第15話
「ない!!」
いざ集金袋を職員室へ持っていく段階になって、生徒会長が全員に聞こえるように叫んだのだ。
もちろん、その場にいた全員の視線が生徒会長へ向かう。
由香里もなにごとかと視線を向けた。
「どうしたの?」
生徒会長と仲のいい女子生徒がすぐに駆け寄って訊ねた。
「集金袋がないの! カバンに入れておいたのに!」
大金がなくなったことで由香里は目を見開いた。
「ちゃんとカバンに入れておいたの?」
「入れたよ! ねぇ、みんな探すのを手伝って!」
思えばこのとき生徒会長も他の生徒たちも微かな笑みを口元に浮かべていた。
それに200万円もの大金がなくなったというのに、真っ先に先生に知らせようとする生徒は誰もいなかったのだ。
この時に気がつけばよかった。
けれど由香里は妙な点に気がつくこともなく、集金袋探しに付き合うため自分の席から立ち上がったのだった。
ロッカーの中。
本棚の隙間。
あらゆる場所を探してみても集金袋は見つからず、ついには「みんなのカバンの中を確認してみよう」という提案がなされた。
誰が言い出したのは、由香里は今でも思い出すことができない。
だけどきっとその人物が、この出来事の提案者だったのではないかと思っている。
まずカバンを見せたのは生徒会長だった。
そこに入っているはずの集金袋はたしかになくなっている。
それから出席場暗号順にカバンを見せていき、最後に由香里の番がきた。
由香里は生徒たちに囲まれながら机の上にカバンを出した。
そして蓋をあけると……そこには紛失した集金袋が入っていたのだ。
それを見た瞬間由香里は目の前が真っ白になった。
どうしてここにこれが入っているの?
わからずに混乱し、倒れてしまいそうになる。
「あんただったんだ」
生徒会長からの冷たい声に我に返って顔を上げた。
見るとE組の生徒全員が由香里へ向けて悪意の含まれた笑みを浮かべている。
そのときようやくこれが仕組まれたことだと気がついた。
みんなで集金袋を探す時に由香里は席を離れた。
その間に机の横にかけてあったカバンに集金袋を入れられたのだ。
だけど、それを信じてくれる生徒はひとりもいなかった。
「泥棒」
「成績がよくても、性格は最悪」
「貧乏人なんじゃないの?」
そんな言葉が降り注ぎ、由香里は顔を上げていることができなくなった。
きつく下唇を噛み締めて俯いているしかない。
せめて先生がいてくれれば。
そう考えたけれど、この一件が先生の耳に入ることはなかった。
当然だ。
これはE組全員が由香里をイジメの道へ陥れるために仕組んだことだったのだから……。
その事件については先生意外の、他の学年の生徒たちにもあっという間に広まることとなり、事実を知らない生徒たちからのイジメが開始された。
無視や持ち物にらくがきすることは当たり前として、由香里の写真を合成してばらまいたりという事件も何度か起こった。
それは合成だとすぐにわかるような陳腐なものだったけれど、偽物だとわかりながら生徒たちは由香里をさげすんだ目で見つめた。
「いつ死んでもいいし」
ある日由香里はリストカットした手首をなでながらそう呟いていたけれど、その言葉を聞いた生徒はごくわずかでしかなかったのだった。
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