200話記念SS『言葉遊び』
(主人公視点)
「じゃあアウル、やってごらん」
微笑むリーダーに促され、俺は紙の束を握りしめて気合を入れた。
今日は、リーダーに字を教えてもらっているのだが、趣向を変えてちょっとしたゲームをすることになった。
ルールは簡単だ。
居間の机に並べられた道具などのいろいろな品の前に、その名前が書かれた紙を置いていく。
たったそれだけ。
しかし、正解したらアキからおやつをもらえるのだ。めちゃくちゃ気合が入るな。
単語カードの使い道をリーダーが考えた結果こうなった。楽しそうだし、実用的な字も覚えられるし、おやつももらえるし、いいことずくめだ。
10個ほどの品を前に、リーダーが書いた紙を握りしめた。
がんばるぞ。
まず1枚目……読めるかな?『つぼ』かな。
壺、あるな。
俺は壺の前にその紙を置いた。
順調、順調。いいぞ。
次は……『湯呑み』、いや『コップ』だろうか。こちらの言語では呼び方が似ている。急に難易度が上がった。
でも、置いてあるものの中でコップっぽいものはひとつだけだった。よかった、両方置いてあったら詰みだったな。
さて、次は……?
こうして、俺は『ハサミ』『晶石』『ポーチ』『薬瓶』といった単語を覚える事ができた。途中、ちょっと読みにくいものもあった。そういうやつは、消去法と勘で乗り切る。
悩みつつ、全部の紙を置き終わって、リーダーに見てもらう。
「……うん、全部正解だ。よくできたね」
リーダーはニコニコしながら俺の頭を撫でた。何とかなってよかったぜ。これでアキにおやつをもらえる。
「じゃあ、次は……この部屋にあるものに、この紙を置いていってごらん。出来たら、おやつを追加だよ」
何!追加でもらえるのか。
それは頑張らねば。
また紙の束を渡される。さっきより多い。
1枚目……『ダイン』?
ダインいる?……巣にいるな。俺はダインのおなかの上に紙を乗せた。
「おい」
ダインは何か文句を言いたそうだったが、聞き流した。落とさないでくれよ。
次は、『椅子』……だと思う。
しかし、居間には椅子がいくつもある。来客用のものを選んでそこに乗せた。
次は『長椅子』。危ない危ない、『椅子』と似てるけどこちらは複数形なのだ。これも長椅子に乗せる。
こんなふうに、居間にあるいろんな物や人に紙を乗せていった。
居間をぐるぐる駆ける俺をリーダーが微笑ましく見守っていた。
『アキ』『シュザ』といった人物名もある。これはすぐわかるぞ。
「あれ?ぐるぐる歩いてどうしたんだアウル」
ノーヴェが薬草を握り締めながら居間に入ってきた。
ちょうどいいところに!
俺は椅子に座ったノーヴェの前に『ノーヴェ』の紙を置いた。
「え、何?」
「アウルは今、字の練習中だよ」
「字?ああ、なるほど。がんばれよ」
困惑するノーヴェにリーダーが説明してくれた。みんな付き合ってくれて優しい。
『ハルク』と書かれた紙もある。
居間の端っこで武器を磨いているご主人の前に、その紙を置いた。
うん、だいたい全部置けたかな。
最後に1枚、手のひらの中に紙が残った。
えーなになに。
『よくできました。この紙をアキに見せると、おやつがもらえるよ』
だって!
俺は驚いてリーダーを見た。
「少し長いけど、読めたかな?」
俺がうなずくと、リーダーもうなずいた。
「じゃあ、どうしたらいいかわかるね?」
わかる!
俺は厨房のアキのところへ急いで行き、紙を見せた。
紙を見たアキは、うなずいてプリンのようなものが入った器を渡してくれた。
プリン!
それにさらに果物とカラメルみたいな色のソースを乗せる。
そして、果物を絞ったジュース!
やったー!
俺はたぶん、満面の笑みだったと思う。
こうして、俺は無事におやつを手に入れることができた。リーダーは人を動かすのが上手いな。
テーブルに持っていって、報酬のおやつを食べた。
おいしい!
プリンを味わう俺の前に、リーダーは『アウル』と書かれた紙をそっと置いたのだった。うん、俺だな。
これ、楽しいしおいしいので定期的にやってほしいです。
クッションの山の中から「まだ動けねェのか……?」って声が聞こえてきた。
む、ダインのこと放置してた。
俺はダインのところへ行き、お腹に乗った紙を裏返して、そこに文字を書いてからまた置いた。
じゃ、プリンを食べる作業に戻りますんで。
「なんだこりゃ……どうでもいい言葉覚えるんじゃねェよ」
何か声がしたが、プリンを味わう俺の耳には入ってこなかった。
のちに紙は回収され、俺の単語カードに加わった。
『ダイン』のガードだけ、裏に下手な字で『やわらかい』って書いてあるのだった。
(おしまい)
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