三発目「性なる交〇」
6.
俺は声を絞りだして謝った。
一番見られたくない行為を、一番見られたくない女の子に、見られてしまった羞恥心と、
俺には「ごめんなさい」と言うことしかできなかった。
穴があったら入りたいとは、まさにこういう状況だろう。
俺はじっと自分のつま先を凝視しつづけた。
泡になって消えたい……
「ねぇ
俺は、みっともない顔のまま、
褐色のブーツに、青みがかった白色のコート、透き通るような白い肌。
天使のような魔法少女がそこにいた。
こんなに近くで彼女を見るのは、いつぶりだろうか。
目の前の彼女は、俺が妄想の中で作り出した「
穢れがなく、純粋な目。
俺は、こんな子を汚そうとしていたのか。
「泣いてるじゃん、大丈夫? 安心して、誰にも言いふらしたりはしないから……」
それがきっかけだった。
俺の涙は止まらなくなった。
「ごめっ! ごめんなさい……
おっ、おッ、オッ……オナニーをっ……」
「うん……大丈夫。私は別に気にしてないよ。びっくりしたけど、こんな変わった場所に来た私も悪かったと思うし」
「え……?」
(気にして、ないのか? 嫌われていないのか? 傷ついていないのか?
なんでこんなに優しくしてくれるんだ?)
「それに、なにか事情があるんじゃないの? 何もなく外でするなんて、さすがに
「えっ。なんで……」
「ほら、やっぱり? 私で良ければ、事情? 聞くよ?」
その天使の微笑みに、俺は一生、新崎さんには敵わないと思った。
「うん、実はさっ……!」
俺はもう、涙で顔中くしゃくしゃにしながら、みっともなく話し始めた。
「あっ、待って……今から話しをする最中に、下ネタ用語を連呼しないといけないのですが……大丈夫ですか? マズイですよね……」
「あー、気にしないでいいよ、私にち◯ち◯見せといて、いまさら何言ってんの」
(ち!ちんっ!?)
清楚な
「これは大変不潔なものを見せて、すみませんでしたっ!
えっと、実はさ……俺の「特殊スキル」は、【
あの、オ〇二ーってことです。オナニーの特殊スキルを持ってまして……ハイ」
「……う、うん。なるほどね」
俺だってこんな事、
でも、こうとしか説明できないのだ。
それに……
「スキルの内容は……自慰行為のフィニッシュの後、十分間だけステータスが上がって、賢者になれるという特殊スキルでして、
それで使ってみようと…」
「ブッ…ふふふッ…なにそれあははっ……賢者って……まんま賢者タイムじゃん!」
(えぇっ!?)
完全にドン引きする内容かと思ったのだが、
というか、賢者タイムという言葉を知っていた事に自体、驚きが止まらないのだが。
「ふぅーー。なるほど、それで、
私のコト考えながら、シてたってこと?」
「は、はい…」
俺は、全身を丸裸にされたような恥ずかしさを感じた。
「そう……
ねぇ、
暗く光る瞳で、じっと俺を覗き込んで。
「好きだよっ……」
そうだ、好きだ。
今この瞬間、俺はまた、君を好きになったのだ。
あれ、これ、脈アリ??
「そっか、ふふっ、それじゃあ
私の奴隷になってくれませんか?」
ん?
は??
どど、ドレイ??
それってどういう…?
「ドレイ…って、どういう…?」
「言葉の通りだよ。私が命令したことを、聞いてくれる人になって欲しいの」
それは、まあ、全然悪くない気もするのだが。
いやでも、命令の内容によるよな…
死ねと命令されたとしても、流石に死ねないしな……
「奴隷になるのは、ちょっと……
俺は、ふ、普通のお付き合いが、したいんですけど……?」
なんてずうずうしい奴だと、自覚しながらも、
俺は正直に告白をした。
奴隷にしたいというぐらいだ。
俺に、一定の好意を持っているのは確かだ。のはずだ。
つーか、奴隷ってなんだよっ!?
「ねぇ
ここで君がオ〇ニーしてた事とか、特殊スキルが【
「え? は、そりゃあもう」
なんか平然と!?
オ○ニーの事が、クラスの皆に知られたら……
そうなれば、俺の教室での居場所は消滅してしまう。
男子達にはオナニー君とからかわれ続け、女子達からは畜生を観る目で蔑まれて、
俺は確実に、不登校にならざるを得ない。
「そっか。じゃあ、どっちか選んでよ。
君が変態だってコトを、クラスの皆に言いふらすか、それとも私の奴隷になるか」
(そんなっ!)
こんなの一択、一択しか選べないだろ。
そうまでして、俺を奴隷にしたいのか?!
こき使われたり、酷い事されたりするのだろうか?
いやでも、
えーっと!
「ほら、答えて」
「奴隷に、なります」
「よろしい。じゃあ、よろしくね。行宗くん。あらため、私の奴隷くん♡」
俺は
───────────
7.
「それじゃあ、最初の命令を言うね。
さっき私がアニメのセリフを叫びながら、ノリノリで刀を振っていたのを見ちゃったよね。アレね、凄く恥ずかしかったの……だから、私がアニメ好きって事、絶対誰にも言っちゃダメだから。これは命令」
ビシッと俺に指を刺して、
俺はなんのことか? ポカンとなった。
あぁ、そうか、あの時の事だ。
オ○ニーを見られたせいで、スルーしていたが、
俺が
たしか、
「我こそは月の王なり!! 我が月の光よ、かの物に裁きを与えよ!!『ライトニング・ルナブレイド』!!!」
って、意気揚々と。
まさか……!
「
いつも勉強熱心で、サブカルに関心のなさそうな印象の
俺は興奮しながら質問した。
「別に、もちろん、アニメくらい見るよ……それなりには。
たしかに私、学校では、バカ真面目の優等生キャラだけどさ。
ホントの私は、皆が思ってるようないい子じゃないし。皆からいい子に見えるよう演じてるだけ。……ホントは、アニメと漫画が大好きで、変な趣味もあるの。
だから……さ。
だから君には、私の本音を聞いて欲しい……他の誰にも言えないような……私の愚痴を拾ってくれる、ゴミ箱みたいな存在になってほしいの」
「ゴミ箱!? になる??」
「うん。ゴミ箱だよ。
私がどれだけ可愛くない事を言っても、ただ話を聞いて、共感してくれる、そういう奴隷になってほしいの。
私が
な、なるほど、そういう感じか。
ゴミ箱が適任と言われて、少々複雑な気分だが。
思ったより、悪くないか?
むしろ、ご褒美と言うべきか?
新崎さんの隠れた心の奥底を、俺にだけ話してくれるってことだよな?
大丈夫、俺ならうまくやれるハズだ。
俺は、どんな
「分かりました。頑張ります!」
「ありがと……じゃあ、次の命令。
私と一緒に、モンスターを倒して欲しい。
私の【特殊スキル】は戦闘に向いてなくて、他の皆みたいに一撃で倒せなくてさ。
まだ、譲ってもらった一匹しか倒せてないの。だから人気のないこの狭い道に来たわけなんだけど…
とにかく私のモンスターの討伐に協力してくれない? じゃなくてっ!
協力して! これも命令だから」
「はいっ!」
俺は、可愛さのあまりドギマギしながらも、奴隷らしくキチンと返事をした。
そうか、俺以外にも、一撃で倒せない人はいたのか。
でも、戦闘に向いていない特殊スキルって……
「そうだ! もう一つ大事な命令!
これから一生、私をオ◯ニーのオ○ズにしちゃダメだから」
「はっ! はいっ……えぇっ! そんなぁっ!」
俺は、思わず声を荒げた。
かなり辛い命令を言い渡された。
これから
「分かりました……」
「うん、頑張ってね」
俺は、力無くうなづいた。
ニコニコ顔の新崎さん。
――――――――――
「「みずモブ」も見てるんだ! 私も好きだよ! 今季のアニメは何本見てる?」
「8とか、9本ぐらいかな。レビューとか見つつ、面白そうなやつから選んでる」
「良いなぁ……私は、勉強が忙しくてさ……4作品しか観れてないんたよね。ほんとは、もっとアニメ見たいのに」
「なんで新崎さんは、そんなに勉強してるの?」
「両親が勉強にうるさくって…… あとは普通に、ありきたりだけど、良い大学に入って、中学校の先生になりたいから、かもな?」
「え!? 中学校の先生になるのが夢なの?」
「そうだよ。中学のとき、社会の佐々木先生っていたじゃん。あの人みたいな良い先生になりたいなぁーって、私憧れたの」
「あー 佐々木先生の授業……凄まじかったよな。新崎さんがあんなふうに熱血に教えてる姿か……ちょっと想像できないな……」
「ふふっ、さすがにあそこまでは、激しくなれないよ私……」
ゴミ箱である俺に、色んな本音を吐き捨ててくる。
しかし、俺には、この状況が、
どうみても奴隷と主人の関係だとは思えなかった。
洞窟の中を男女二人。
会話を弾ませながら一緒に歩いているこの状況って……
(どう見てもデート!
これデートですよね!?)
それに!
コミュ障の筈の俺が、まったく緊張せずに話せている。
なんでだ?
どうして??
「あっ!、見つけた!
さっき倒せなかった
視線の先には、俺が倒したハリネズミのモンスターが、4体、密集して集まっていた。
「えーっと、まあいっか。
……我、神の天使なりて、謀反者を裁き
TVアニメ【無限神話】に出てくる天使様の必殺技を、大声で詠唱した。
そして、
「うりゃぁあああ!」
と、叫びながら、魔法使いのローブをひるがえし、魔法使いに似つかわしくない短剣を腰から抜き出し、モンスターへ飛びかかっていく。
なんか、カッコいい。様になってる。
隣で俺が聞いているのに、アニメのセリフを恥じらいもなく叫んでくれる。
それって、俺に対して、心を開いてくれているのか?
いや、俺が奴隷だから、そのへんにいる虫けらみたいに俺を認識しているのだろうか?
さすがに恥ずかしくて、技名は叫ばなかった。
ーー――――
4匹のハリネズミ型モンスターを、全て狩り尽くした頃。
俺たち二人のミニバックの中から、
ビリリリリ……
という、金属音が共鳴した。
仮面男ギャベルからの通達。
実戦練習の終了と、集合の合図である。
「ふぅ、ありがとっ! すごい楽しかった!」
ああ、天使の笑顔だ。
この笑顔が見れるなら、俺は奴隷にでも悪魔にでもなってやる。
「それじゃあ、別々に分かれて戻ろうか、
一緒にいたって皆にバレたらめんどくさいからね。
あと、もう一度確認するけど……今日ここであった事と、私達の関係は、二人だけの秘密だから。あと、皆の前で、私をジロジロみたり、話しかけたりしたらダメ。私をオ〇ズにして、エ〇チな妄想するのもダメ。
特に最後のは、絶対だからね?」
「ハイ……」
可愛い顔を見せたと思ったら、途端に奴隷扱いされる。
優しさと冷たさ、飴とムチ。
これが、DV彼女というやつだろうか?
俺の心をぐちゃぐちゃにしたいのか?
でも俺も、彼女に依存してしまいそうだった。
ーー
三分ほどの時間差を空けて、俺は狭い洞窟を出た。
集合場所を指すコンパスで確認し、その方向へと歩き出した。
「なぁっ! おい!
お前、
(ッッ!?)
背中越しの、殺気の籠った低い声に、俺は身体を強張らせた。
誰だ?
はっと振り返ると。
俺の背後には、クラスで隣の席の、
眉間にシワを寄せ、拳を震わせながら、
今にも飛び掛かってきそうな勢いで、俺を睨みつけていた。
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