四発目「覗き〇と修羅場」
「なぁ、
俺は、殺気の籠った低い声に、戦慄した。
俺は、はっと振り返る。
そこにはクラスで隣の席の、
だがしかし、俺はいつも上手く会話を繋げられなくて、すぐに話が途切れてしまうのだが。
彼は、その爽やかな顔とは真逆の、怒気を纏った鬼の形相で俺を凝視する。
俺は、蛇に睨まれた蛙のように、その場で固まり動けなくなった。
なんでコイツが、俺が
バレない為に、時間を空けて出てきたのに。
それに、なんでコイツは、こんなに怒っているんだ?
「な、なにも、してない。です。」
「あぁ!?んな訳ねぇだろ!嘘つくんじゃねぇよ!!」
(ひぃぃっ!!)
誤魔化そうとしたら、声を荒げて怒鳴られた。
拳をわなわなと震わせている。今にも殴りかかってきそうだ。
でも、言えない、言えないのだ!!
「お前、洞窟の中で、
はぁ?なんで??そんな事まで言えるんだよ?
まさか、ストーカーみたいに俺たちをつけていたのか?
何の為に??
「俺、あんな楽しそうに笑う
可愛い笑顔、優しい笑顔、幸せそうな顔…。
ううっ…。こんなことなら、【
もう、ハッキリいってくれよ…行宗くんっ。
しかめっ面の
どうやらこいつは、【
そして、俺と
それで、中学校の頃の俺と同じ、失恋の涙を流しているのか。
「いや、付き合ってないよ!たまたま会って、たまたま話しただけだ。
俺はとにかく、必死に否定した。
新崎さんとは付き合ってないし、話していた内容も言えない。
「はぁ、嘘つけよ。じゃあ
ああ、そうだ。その通りだ。
でも、俺、フラれたんだよ。
そして脅迫されて、奴隷にされたんだ。
「多分俺は、
としか、説明できない。
「はぁ!?マジ!?初耳なんだが!?
それじゃあ!おっ、おおっ、教えてくれよっ!
その度に、頭がぶれて視界が揺れる。
この野郎、
そんなもの俺が聞きたいっての!!二回も振られた俺を馬鹿にしているのか?!、甘えんじゃねぇ!
「いや、振られた俺に分かる訳ないだろ」
(俺は思わず、そう言ってしまった。)
「え?フラれた??」
「あ、」
(やば、口が滑った。)
「え、フラれたの?
「あー。まあ、ちゅ、中学校の頃だよ。」
嘘はついていない。
ついさっき振られて、さらに
「へぇ!マジかよ!!どんなふうに告ったんだ?!告白の言葉は!?
質問を畳み掛ける。
コイツ、人の失恋話をそんなに掘り返したいのか?
しかし、
コイツなら、俺の話を聞いてくれて、気兼ねなく雑談が出来る親友になれるかもしれない。
そんな予感がした。
「分かった、分かった、全部話すから。
でも、集合の事を忘れてないか?、早く、集合場所に向かわないと。」
「あ、やべっ、忘れてたわ。」
どうやらコイツは、俺と
集合の事を忘れていたらしい。
俺は、集合場所へと急ぎながら、俺の過去に興味深々の
…………
「……うん、
でも、気まずくて、彼女と普通に話せなくなって、女の子と話すのも怖くなって、
いつの間にか、人と話すのが緊張するようになって……」
俺はいつの間にか、
「そうか、そうだったんだな。それは辛ぇな。
悪かったな、そんな事とも知らずに、
「うん…」
「なぁ、俺で良ければ、お前の友達にしてくれよ。
「うん、俺も、お前と仲良くしたい。」
人の気持ちに寄り添い、自分の事のように思って、同じ感情を分け合える人なのだ。
それに
「確かに
(すっげぇ分かる!)
というわけで、俺に、高校に入って初めての友達が出来た。
同時に、俺の恋敵でもある。
ーー
そうこうしている間に、クラスメイトの声が聞こえてきた。
集合場所である。直径15メートルほどの、青く光る巨大魔法陣に辿り着いた。
そこには、ほとんどのクラスメイトが集まっていて、
「何体討伐した」とか、「ヌルゲー過ぎる」とか、思い思いの会話をしている。
「おせぇよ!」
と、俺達を見た、
「全員集まりました。」
と、学級委員長の
(俺達が最後の二人だったのか。というか、点呼のとり方、修学旅行かよ。)
そして、フッとこちらに振り返り、
キッ、と、俺を睨んできた気がした。
「い、今!!
と、隣の
ああ、頼むから、
俺は
「さて、皆様お集まりのようですね。
それではこれより、第10階、ラストボスの扉の前へと集団転移をさせて頂きます。」
仮面の男ギャベルの声とともに、地面の転移魔法陣が、
ビカーーッと、白く光輝く。
俺は思わず目を瞑った。
ーーーーー
目が覚めると、広い床の上にいた。
薄暗くて、空気が重たい。
そらに飛び交う、蛍のような緑色の光に照らされて、奥の方に、巨大な石扉が、ぼんやりと見える、巨大な石扉。
扉の上端は、闇に呑まれていて、高さが分からない。
周囲からは、小さな悲鳴の声が上がる。
空気が異様に重たい。身体が勝手に震え出す…
今まで感じた事のないような、焦燥感と恐怖が、身体の中を這いずりまわる。
パッ!
と、周囲が、明るい光に包まれた。
クラスメイトの顔がきちんと見えた。
正面では、仮面の二人が、大きな木のテーブルの奥に立ち。
テーブルの上には、赤と緑と青のガラス瓶が、色別に分けられて、大量に置いてあった。
「皆様、よく聞いて下さい。
ボスモンスターは、今までの敵と比べて二回り強力です。
よって念の為に、三種類のポーションを配布いたします。
右から、解毒ポーション、回復ポーション、強化ポーション、と並んでおります。
青色の解毒ポーションは毒を消し、緑色の回復ポーションは傷を治します。
これは戦闘中に使用してください。
最後に、赤い強化ポーションについてですが、
効果時間が短いので、一人一本、ボスと戦う直前に、私の合図で飲んで下さい。」
仮面の男はそう告げた。
(うぉー!ポーションとかテンション上がるわ!これこそ異世界という感じがする。
俺は、活躍できそうにないけれど、一撃くらいは加えたい。)
「では、共にボスの部屋へと参りましょう。このボスを倒したら、19億円の報酬を差し上げます。」
仮面の男ギャベルは、淡々とそう告げた。
「よっしゃー。俺が全部ぶっ倒したら、19億円は全部俺様のな!」
「はぁー?そんな事させるか!均等に分配だ。」
「なんか怖いけど、大丈夫、だよね?」
「大丈夫!もし危ない事があっても、あたしが守るから。」
大きな石扉が音を立てながらゆっくりと開いていく。
クラスのみんなは、緊張をしつつも、ゆっくりとボス部屋の中へと入ったいった。
そこは白い壁で覆われた、円形闘技場のような、丸くて広い空間だった。
しかし、モンスターの気配はどこにもない。
石扉がギギギギギギギと、音を立てて閉まる。
薄暗い部屋に、俺のクラス全員と、仮面の二人が閉じ込められた。
「さてみなさん、強化ポーションをお飲み下さい。もうじき、ボスモンスターが出現します。」
俺たちは、言われるがまま、バッグの中の赤いポーションを、ごく、ごく、ごく、と、喉に流し込んだ。
(うっま!!)
俺は、あまりの美味しさに衝撃を受けた。
舌で溶けるまろやかな舌触り、濃厚な南国のフルーツに、パチパチとした刺激的な甘味が合わさり、喉を潤していく。
うまい、うま過ぎる。
力が湧き上がってくる。
「うますぎだろ!!」
「何だコレ、異世界ジュース?!!」
「何か、力がみなぎってくるぜ。すげぇ」
俺は、これこそが本物のエナジードリンクなのだと確信した。
魔法が入っているせいか、別人になったように身体が軽く、エネルギーが溢れ出てくる。
すげぇ、これ、毎日飲みたいなぁ…
「お、おい、ちょっと、死ぬってなんだよ?!!毒って何だよ!!?」
突然、そんな声が耳に入った。
「ハァ?どうしたお前??」
「おい、自分のステータスを見ろよ!確かにステータスはアップしてるけど!!猛毒って!!」
「は?!何言ってんだよっ!!」
(え??何を言ってる??)
俺は、その言葉に、心臓が悪魔に掴まれたような、
言葉では表せない、とてつもない恐怖を感じた。
バクバクバクと、跳ね回る心臓を抑えながら、
『ステータスオープン』と、心の中で唱えた。
――――――――――
身長 165cm
体重 59㎏
ルックス 21
――――――――――
レベル 27→97/100
職業 召喚勇者
――――――――――
攻撃力 18→76
防御力 28→113
魔法力 58→153
魔法防御力 32→95
敏捷性 14→67
知能 42→83
――――――――――
総合値 162→587/600
――――――――――
状態異常 マルハブシの猛毒
ーーーーーーーーーー
特殊スキル【
――――――――――
はぁ!!?
ステータスの数字が、おかしいぐらい上がっているんだが!?
レベル27からレベル97って、嘘だろ??
だけど・・・、
「状態異常」、マルハブシの「猛毒」って……
俺が疑問に思うと、詳細説明が開かれた。
ーーーーーーーーーー
状態異常 ハルハブシの猛毒
約一時間の間、ステータスを限界値まで引き上げ、その後、死に至らしめる。
治療法のない猛毒。
ーーーーーーーーーー
は???
その後…死に至らしめる???
俺は、目の前の文字が信じられかった。
いや、信じたくなかった。
嘘であることを願った。
ただ、体は理解していたのだろう。
吐き気、めまい、あらゆる体調不良に襲われて、俺は膝を崩して、その場にしゃがみ込んだ。
「フフフフフッ、ハハハハハッ、アハハハ!!!」
突然、男の下品な笑い声が響き渡った。
仮面の男ギャベルが、大声で笑い出したのだ。
「ハッハッハッ!まんまとハマってくれたなぁ!!
さーてぇ、コレでお前らみんな、一時間だけ、世界最強クラスの戦士だぜぇ!その後死ぬんだけどよぉ!
さあ、死にたくなければ必死に戦え!!
教えてやるよ、その毒を解く方法はこの世に一つだけだ!!
今からこの部屋に現れる、ヴァルファルキア大洞窟!深層第九十二階のラストボス、【スイーツ
そのラストアタック
さあ、俺達の為に戦え!!生きたいならな!!」
(は?ちょ、っと待て、なに、言って、んだ?
安全じゃなかったのか??簡単な、仕事って、言ってたよな??
日帰りで、報酬が19億円で、、安全に元の世界に、返してくれる、って、言ってたよな??)
「はぁ!?ふざけんじゃねぇっ!!騙してたのかよ!!?」
「いや…いやぁっ…!!!」
「はぁぁ?、何、言ってんのっ、話が違うじゃん!!」
「いやぁああっ!!やだぁっ!!死にたくなぃよ!!」
クラスメイトが錯乱し、パニック状態になる。
走り回る人、しゃがみこむ人、壁に張り付く人、
泣き叫ぶ人、強がる人、仮面の男ギャベルに詰め寄る人、暴れる人…
裏切りと死の感覚によって、俺達は筆舌に尽くし難い、不安と恐怖に呑み込まれた。
そんな中で、円形の部屋が虹色に輝きだして・・・
遥か高い天井から、色鮮やかな巨大な物体が、姿を現した。
ヤマタノオロチのような、足の枝分かれした蛇の下半身に、カラフルな女性の上半身、左右三本づつの手は、それぞれパフェやケーキを掴み、頭部には女の頭が三つ生えている。
モンスター名、【
「おやおや、うまそうな子達だねぇ…」
「ありゃあ手強いぜぇ、ハルハブシの毒で、レベルを無理やりあげられてやがる…」
「うわぁぁ、可愛いそうな子達、マナ騎士団も酷い事するよぉ…」
頭部についた、大きな三つの女の顔が、そんな事を喋っている。
そして、三つの頭それぞれに、【
真っ暗なHPバーがついている。
「「「さぁ!、アガトン神の試練だよ、君たちは神の祝福を得るに足りるかな??」」」
三つの頭は、楽しそうにそう言って、
ドゴォォという、轟音と地響きと共に、
絶望の闇に襲われた、俺たちの前へと降り立った。
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