限定SS『家』1



※こちらはパーティーメンバーの出会いの物語となります。


今回はハルクが現在のパーティーメンバーと出会った経緯についての話で、全2話です。


2のほうに、少しグロテスクな表現がありますので、ご注意ください。




***


(別視点)







「やっぱり、オレらって何か足りないよな」


 狩猟依頼を終えて冒険者組合本部の受付にて、ノーヴェはぼんやりと呟いた。


 思いの外、その呟きは大きく響き、前を歩く二人が振り返る。



「君がいるおかげで攻撃に集中できるし、薬草の採集も効率的だよ」

「まあ、そうなんだけどな。でかい獲物を狙うときにいまいち押し切れないっていうか……」

「それはお前が手当たり次第殴るからだろう」

「ちゃんと急所狙ってるぞ!」

「ふむ……」


 ノーヴェとアキが言い合いをする横で、シュザは考え込んだ。


 階位が上がり、狙う獲物や遭遇する魔物も強いものか増えてきた。3人はそれぞれに腕が立つし、役割も分担できているので、それなりに何とかやれてはいる。


 だが、ノーヴェの言うことにも一理あった。



「……確かに、もう一手攻撃が足りないという場面は少なからずあるね」

「だろ?何か策がいるよ」

「そんなに難しい問題ではないと思う」

「どうする気だ?」


 ノーヴェの問いに、シュザは微笑んだ。



「人を増やそう」



 そうして、シュザたちは人員募集を始めた。



 冒険者組合でパーティーを組む際、自分で声を掛ける場合と、組合の職員によって紹介してもらう場合がある。


 紹介の場合は、階位が近くて需要に合っている人員を職員が厳選するため、外れが少ないという良い点があった。


 さっそくシュザは受付で相談をする。


 そして幾人か選んでもらい、その中から条件に合いそうな人と対面することになった。


 数人と面談した。どの冒険者もそれなりにうまくやれそうではあった。しかし、それぞれアキ、ノーヴェ、シュザの順に首を横に振る。



「経験が少なすぎる」

「魔法得意?オレがいるから必要ないな」

「護衛経験が豊富……悪くないけど、僕たちが求めているのは魔物や動物を狩る技術だからね」



 というわけで、全滅だった。


 再度受付に相談に向かう。


 受付の職員は、条件に合う人がもうひとりいると言った。しかし、どうも歯切れが良くない。


 詳しく問えば、その人物というのが最近外国からやってきた冒険者らしく、腕は立つのだがどうにも他の冒険者とうまくやれていないようだった。


 ついには、誰も組みたがらないようになったという。


 職員としてもその冒険者の状況を改善したいという思いがあり、最後の頼みの綱にすがるようにして、シュザに会うだけ会ってみてほしいと懇願した。


 王都に滞在する冒険者が多いとはいえ、そんな人物がいたら少なからず耳に入っていたはずだ。しかし、シュザは初めてその冒険者について知った。


 とりあえず、会うことになった。



 入り口近くの待機所で待ち合わせる。



「あの人かな?」


 ノーヴェが指差したほうに、こちらに背を向けて座る姿が見えた。


 青みがかった長い髪をひとつに束ね、異国の服を身にまとったその人物は、凛とした姿勢で本を読んでいた。


 目に入った瞬間、シュザは心がざわつくのを感じる。


 その後ろ姿が、どことなく父親のキュリアーノに似ていたからだ。父も長い金髪をひとつに束ね、それを美しくなびかせていた。まるで、物語の英傑のように。


 しかし、目の前の人物の髪は深い青色をしている。まったく異なっているのに、どうして重なって見えるのか。シュザは頭を振って、雑念を払いのけた。



「こんにちは」


 シュザが声を掛けると、その男は振り返り髪と同じ色の瞳をシュザたちへ向けた。



「僕はシュザという。君が紹介された人かな?」

「……そうだ。俺はハルク」

「ハルク、よろしく」


 ハルクと名乗った青年は立ち上がって、武人らしい優美な礼をしてみせた。


 口数は少なそうだが、礼儀はきちんとしている。人柄に問題はなさそうだが、なぜ誰も組みたがらないのか。


 得意な武器を問えば、ひと通り何でも使いこなせるという。ノーヴェはそれを聞いて半信半疑の表情になったが、ハルクの目は嘘やはったりを言っているようではなかった。



「では一度、一緒に狩猟に行ってみよう。共に行動すれば相性もおのずとわかるからね」

「……わかった」


 ハルクは、ほんの少し嬉しそうに言った。


 誰にも組んでもらえず、寂しい思いをしていたようだ。シュザは、どことなく犬のようなその態度が微笑ましく感じて、情が湧いてきた。


 ひとりでも冒険者はやっていける。現に王都では、ひとりで活動して名を上げている者もたくさんいた。


 しかし、このハルクには仲間が必要なように思われた。ひとりにしておいては、いけないような何かがある。


 もし相性が良くないとしても、何とか合うパーティーを見つけてやりたいとすら思った。捨て犬の飼い主を探してやるような心境だ。


 受付の職員も同じ気持ちだったのかもしれない。


 ノーヴェやアキは懐疑的だったが、シュザはハルクと会った瞬間から、これから一緒に組むことになるだろうという予感があった。





(つづく)



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