第23話
そんな風に考えるようになってきた。
毎日イジメを受けている由香里を見ても、なにも感じなくなっていく。
「今度クラスのみんなで遊びに行くんだぁ」
そんな会話の中には当然のように由香里の存在は入っていなかった。
「静と私は親友だから!」
美幸がそう言って肩を組んでくると嬉しかった。
親友。
そうだよね。
私の親友は美幸だけだ。
高校に入学してからずっと仲が良かったし、他の子じゃいけない。
美幸に流されるようにして少し派手な格好をして歩くのも楽しかった。
自分に自信が持てて、積極的になれる気がした。
それは、一緒にいる相手が美幸だからだった。
由香里じゃダメだ。
イジメられて陰気な顔をしてうつむているばかりの由香里じゃ。
でも、静は常に心のどこかで由香里のことを気にかけていた。
どこかで謝りたいと思っていた。
タイミングがあれば。
チャンスがあれば、また小学校時代のように仲良くなれるんじゃないかと考えていた。
だって由香里は転入してきてしばらくの間はニコニコと昔の笑顔を浮かべていた。
みんなと仲良くするために、前向きな発言をしていた。
それを奪い取ったのは、間違いなく自分たちだ。
グシャッと自分の頭部が潰れる音を聞いた静の目にはもうなにも写っていなかった。
光をなくした灰色の目が空虚へ向けられている。
そのとき、雨音に混ざって誰かの足音が近づいてきた。
静は見えない目をそちらへ向ける。
そこには死んだはずの由香里が立っていて、静へ向けて手を伸ばしている。
その手を握りしめようとしたら、自分の霊が体から引き剥がされているバリバリという不快が音が体内から聞こえた。
この体から離れれば私は死んでしまう。
まだ、今は生きているけれど、本当に死んでしまう。
ほんの一瞬死への恐怖がまた芽生えたが、それはすぐに消えていった。
落下した体の心音がここで完全に途絶えたからだ。
静の魂は今度は音もなく体から抜け出すことができた。
そのまま由香里と手をつなぎ合う。
「ごめんね由香里」
「ううん。静の気持ちはわかってたから」
にっこりと、昔の笑顔で答える由香里に、静かの心から生前のあらゆる足かせが消えていく。
親友だと言ってくれた美幸のこともすぐに忘れて、由香里と共に天へ向けて歩き出したのだった。
翌日の朝は美幸の悲鳴で叩き起こされた。
結と明日香が部屋を出ると窓に張り付くようにして美幸が叫んでいる。
すぐに駆け寄って確認してみると、窓の真下あたりに倒れている静がいた。
すでに死んでいるのは一目瞭然で、その姿は静に送られきた写真と全く同じものだった。
「なんで!? なんで静が死んだの!?」
部屋から出てきた毅と哲也を見て美幸が詰め寄る。
ふたりはなんのことだという様子で怪訝そうな表情を浮かべた。
「静を騙したんだ!」
美幸がふたりから後ずさりをして叫ぶ。
「騙す? なんのことだよ」
「とぼけるな! 昨日静はあんたたちに助けてって言ったはずでしょ!」
「俺たちに? なにかの勘違いじゃねぇの?」
毅はあくびをしてそう答え、美幸の体を押しのけて食堂へ向かおうとする。
その前に立ちはだかったのは結だった。
結はキッとふたりを睨みつける。
「昨日、静の姿も毅と哲也の姿もあんまり見なかったよね? なにかあったんじゃないの?」
今までずっと一緒に行動してきた静が昨日はほとんど姿を見なかった。
それは結も気になっていたところだったのだ。
ただ、同じ部屋の美幸が『大丈夫だから』と言うので探したりはしなかった。
でも、今朝の美幸の様子を見ているとただ事ではなそうだ。
「静はこのふたりに頼んで死ぬのを回避したはずだった! それなのに……!」
美幸はそのまで言って下唇を噛み締めた。
「静を助けるっていうのは嘘だったってこと?」
「だったらなんだよ? お前が静の代わりに死んでやったのか?」
毅に見下されて結は視線をそらす。
「身代わりになるどころか、お前は1度経験して助かってるんだもんなぁ? 今回のことだって高みの見物してんだろ?」
「そんなこと……っ!」
決して今の状況を楽しんでなんていない。
毎日毎日仲間が死んでいく状況を楽しむことなんてできない。
「やめろよ」
結と毅の間に割って入ってきたのは大河だ。
大河は窓の下へ視線を向けて小さくため息を吐き出す。
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