か。

 振り変えると、巨大なドーナツが、俺に向かって襲ってきた。

 逃げなければ!


 (あれ?)


 剣が抜けない。

 まずい、早く抜かないと、やられる。

 死ぬ。


 

 「うぉりゃあぁああ!!!」


 ドゴォォォンッ!!


 女の雄叫びと共に、ドーナツの軌道が変わった。

 ドーナツが、彼女によって、蹴り飛ばされたのだ。


 「ありがと!岡野おかの!あんたが頼りよ、私も戦う!!」


 そう言って、俺を助けてくれた彼女の名は、浅尾和奈あさおかずなだ。

 サッカー部のスポーツ女子。

 なるほど、だからキックなのか。


 「アザス」


 俺は感謝を言いつつ、剣を抜きとる。

 大丈夫だ、俺だけじゃ勝てないが、皆でやれば勝てる!

 ボス攻略も野球も、チームスポーツだ!!



 「うぉおおお!!効いてる、HPが減った!!」

 「でも、少しだけしか…」

 「いや、いける!全員でやれば倒せる!!やるしかねぇだろ!!」

 「あたり前だ!死んでも生きてやる!!」


 

 クラスメイトの明るい声に、俺は上を見上げた。

 分かり辛いが、確かに、【スイーツ阿修羅】のHPバーが僅かに欠けた。

 クラスメイトが、剣を握り、拳を握りしめて、俺様たちの元へと駆けつけてくる。


 よし、やれる!俺達なら!!

 


ーー



 「ふーん、士気が上がったねぇ。」

 「楽しくなりそうじゃねぇか!」

 「こっ、怖いよぉ、敵がいっぱいだよぉ。吹き飛ばしちゃおうか。」

 「「「ドーナツホール」」」


 【スイーツ阿修羅】の、三人女組が、ドーナツから風を送り出す。

 それは、瞬く間に爆風となり。クラスの皆を襲う。



 それに対して、

「【大呼吸メガブレス】!!!」

 と、叫んで、

 その爆風を、口から吸い込む者がいた。

 吹奏楽部の、雅遥香みやびはるかだ。


 「これが吹部の肺活量じゃ!」


 とか言って、その爆風を吐き返す。


 

 「いけぇぇえ!!」

 「アクアソード!!」

 「ドラゴンクローー」

 「おりゃぁああ!!!」


 と、クラスの皆が、ボスの身体に大量の攻撃をお見舞いする。


 

 ラスボスと、俺たちの本格戦闘が、今、始まった。

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