クラス転移した俺のスキルが【マスター〇ーション】だった件

スイーツ阿修羅

第一部 序章

第一膜 日給19億円!? 驚異の日雇いバイト編

一発目「俺のスキルが【マスター〇ーション】だった件」

★下ネタ注意★


1.


「クラスのエロい女ランキング、映えある第一位はー! どゅるるるるるる、バンッ! 浅尾和奈あさおかずなーー! 当然だな! アイツまじ可愛い過ぎ」


「サバサバしてんのが、逆にクルよな」

 

「お前らは分かってねぇ! なんで新崎直穂にいざきなおほが一票なんだよっ! たしかに身体は控えめだろうがな、逆に、それがエロいっつーか……」


「お前の新崎にいざき好きは分かったよ。早く告ればいいのに」


「それは……いや……新崎さんは、あんまり恋愛とか興味なさそうだし」


「たしかにな……うわぁ、俺も彼女欲しい……浅尾和奈と付き合いてぇぇ……! キスしてハグして、あわよくば……」


「やめろよ、キモチ悪りぃ……」



 雨の日の教室。

 体育館でのバスケの授業が終わって数分後、着替え時間に、教室内は男子だけの聖域が訪れる。

 クラス男子たちは、あろうことか、

 【クラスのエロい女ランキング】なんてものを始めたのである。


 

「三位は真中まなかさんか、わかるぜ!

 あのクール顔で、責めるのも責められるのも、良いなー」


「分かるー!!」



(いいなぁ…)


 俺は教室の隅で一人、体操着を着替えながら、恋バナに耳を傾けていた。

 

(あぁ、神よ……このわたしくに、友達の作り方なるものを、教えて下さい……)


 高校入学から二か月。

 俺は未だに、友達というものを作れずにいた。

 人に話しかけるのが怖いのだ。

 中学のころは怖くなかったのに。

 どうして?


 まあいいさ、俺の癒しは、ネットの世界にいるのだから。

 やっと昼休みが始まる。

 やっと彼女に会える。


 キーンコーンカーン


 昼休み開始のゴングと共に、俺はスマホを取り出して、昼休みの喧騒を遮るように、イヤホンで両耳を塞いだ。


(ふーっ、お待たせーー。

 昨日リアタイできなくて、ごめんねーー!

 録画アーカイブが、やっと見られたよー!)


 そしてスマホでYou○ubeを開くと、

 登録者140万人のメスガキ系Vtuber、【白菊ともか】のゲーム実況動画を見始めた。


 「コンきくーー!!」という挨拶に

 俺も心の中で「コンきくーー!」応える。


『きたわね愚民どもっ! Vラッシュ三期生、白菊ともかの配信へようこそっ!

 ガチ恋くんも初見さんも、私のオトナの魅力に取り憑かれて、せいぜいゆっくりしていくのね!

 ……さーて、今回はなんとっ! 10月発売予定のレオシックスの新作RPGゲーム「マナレジェンズ」の、ベータ体験版をプレイするわ!

 アタシ前作の大ファンで、クラファンにも参加して、一年前からずっと楽しみにしてたの。そしたらなんと! 公式に案件をいただくことになって、一章まるまる特別に実況する許可を貰えて! 本当に嬉しくて、もう泣いちゃいそう! マジ感謝ですありがとうございます!』


 チャンネル登録者140万人、俺の最推しメスガキ系Vtuber、"白菊ともか"。

 推しが歓喜する様子に、スマホ画面越しの俺も、思わず口角が緩んでしまう。


『うぅ、オープニング画面だけで、涙が溢れて止まらないんですけどっ……うぅっ……やりますっ』


 この時間が至高だった。

 学校なんかクソ食らえだ。

 

 学校が楽しいだなんて幻想だ。

 そう思えるのは、イケメンでコミュ強な陽キャ人間だけ。

 俺みたく陰キャは、周りの顔色を伺いながら、肩身を狭い思いをするしかない。

 

 俺の心を癒してくれるのは、画面の向こう、白菊ともかちゃんだけなのだ。

 

「基本元素は、火、土、水、気……の四つ。

 これを組み合わせて、新しい魔法を開発しながら、魔王軍と戦うという。魔法黎明期を舞台とした自由度の高いオープンワールドゲームなんですね!」


 普通に、面白そうなゲームじゃないか。

 グラフィックもとことんリアルで、魔法発動も、かなり凝っていて難しいそうだ。


「……火と水を合わせて……蒸気爆発っ……!

 ……うぅっ、痛ったぁっ! アタシの魔法も避けられたし! 

 咄嗟に判断するの難しいよぉっ!」


 ともかちゃんは、基本的にゲーム全般が下手だ。

 だが彼女のまるでアバターに乗り移ったような痛がり方やリアクションに、俺は虜になっていた。

 あぁ、この時間だけが、学校という現実を忘れさせてくれる。


 キーンコーンカーンコーン……


 無情なチャイムが鳴る。

 名残惜しくイヤホンを外した。


 ごく普通の、高校の教室である。

 女子はとっくに教室に戻ってきており、雨で昼練のない運動部男子たちと、トランプや雑談で盛り上がっていたようだった。



ーーー-



 5限目の数学Aの授業が始まった。

 AかつB、少なくとも一つ。

 数学というより、国語じゃないか。

 計算は嫌いじゃないんだが、数学Aは言葉ばかりで、頭が痛くなってしまう。

 前の席には男女が二人、男が女に楽しそうに何かを教えている。

 羨ましい。

 

 

(……学校でイチャイチャしやがって)


 リア充達を見る度に、己の惨めさにうんざりする。

 俺は他人が怖い。

 嫌われるんじゃないか? 変に思われるんじゃないか? 

 不安がどんどんと膨らんでいって、

 言葉が出てこない、上手く話せない。

 そんな俺が嫌いだ。


 あぁ、俺も異世界転生したい。

 異世界にいけば、可愛い女の子がいて、ぼっちの俺にも話しかけてくれるんだ。

 それで俺が、チート魔法を使ったならば、皆に尊敬されて、女の子からもモテモテで……

 いいなぁ。

 俺も、ラノベや漫画の主人公に、なりたかった……

 

 そう、思った。瞬間だった。

 


 いきなり、視界が真っ白に包まれた。


(は??)


 じわぁあぁ…


 と身体が溶けて、焼かれるような感覚。

 でも、熱くない…


(なんだ? 俺、死ぬのか??)


 考える時間はなくて、

 俺は純白の光に身を焼かれた。



 ────────────


2.

 

(どこだ、ここは…)


 目が覚める。

 背中には冷たい床。石の床みたいだ。

 薄暗い空間だった。見上げる空は闇に覆われ、星ひとつ見えない。

 空気が重い。


(俺……教室で数学の授業を受けていたよな?)


「どこだ、ここ」


 すぐ隣で、知っている声がした。

 見ると、隣の席のイケメン男子、竹田慎吾たけだしんごだった。


「何だよこれ?」


「どこ?」


「いやぁあっ 誘拐っ!?」


 クラスメイトの困惑した口々に響いた。

 周りには、クラスの皆が居るようだ。

 俺は身体を起こして、周りを見渡した。



 ここは、綺麗な石で造られた、円柱状の構造物の中のようである。

 床に嵌められた無数の青い宝石が、淡い光を発している。

 かなり薄暗い空間だ。

 俺のクラスメイト達、一年五組の生徒達は、この巨大円柱に閉じ込められて居るようだった。


「おっかしいな。俺たち教室に居たはずだよな」


「みんなの位置が、席順そのままだ」


「まって、これ閉じ込められてない?」


 ガンガンガン!!!


「くそっ! 出せよっ! どこだよここは!!」


 石の壁を強く叩き、一際大きな声を上げる男がいた。

 岡野大吾おかのだいごである。

 うるさくて生意気な、俺の嫌いなタイプ。

 野球部で一年生ながらレギュラーの、クラスの番長的存在である。


 素手で石壁を叩いて、手は痛くないのか?


 ギギギギギギギィィ……


 重たい軋むような音がした。

 そこから、明るい光が差し込んでくる。


 円柱の壁の、大きな扉が開かれたのだ。


 クラスの皆はシンと鎮まりかえり、息を呑むように、

 眩しい光の向こうを見つめた。



 カツン、カツン、カツン……


 石扉の向こうから、二つの人陰が現れた。

 背が高い一人と、背が低い一人、

 赤と黒の模様のコートを、ヒラヒラなびかせながら、白い仮面の二人が迫る。



「ようこそお越しくださいました、ネラー世界の皆様。

 私は、案内人、ギャベルと申します。

 驚くかも知れませんが、ここは貴方達の世界とは全く異なる世界

 ナロー世界という異世界でございます」


(なっ、なにっ!? 異なる世界……異世界だと!?

 もしかしてコレって、クラス転移ってやつ!?)


 背の高い白仮面男"ギャベル"のセリフに、

 異世界転生のお決まりセリフに、

 俺は興奮せざるを得なかった。


「とつぜん召喚してしまい、申し訳ないのですが……緊急事態なのです!

 どうか頼みを聞いて下さい!

 私たちは、あなたがたネラー世界の勇者さまに、ダンジョン攻略をお願いしたいのです!」


(出ました! お決まりの「我々を救って下さい」展開!)


 ダンジョン!? 勇者!?

 なるほどな、面白くなってきたじゃないか!!

 これで俺が勇者として活躍すれば、

 クラスの人気者になって、陽キャになれるかも知れない。

 あわよくば、彼女を作ってセッ○○だって…!!

 俺はワクワクとした気持ちで、ギャベルさんの次の言葉を待った。



「ハァ!? 勇者!? ダンジョン? ふざけた事言ってんじゃねぇよ! 早く俺たちを元の場所に返せ! 俺は部活で忙しいんだよ!」


 そう叫んだのは、野球部の岡野大吾おかのだいごである。

 いやまあ、気持ちは分かるけどさ、異世界だよ??

 ワクワクしないのだろうか?


「そうだよ、訳わかんねぇ! ちゃんと説明しろ」

「誘拐だよね、コレ」

「怖いよっ、何言ってんのあの人」


 岡野大吾おかのだいごの言葉に続いて、クラスの皆が、一気に騒がしくなる。


 どうやら、この展開にワクワクしているのは俺だけのようだ。

 他のクラスメイト達は、異常事態への不安や恐怖の方が大きいらしい。

 確かに不安はあるけどさ…… 

 でも異世界だよ!?

 きっと魔法が使えるよ!?


 ザワザワとした空間の中、仮面男ギャベルは説明を続ける。


「皆さま、どうかお願いします。たった一日で終わる簡単な任務です。

 【特殊スキル】をもった貴方達にとっては、簡単な任務の筈です。

 任務完了時には、19億円を報酬として支払わせて頂きます。」


(はぁ!?

 じゅじじゅじゅうきゅうおくぅ!!??」


「は?」

「19億って!??」

「はぁ!? なに言ってんだ!?」

「特殊スキルって何?」


 仮面男ギャベルの、19億という数字に、クラス中がどよめいた。

 報酬が19億円って…嘘だろ!?

 幾らなんでも、ぶっ飛び過ぎだろ!?



「19億!? たった一日働いただけで!? そんなのやるしかねぇだろ!? なぁ皆!」

「いや、嘘だろ」

「冗談はいいんだよ! 早く教室に返せ!」

「ダンジョン攻略とかって危なくないんですか!?」

「簡単な任務と言ってたから、怪我の心配はないんじゃないか?」


 クラスメイトが、ザワザワと騒ぎはじめる。

 しかし、19億円という破格の値段に、魅力を感じないものはいないだろう。



「ちょっと待って下さい、19億円なんてっ! 私達をバカにしてるんですか!? 

 お金なんていりませんから。私達を元の世界に返して下さい!」


 ひときわ大きな声で叫ぶのは、新崎直穂にいざきなおほさんである。


 黒髪ショートカットで、ツンとした目の真面目な女の子だけれと、

 話してみると案外面白い人である。

 そしてこの学校で唯一、俺と同じ中学校の出身である。

 しかし俺が中学の時、彼女に告白してフラれたこともあって、あれ以来まともな会話をした事はない。

 いやフラれたといっても、もう未練なんてないんだからな。

 今は三次元リアルよりも、二次元バーチャルの時代だ。



「確かに、19億円は高く感じるかもしれませんね。

 疑い怪しむ気持ちも分かります。

 ですが、ダンジョンのボスの攻略報酬である、三つの宝石。

 【ネザーストーン願いを叶える石】という宝石には、19億円以上の価値があるのです。

 さらに、ダンジョンの攻略期限は、あと3日しかありません。

 私たちは【特殊スキル】をもつあなた方勇者様に、頼るほかないのです!

 どうか力を貸して下さい!」



 背の高い仮面の男ギャベルは、両膝をついて土下座をした。


 一方で、彼の隣にいるもう一人の背の低い仮面の人物は、じっと腕を組んだまま微動だにせずたたずんでいた。

 おいおい。ギャベルさんが必死で土下座しているのに、お前はリアクションも無いのかよ。

 ギャベルさん可哀想に…



「だってよ! とにかくやってみようぜ!!19億なんて最高じゃないか!!」

「土下座までされたら、ね?」

「俺たち、魔法とか使えるんじゃないのか?! 俺こういうの夢見てたんだ!!」

「しょうがねぇなぁ、困ってるなら、手伝ってあげようか」


 仮面男ギャベルさんの誠意の土下座と、なにより19億円という破格の数字に圧倒されて、

 クラスの意見は、ダンジョン攻略に力を貸すという方向でまとまっていった。

 


──────────


3.

 

「ではまず、今日の予定を説明していきます。

 まずは【特殊スキル】の確認、次に実践練習、最後にダンジョンボスの攻略を行ってもらいます。

 そしてディナーパーティーの後、報酬の19億円を持ち、現実世界に帰還という形になります。

 帰還時間に関してはご安心下さい。

 私たちは、召喚直前の時刻・・に時を巻き戻して、送り届ける事ができますから」


(もと来た時刻に戻れるのか、良かった。

 今夜の白菊ともかちゃんの3周年記念配信を、リアルタイムで観られる!)


「召喚直前の時刻って?」

「タイムスリップってヤツだろ。ここ過ごした時間が、なかった事になるってコト」

「へぇ。じゃあ何も心配いらないじゃん」


「……皆様は安心して、ボス攻略に励んで下さい。

 ではさっそく、【特殊スキル】について説明します。

 まずは、心の中で「ステータスオープン」と唱えてください。

 目の前に現れる「ステータスウィンドウ」には、自分のステータス、レベル、スキルに身長体重など、様々な個人情報が載っております。

 ああ、本人にしか見ることが出来ないので、プライバシーはご安心を」


 仮面男ギャベルはそう説明した。

 

「うおお、マジのステータス画面じゃん!! すっげ、ゲーム画面よりかっけ!」

「特殊スキル、【火爆ファイヤバーン】!?、なんだこれ。」


 さっそく試したらしいクラスメイトが、驚愕の声をあげる。



「【特殊スキル】は、個人の得技とくぎもとになっています。

 あなたの特技を最大に生かして、ダンジョンボスと戦えるはずです」


 仮面男ギャベルは、そう付け加えた。



「へー。私はサッカー部だから、【剛蹴スチルキック】と【爆走バーンダッシュ】ってカンジね」


 と、呟いているのは、朝尾和奈あさおかずなさんだ。

 先ほどの【クラスのエロい女子ランキング】で一位だった女の子だ。

 性格は明るく男勝りで、サッカー部では唯一の女子部員として、日々汗を流している。

 加えて、彼女はパイがデカい。

 彼女が二つの果実をユサユサと揺らしながら駆け回り、玉を蹴る姿は、多くの男子の期待と股間を膨らませる。

 浅尾さんが、このクラスで一番モテるのも、必然である。



 そんな浅尾和奈あさおかずなさんのスキルは、【剛蹴スチルキック】と【爆走バーンダッシュ】らしいけど。

 めっちゃ強そうなじゃないか!

 俺の特殊スキルはなんだろうな?

 だが俺の得意な事といっても、あまり心当たりがない。

 なにせ成績不振で運動音痴のひょろがり陰キャぼっちだ。

 エロとアニメとVtuberにハマっている二次元オタクだ。

 心の癒しは画面の向こう側にしかいない。


(ステータスオープン!!)


 俺は心の中でそう叫んだ。

 頼む!

 どうかどうか!

 強いスキルでありますように!!


 

 万浪行宗まんなみゆきむね

 ――――――――――

 身長 165cm

 体重 59㎏

 ルックス   21   

 ――――――――――

 レベル  27/100

 職業   召喚勇者

 ――――――――――

 攻撃力    18

 防御力    28

 魔法力    58

 魔法防御力  32

 敏捷性    14

 知能     42

 ――――――――――

 総合値 162/600 

 ――――――――――

 特殊スキル【自慰マスターベー〇ョン

 ――――――――――



 はぁ???



 いや…待て待て落ち着け、

 そんなバカな。


 いや無いな……

 ふぅ、落ち着け。

 見間違いに決まってる。

 見間違いに違いない。


 もう一度、見てみよう。


 えーっと、俺の特殊スキルは・・・・・・



 ーーーーーーーーーー

 特殊スキル 【自慰マスターベー〇ョン

 ーーーーーーーーーー


 ・・・・・・


 なんだよ、コレぇえぇっ!

 自慰マスター◯ーションッ!

 これが俺の特殊スキルだと!?

 はぁ!? 嘘だろ!??

 見間違いであってくれよ!!


 自慰!マスター○ーション!!

 即ちオ○ニー!!

 エ○イ妄想をしながら、一人で自身の○器を擦り、快感に浸るという、俺の日課じゃねぇか!!

 


 ギャベルの説明では、

「【特殊スキル】は、個人の得技とくぎもとになっています」

 と言っていたが……


 【自慰マスター○ーション】が俺の得技とくぎ!?

 人として終わってるだろ!?

 

 確かに! そりゃ好きだよ!!

 学校から帰れば、両親に内緒で買ったオ○サポ音声、エ○アニメ、オ○ホールを使って、

 毎日むちゃくちゃ○コってるよ!!


 でも仕方ないじゃないか!!

 俺は健全男子だぞ!?

 クラスメイトと会話できない俺に、彼女ができるわけもなく!

 オ○ニー以外に得意な事がないからって、こんな仕打ちはあんまりだろ!?

 せめて「スキルなし」の方がマシだったわ!!



 それにスキル【自慰マスターベー〇ョン】って何だよ!?

 オ○ニーで戦えってのか?!

 ただ自分がめちゃくちゃ○持ちいいだけじゃねぇかよ!?


 そんなツッコミを入れると、ステータスウィンドウがさらに開いた。



ーーーーーーーーーー

 【自慰マスターベー〇ョン

 自慰行為のフィニッシュ後、10分間のあいだ。

 ステータス上昇し、賢者となる。

ーーーーーーーーーー


 

 誰が賢者タイムじゃ!!? ふざけんな!!

 強くなる為に、毎回オ○ニーしろと?

 ボスとの戦闘中に!?

 クラスメイトのいる中で!?

 出来るわけねぇだろうが!!



 最悪だ。生物として恥ずかしい。

 こんなスキル、誰にも知られる訳にはいかない…

 誰かにバレたらどうしよう……


 俺はステータスウィンドウをさっと閉じて、

 周囲の様子を確認した。



「うぉー、俺様は五個も特殊スキルがあるぜ!」

「まじ!?流石だな、何持ってんの!?」

「【怪力パワー】と、【空中浮遊エアフロー】と、【聖騎士ホーリーナイツ】と・・・」

空中浮遊エアフロー!?飛べるの?いいなぁ!!」

「私は【超炎魔法ハイパフレイム】と、【真空斬バキュースライス】だった、なーちゃんはどうだった??」

「え? 私?? ……私は、【超回復ハイパヒーリング】の、一つだけみたい……」



 五個!? 

 何でやねん!!

 俺はゴミスキルを一つしか持っていないのに!?

 五個だと!?

 【特殊スキル】を五個もつチーターの名は、野球部の岡野大吾おかのだいごであった。

 まあスポーツ万能の彼なら、当然かもしれない。



 さーて、困った……

 もし誰かに

「なあなあ、お前の特殊スキルは何だった?」

 って訊かれたら、

 なんて誤魔化せば良いんだ!?

 嘘をついても、結局あとでバレてしまうし……

 

 まあでも心配ないな。

 俺は生粋の陰キャぼっちだ。

 俺に話しかけようとする人なんて、誰も居ない。


 俺はそう思い、安心していたのだが……




 クラスで一番大嫌いな男が、俺に話しかけてきた。


「なぁなぁ、おっぱいクン?? お前の特殊スキルは何だったんだ?!」


 野球部の、岡野大吾おかのだいごが、

 わざわざ俺に、そう聞いてきた、


 岡野大吾おかのだいごは、ギャグのセンスもあって、

 クラスの雰囲気を盛り上げる、リーダー的存在である。

 一方で、声が大きく暴力的で、俺みたくぼっち陰キャを見下す側面があるヤツだを

 クラス内には俺以外にも、心の中で彼を嫌う者は少なくないだろうが、それが口から外に出ることはない。

 陽キャは多少性格が悪くても、面白ければ陽キャなのだ。

 

 ちなみに「おっぱいクン」というのは、こいつが俺に付けたあだ名だ。

 俺の名前の「行宗ゆきむね」の、

 "むね"、が、"胸"になって、おっぱい君というあだ名になった。

 本当にこいつはクソ野郎だ。


「おい、なんか言えよ。俺様が聞いてんだぞ!?」

「・・・言いたくない・・・」


 言えるわけがねぇ、こんな奴に、

 もしスキルを言ったら、絶対に皆んなの前で暴露されて、

 クラスメイトから白い目で見られて、

 俺のあだ名は「オ○ニー君」に降格してしまう。

 俺のクラスでの居場所は、本格的に消滅する。


「ふん、やっぱりお前クソつまんねぇなぁ。

 だから友達いねぇんだよ」


 余計なお世話だ……

 岡野大吾おかのだいごはそう言い捨てて、去っていった。


 岡野大吾おかのだいごは、ここで俺にキレたり、暴力を振ったりしないのだ。

 そんな事をすれば、クラスメイトからのヘイトを買ってしまう。

 あくまでクラスの中心として、陽キャとしての立場を崩さない範囲で、

 俺を貶してくるズルいやつだ。


 

 しかし、とにかく一安心だ。

 俺の秘密は守られた。


「それでは、話を進めたいと思います」


 仮面男ギャベルが、大きめの声で注意を引いた。

 

「スキル内容の確認は、出来ましたでしょうか?

 それでは時間もありませんので、さっそく実戦の中で「特殊スキル」での戦闘に慣れてもらいます。

 これより、ヴァルファルキア大洞窟。深層第七階へと集団転移いたします」


 ギャベルは、静かな声でそう告げた。


 ええ? もう実戦か? 

 日帰りだから、今日中には現実世界へ帰れるようだが、

 

 戦闘初心者の俺たちが、日帰りでダンジョン攻略なんて出来るのか?

 簡単な任務だとは言ってたが……

 夢のたった一日限定異世界旅行。

 俺としてはかなり物足りないが、クラスの皆はやる気みたいだ。


 だが、俺の特殊スキルは、使いものにならない。

 

 特殊スキルを使わず、戦闘なんて出来るのか?

 大丈夫かな? 幸先不安だ……


 そんなモヤモヤを抱えながら、

 俺はクラスの皆と共に、ダンジョンへ向かうのだった。

 

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