二発目「はじめてのダンジョンでオ〇ズ探し!」


 バルファルキア大洞窟、深層第七界にて、

 俺は人生で初めて、モンスターと戦っていた。


 俺の前に対峙するのは、体長3メートル程のミルワーム、つまりバカでかい幼虫である。

 その頭上には、紫色に光るHPバーと、モンスター名[Giant melworm]の表記が見える。


 いやー。マジでゲームの世界じゃないか!?

 最高だな!!

 キーボードを叩くのではなく、実際に体を動かして戦えるなんて!

 まあ運動音痴の俺は、そこまで上手く戦えないのだが。


 ここなら誰にも邪魔されず、思う存分戦える。

 俺は仮面男ギャベルに支給された剣を、ギュッと握りこんだ。

 剣といっても、ほどよい重さで振りやすかった。

 鏡のようなギラリとした白い光沢に、持ち手はシンプルな作りの、飾りの少ない剣である。


「おりゃぁぁぁ!!」


 俺はアニメの主人公のように、雄叫びをあげながら、

 ミルワームの足元へと切りかかった!

 

 ズバァァァァァン!


 紫色の血飛沫が舞った!

 ミルワームの身体は、紫色の血を噴きながら、豆腐のように斬られていく。

 虫が苦手な人にとっては発狂ものだな。


 ズバァ! ズバッ!! ズバァ!!


 俺はさらに、斬撃を畳み掛ける!


 ミルワームのHPが少しずつ、

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、と削れていく。


(急げ、急げ!!

 急がなければ、またヤツが来てしまう!!)


 ズバッ!ズバァ!!ズバッ!!

 

 10発ほど斬り込むと、HPバーは殆ど無くなっていた。


 (よしっ、あと一発だ!)


 そう思い、剣を振り上げた、

 その時だった。


 



「どけぇええええ!!」


 と、背中から怒鳴り声がしたのだ。

 俺が驚いて振り返ると、

 視界一面、爆音と閃光に包まれた。


 ドゴォォォォ!!!


(来やがったなクソ野郎がっ!! あと一発だったのに!!」

 

「よっしゃ!20体目!!」


 楽しそうに叫びながら、俺が倒そうとしていた瀕死のミルワームをぶった斬って、駆け抜けていったのは、

 野球部の岡野大吾おかのだいごだった。

 

(クソッ! 俺の獲物だったのに!!

 あと少しだったのに!!)


 俺は岡野おかのを、キッと睨めつけた。


「おっしゃぁ!! 21体目!!」


 岡野大吾おかのだいごは、俺の存在に目をくれる事なく、

 そのまま走っていった。

 空を駆けまわり、黄金に輝く剣を振り回し、周囲のモンスターをもの凄い勢いで刈り尽くしていく。

 それらは全て一撃必殺であった。

 俺の戦いは一体、なんだったのだろう……


 

 岡野大吾おかのだいごは、5つの「特殊スキル」を持っているらしい。


 【怪力パワー

 【空中浮遊エアフロー

 【聖騎士ホーリーナイツ

 【予見眼フューチャアイ

 【野生感ワイルドセンス


 いや、なんだよ、5つって!

 おかしいやろうが!? 


 岡野大吾おかのだいごは、身体能力がずば抜けて高い。

 体力テストは学年一位であり、

 そこそこ強豪のウチの野球部で、入学後二ヶ月にして、既に主戦力らしい。

 なるほどな。

 特技とくぎが多い人は、【特殊スキル】の数も多いということだ。



 それに引き換え俺なんて、【自慰マスター○ーション】の一つのみ。

 こんなスキル使いものにならないから、実質スキル無しである。



 俺、必要なくね?



ーー



「おい待て大吾だいご! 俺たちのぶん残しとけよ!!」

「くそぉ、また先越された」


 洞窟の奥から、また声がしてきた。

 クラスの陽キャ男子グループが、6人ほどやってきたのだ。


「ファイヤーブロー!!」

「アクアノーツ!!」

「ドラゴンフレイム!!」


 とか何とか、カッケェ技名を叫んでら各々の特殊スキルを使って、辺りの敵をワンパンで粉砕していく。



 俺はまだ、一体も倒せていないのに。

 世の中は不公平だ……

 

 とにかく場所を変えよう。

 【特殊スキル】を使えない俺が、チート級の強さのコイツらと同じ場所にいたら、また獲物を横取りされてしまう。

 今度こそ、誰も来ないような狩り場を探そう。

 

 俺は人気ひとけのない場所へ。

 落ち着いてモンスターを倒せる場所を求めて、洞窟内を探し歩いた。




 あった。

 俺は、直径2メートル程の狭い洞窟の穴を見つけた。 

 人の気配はない。

 人が入らない大きさではないが、

 こんな狭い場所に、わざわざ入る奴は、俺以外にはいないだろう。

 俺は支給品のランプを片手に、暗くて狭い穴の中へ、足を進めた。


 俺は洞窟の中で、小さなモンスターを発見した。


 HPバーの横には、[hidden hedgehog]という英語表記のモンスター名が見える。

 和訳すると、隠れた何か・・

 右の単語が読めない……

 見た目は大きめのハムスターと言ったところか。



 そのモンスターは、大きめのハムスターのというべきか、

 何とも可愛いらしい見た目である。

 この子を殺すのは心苦しいな。

 しかしすまない。

 俺の自己満足のために死んでくれ。


 俺は剣を構えて、一体を切りつけた。

 ガキン!!


 大きな金属音がなり、デカハムスターのHPバーが2割ほど削れた。


(こいつ!体の表面が硬い)


 デカハムスターは血をまき散らしながら飛び上がり、

 全身から針を生やして、俺に飛びかかってきた。


(うわっ、危ねぇっ!)


 針に刺される寸前のところで、剣でハムスターを切り飛ばし、吹き飛ばす。


(ハムスターじゃなくて、ハリネズミじゃないか!)


 身体中が針で覆われ、その上すばしっこい。

 なかなかスリルがあるじゃないか。

 これこそが異世界ダンジョンの醍醐味だろう、

 

「なかなかやるじゃねぇか、ハリネズミ共。

 だが相手は俺だぜ、勝てるとでも思っているのかよ。

 さあ行くぜ!、最強必殺【魔導新剣・極】!!」

 

 調子に乗って、中二病のような技名を叫んだ。

 実際には、剣を振ってぶん殴るだけなのだが。

 まあいいじゃないか、誰も聞いていないのだ。

 一人の時ぐらい、主人公気分を味わせてくれ。





 

 俺は大熱戦の末、5回剣を命中させて、

 ハリネズミをぶっ倒した。


「ハァ、ハァ、ハァ……

 やった、やったぞ……ふふっ……」


 俺は一人きりで、初めてのモンスターを倒した喜びを噛みしめた。







 ふぅ…

 さて、ほかのモンスターも狩りたいな。

 なんて考えていたとき。

 

 俺はあることを思い付いた。


 もしやここでなら、

 俺の特殊スキルが試せるのではないか?

 と。

 この狭い洞窟の中には、俺しかいないのだ。

 ならばオ○ニーできるじゃないか!?

 【自慰マスター〇ーション】スキルを、誰にもバレずに試すことができる!!



 ――――――――――

 特殊スキル【自慰マスター〇ーション

 自慰行為のフィニッシュ後、10分間のあいだ。

 ステータス上昇し、賢者となる。

 ――――――――――

 


 オ〇ニー後の10分間だけしか戦えない【特殊スキル】

 このスキルは他の人もモノと比べて、

 発動条件が厳しすぎる上に、発動時間も短すぎる、


 これだけ大きなデメリットがあるなら、なにか大きなメリットがあって良いんじゃないか?

 たとえば、賢者タイムの10分間だけは、誰よりも最強無敵になれるとか!?

 そうすれば、念願の異世界無双が叶うかもしれない。

 俺の心のなかに、希望の光が広がっていく。

 獲物を横取りした岡野大吾おかのだいごにも、やり返せるかもしれない。



 はやる気持ちを抑えながら、

 俺は洞窟の隅に隠れて、

 ズボンの中に手を突っ込んだ。


 だが屋外で致すのは、オ○ニー好きの俺でも初めてであった。

「もしかしたら人が来るかもしれない」

 という緊張感もあって、俺はしばらく動けずにいた。


 まあいい、まずはオ○ズ探しだ。

 俺はポケットに手を突っ込んで、スマホを探して………


 ない! スマホがない!!

 たくさんのオ○ズが詰まった、いのちの次に大切な俺のスマホがないのである!


 そうだ、ここは異世界である。

 俺のスマホはポケットの中に無かった。

 こちらの世界に召喚される時に、一緒については来なかったのだ。


 これはまいった。

 俺の妄想力は皆無である。

 俺はもう脳内だけでは、卑猥な想像なんて出来ないのである。


 毎日大量のポ〇ノを浴び続ける日々に慣れてしまった。

 エ〇動画や音声、画像、ゲーム、

 もう俺は、オ○ズがなしでは抜けない身体になってしまったのだ。

 妄想だけでなんて、無理だ。


 試しに今、俺の推しVtuberの【白菊ともか】を想像してみたのだが。

 うまくイメージできないのである。

 毎日見ているはずなのに、どうしても脳内イメージがボンヤリとしてしまう。

 俺の最推しの白菊ともかちゃんでもダメなのだ。

 別の誰かで試しても駄目だ。

 悔しいけど、スキルの使用は諦めるしかない。


 そんな時だった。

 俺の脳内に、一人の女の子の姿が、

 ハッキリと浮かび上がってきたのである。


 その女性は、俺の大好きな二次元ではなく、

 三次元の存在であった。

 

 俺のクラスの学級委員長、新崎直穂にいざきなおほだった。

 


 新崎にいざきさんは、中学校の時、俺が初めて本気で恋をして、フラれた相手である。

 細身で膨らみの少ない身体なのだが、力強い凛とした表情のお陰だろうか、どこか大人の色気を感じる人だ。


 彼女は中学校の頃から、真面目で頭が良くてしっかりもので、誰よりも大人だった。

 だが表情の変化は少なく、あまりペラペラと話すタイプではなかった。

 俺も中学一年生の頃は、彼女を恋愛対象とは見れていなかった。


 しかし、中学二年生になって、

 俺は新崎にいざきさんと、また同じクラスになった。

 俺は去年のように、学級委員に立候補したのだが、女子の立候補者が新崎にいざきさんだったのだ。

 それまで大人しいタイプの女子だと思っていたので、意外だった。

 

 そして俺は、新崎にいざきさんと共に学級委員になったのだが、

 新崎にいざきさんはしっかり者で頼れる存在だった。

 相変わらずあまり感情を表情に出さないけれど

 彼女がときおり見せる笑顔や、優しい表情が、

 天使みたいに可愛くて、

 もっと見たい、もっと見たいと。

 俺は新崎にいざきさんの笑顔を好きになっていき……


 気づいたら。

 俺は新崎にいざきさんのことが、どうしようもなく好きになっていた。

 生まれて初めて、付き合いたい人ができた。

 あわよくば結婚したいと思った。


 でも……

 新崎にいざきさんが笑顔を向ける相手は、俺ではなかったのだ。


 彼女はクラスの男子と付き合った。

 俺ではなく。

 新崎にいざきさんは彼氏といる時も、あまり笑わないのだが。  

 俺と一緒のときより楽しそうで、可愛い顔を見せていた。


 俺はどうしても、気持ちの整理ができなかったから。

 俺は彼女を呼び出して、玉砕覚悟で想いをぶちまけた。


「彼氏がいる事は知ってるけど、俺は君が、新崎直穂にいざきなおほが大好きです」


 と、俺は真剣に告白した。


 すると彼女は、泣きだしそうに顔を歪めて、

 優しく残酷に、俺の想いを拒絶した。

 


「嬉しい。凄く嬉しいよ。万波行宗まんなみゆきむねくん。

 あなたは私の大切な友達です。

 あなたの想いには応えられないけれど、これからもずっと、私と仲良しでいて欲しいです。」


 と、優しい声で応えてくれた。

 

 俺は次の日から、新崎にいざきさんとトモダチの関係になった。

 頑張って、彼女の友達になろうとした。

 でもやっぱり辛くて、

 彼女との関係には、ぎこちなさが生まれていって……

 三年生に上がり、クラスが別になった時を境に、

 俺たちの関係は途切れた。

 


 入れ替わるように俺は、アニメやVtuberなど、二次元の世界にハマっていった。

 二次元はいいモノだ。

 絶対に結ばれることがないから、結ばれないかも知れないという不安がない。

 それに二次元は裏切らない。

 スマホを開けば、俺の嫁が、そこにいる」


 ちなみ関係ない話だが。

 俺のNTR好きの性癖は、この失恋の影響が大きい。



 彼女に未練が残っていた間は、

 疎遠になっても毎日のように、妄想の中の彼女を脳内で好き勝手オ○ズにして、

 毎晩のようにグッチャグチャに穢してたのだが……


 そのお陰だろうか。

 今まで俺の頭の中には、妄想としての新崎直穂にいざきなおほのイメージが、残っていたのである。



 いま思えば、クラスメイトで抜〇なんてやめておくべきだったな。

 なぜなら、学校で本物に会った時、

 気まずくて言葉に詰まるからだ。


 オ○ズにしている事への後ろめたさから、俺は新崎にいざきさんと、話せなくなっていった……

 そして他の女の子とも話せなくなり、男子同士の話し方も忘れて……

 陰キャぼっち街道を、一直線で駆け抜けた。


 しかし、今は状況が違う。

 既に陰キャぼっちの俺に、失うものは何もない。

 それより大切なのは、【特殊スキル】で無双して、人気者に成り上がるのだ。



 だから、新崎にいざきさん、ごめんなさい、

 使わせていただきます。


 俺は心の中で、誠心誠意の謝罪をしつつ、

 目をギュっと瞑って、

 脳内の新崎にいざきさんを、五感を駆使して感じ取りながら、

 頭の中で、彼女を覆う布の一枚一枚を、はらりはらりと剥がしていった。


 ふーーーっ…


 …………


 ………



 …



ーーーーー



 俺は、一歩一歩を踏み締めながら、


 長い道のりを、頂上に向かって歩んでいく。


 一歩、一歩、動かすごとに、

 確かに頂上は近づいてくる。


 吹き抜ける風が気持ちいい。

 もっと風を感じたくて、俺は歩く速度を上げていく。

 

 頂上が見えてきた。

 全身からじんわりと汗が滲み、

 心地のよい冷たい風が音をたてて吹き抜けていく。


 きっとあの頂点には、想像もつかないような景色が待っている。


 早く、早く早く。


 俺はついに、走りだした。


 (あ!)


 山のてっぺんには、絶景を背に微笑む新崎にいざきさんがいた。


 新崎にいざきさんは、まるで俺を包み込むように、

 嬉しいそうな顔で俺を見つけて、手を振ってくる。


 早く、早く! 頂上へ!!


 俺はもう、最高速度で走りだした。


 タッタッタッタッ…


 向こうから、新崎にいざきさんの、足音が聞こえてくる。  

 新崎にいざきさんも、俺に向かって走ってきたのだ。

 感動の再会。

 そして絶景である。


 俺は、彼女の名前を口に出した。


 「新崎にいざきさん…! 新崎にいざきさんっ!!」







 「我こそは月の王なり!!我が月の光よ、かの物に裁きを与えよ!!『ライトニング・ルナブレイド』!!!」


 バッシャァァァン!!!


(!!?!)


 俺のすぐ隣で、

 新崎にいざきさんの声がした。

 それは妄想というには、あまりに鮮明な声だった。

 聞いた事のないようなテンションの叫び声だ。

 そして、大きな衝突音が鳴り響いた。


 俺は思わず目を開けて、音がした方向を見た。


 「行宗ゆきむねくん……!?」


 そこには、信じられないモノを見る目で俺を凝視しながら、

 震え声で俺の名を呼ぶ、本物の新崎にいざきさんの姿があった。

 そう、本物である、三次元である。


 空色の魔法帽子に、焦茶色マント。

 魔法使いコーデを着こなす新崎にいざきさんは、すごく可愛いなぁ、

 じゃねぇだろっ!!

 


 俺はとにかく、半分脱げていたパンツを上に持ちあげた。

 もう完全に手遅れだが…


「何、してんの…?」


 新崎にいざきさんは、震えた声で言葉を繋ぐ。



 俺は、大きくなったものを見せない為に、しゃがみ込んだ。

 あぁ、もう、泣きそうだ。


 誰だよ、こんな場所には俺しか来ないとか言ってたバカは…


 思いっきり、見られたじゃないか。

 一番見られちゃいけない行為を…

 一番見らちゃいけない人に…


「ごめんなさい…」


 俺は、消えてしまいそうな声で、謝罪をした。


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