第18話

「なんで……!?」



悲鳴に近い声をあげて後ずさりをしたのは静だ。



体のバランスを崩してそのまま床に倒れ込む。



それでもすぐに起き上がろうとはしなかった。



「死体写真」



結が小さく呟く。



哲也に送られてきた写真は間違いなく次の死体写真で、その中哲也は包丁で突き刺されて死んでいるのだ。



全員が呼吸すら忘れていたかもしれない。



今日の昼間全員のアドレスを空にしたはずなのに、どうして?



もしかしてアドレスを削除することなんて関係なかったんだろうか。



「なんでだよ!? なんで俺に届くんだよ!」



哲也が叫んでテーブルを叩きつける。



「やめてよ! もうやめて!」



明日香は半分パニック状になり、泣きながら頭を抱えている。



「落ち着けって!」



叫んだのは毅だった。



毅が死ぬ時間はもう過ぎているけれど、それについて指摘する生徒はいなかった。



「みんな、自分の持ってるスマホを見せろ」



毅は全員が敵であるかのように鋭い視線を向けてそう言ったのだった。


☆☆☆


哲也にメールが送られてきた原因は、誰かのスマホに哲也の番号が残っているから。



総判断した毅はひとりひとりのスマホを確認していった。



しかし全員ちゃんと削除されていて、アドレスが残ってる者はひとりもいない。



「アドレス削除なんて関係なかったんだ」



豊が絶望的な声で呟く。



その隣には泣きじゃくっている明日香の姿。



結は力なくふたりを見つめた。



こんなに次から次へとメールが届いたのでは、どう対処すればいいかわからない。



呪いは自分たちを狙っているとしか思えなかった。



「先生のアドレスもちゃんと削除されてた」



哲也が先生のスマホをテーブルに投げ出して言い、そのまま椅子に座り込んで頭を抱える。



明日の今頃には自分は死んでいるかもしれない。



その事実が重たくのしかかってくる。



「由香里のスマホはどうだ?」



毅がそう聞いたとき、誰も反応を見せなかった。



さっきからスマホを確認していたのは毅だけだから、他の者が知っているはずもない。



「おい、誰か由香里のスマホを知らないのか?」



毅の言葉が強くなる。



そういえば、どこにあるんだろう?



由香里のスマホを探しだしたのは結だけれど、アドレスを削除した後どこにいったのかわからない。



全員が黙り込んでいると、匠が小刻みに体を震わせていることに気がついた。



匠が座っている椅子がカタカタと音を立てていて、それが耳障りだ。



「おい、お前」



毅が大股で匠に近づこうとしたそのときだった。



「あははははは!!!」



突然顔を上げたかと思うと、匠が大声で笑い始めたのだ。



鼓膜が破れてしまいそうなほどの大声に、咄嗟に両耳をふさぐ。



「届いた! 今度はお前に届いた! お前が死ぬんだ!」



ケタケタと笑いながら哲也を指差す。



その目には涙まで浮かんできている。



「なんだと!?」



哲也が顔を真赤にして匠に詰め寄る。



それでも匠は笑うのをやめなかった。



お腹をよじって笑い続けている。



「ざまぁみろ! 僕をイジメるからこんなことになるんだ!」



叫びながら匠がポケットからスマホを取り出した。



それは由香里のスマホだと、すぐにわかった。



「そのスマホ……!」



明日香が息を飲む。



哲也は匠からスマホを奪い取ると、すぐにアドレスを確認した。



あのとき全員で削除したはずだ。



それなのに……そこには哲也のアドレスだけが登録されていたのだ。



自分のアドレスだけが登録された画面を見て強いめまいを感じた。



体がふらつき、テーブルに両手をついていないと立っていられない。



「お前……!」



荒い呼吸を繰り返して匠を睨みつける。



こいつが俺のアドレスを登録しやがったんだ!



それしかなかった。



匠はこっそり由香里のスマホを手にして、哲也のアドレスだけを登録したのだ。



日頃受けているイジメの復讐のために。



哲也はギリッと奥歯を噛み締めて匠を睨みつける。



匠はニヤニヤとした粘り気のある笑みをたたえて哲也を見つめた。



「由香里のことはどうせ君たちふたりが殺したんだろう?」



「黙れ!」



咄嗟に哲也は叫んでいた。



自分でも気がつかないうちに顔が真っ赤に染まり、興奮状態になっている。



こんなことでは匠の言うとおりだと肯定しているようなものなのに、自分を抑えることができない。



「毅のスマホに送られてきた死体写真は溺死。由香里も溺死。こんなの偶然じゃないに決まってる」



「黙れっつってんだろ!?」



哲也が匠の胸ぐらを掴んで引き倒し、馬乗りになる。



匠は一瞬痛みに顔をしかめたものの、まっすぐに哲也を睨みつけてきた。



普段の匠から考えられない態度だ。



少し怒鳴って殴ってやればどんなことでも言うことを聞いてきたくせに。

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