第13話

「……写真と同じ死体を作って撮影するんだ。そしてアドレスに送り返す」



「死体を作る?」



毅からの質問に大河は頷く。



「人を殺すってこと!?」



悲鳴に近い声を上げたのは美幸だ。



大河はまたひとつ頷いた。



「写真を送り返すときだけ、返信ができるの」



結がか細い声で補填する。



そう聞いて毅がすぐにメール画面を開いた。



さっき届いたアドレスに、なにも書かないまま返信している。



しかし、返信メールはすぐにエラーになった。



そもそも電波がないのだから、送れるはずもない。



「電波もないのに、メールが送れるのかよ」



哲也が結へ向けて言う。



結は青い顔をしているがしっかりと哲也を見返した。



「電波がないのにメールが届いたんだよ?」



その言葉に哲也は押し黙る。



誰かを殺して自分の死を回避する。



その事実が毅に重たくのしかかってくる。



毅はスマホを強く握りしめると、誰にもなにも言わずにひとりで食堂を出ていってしまったのだった。


☆☆☆


毅が食堂へ戻ってこないまま、結たち他のメンバーは各自の部屋に戻ってきていた。



けれどみんなの間に会話はなく、ずっと重苦しい空気がのしかかってきている状況だ。



部屋の中でもやることはなくて、明日香はすぐに布団をひいて頭まで潜り込んでしまった。



時折布団の中から聞こえてくる泣き声に、結はなにも言えなくなってしまう。



それに途中から由香里の姿がなくて今もまだ部屋に戻ってきていないことが気がかりだった。



一体どこに行ったんだろう?



施設から出ることは不可能だから、行く場所なんてないはずなのに。



できれば明日香と一緒に由香里を探しに行きたかったけれど、とても声をかけられる状態ではなかった。



かと言ってひとりで部屋を出ていく勇気も、今の結にはなかった。



つい数時間前に哲也に突きつけられた包丁のことが目の奥にチラついている。



下手をすれば自分はあのふたりに殺されてしまうかもしれないという恐怖が植え付けられていた。



結は仕方なく明日香の隣に布団をひいて、同じように潜り込んだのだった。


☆☆☆


いつの間に眠ってしまったのだろう。



目を覚ました結が時計を確認すると朝の6時を過ぎていた。



到底眠ることなんてできないと思っていたのだけれど、昼間の疲れのせいか朝まで目をさますこともなかった。



隣を見ると明日香が少しだけ顔をのぞかせて寝息を立てている。



明日香も、豊とふたりで外へ出たりして相当疲れていたはずだ。



窓の外ではまだ豪雨が続いていてうんざりとした気分になってしまう。



今雨が止んだとしても、明日香が見てきた通り脱出するのは難しそうだけれど。



そこまで考えたとき由香里の布団がたたまれたままになっていることに気がついた。



昨日、由香里は部屋に戻ってきたんだろうか?



そして今朝早くに出ていったとか?



その姿を見ていないのでなんとも言えなかった。



だけど妙な胸騒ぎがする。



明日香が起きるのを待ってから結は食堂へ向かった。



なんとなくみんなここに集まってくるのが昨日からの習慣になってしまっているようだ。



食堂内には豊や匠、大河の姿もある。



女子たちも由香里以外の全員が集まっていた。



「とにかく、朝食にしようか」



大河が結にそう声をかける。



結は頷いて立ち上がった。



なにもせずに悶々とした気持ちでいるよりも、少しでも体を動かしていたほうが気分が紛れる。



ふたりが朝ごはんに卵を焼き始めたら、他のクラスメートたちも手伝い始めた。



その間に毅や哲也もやってきたのだけれど、毅だけはひとりで入り口付近の椅子に座って俯いている。



その様子が気がかりではあったけれど、昨日のことを思い出すと声をかける気にはならなかった。



やがて目玉焼きとウインナートーストが出来上がって、それぞれが席につく。



しかし、由香里だけがいつまで待っても姿を現さず、せっかく作った



朝食は冷たくなってゆくのだった。


☆☆☆


食器の片付けがすべて終わる時間帯になっても由香里は姿を見せず、作った料理はラップをかけて冷蔵庫に入れておくことになってしまった。



哲也は食事を完食していたのに、哲也は半分以上残していたことも結の心にひっかかる。



片付けを終えた結は「由香里を探してくる」と、大河に告げて食堂を出た。



もしも由香里が昨日の晩から部屋に戻っていないのだとしたら、さすがにほっておくわけにはいかない。



この施設内には他にも空き部屋があるから勝手にそこで寝起きしたのかもしれないけれど、それにしても今の状況でひとりで行動するのは危険すぎる。



結はひとまず自分たちの泊まっている部屋に戻り、まだ由香里が戻ってきていないことを確認した。



由香里の布団は畳まれたままだし、荷物もそのままだ。



次に鍵の空いている空き部屋を確認することにした。



といっても、その数は一部屋か二部屋しかない。



生徒たちが自由に使えるように解放されいてるのだけれど、使ったことはなかった。



そしてその両部屋とも無人の状態だ。



フローリングの部屋にはテレビや本棚などが設置されているけれど、結の他にも誰も使っていないことがわかった。



こんなことにならなければ今頃みんなでテレビを見たり、トランプをして遊ぶ時間もあったかもしれないのに。



ふとそう考えて泣き出しそうになってしまう。



勉強意外にも楽しいことがあるはずだった林間学校が、まるでサバイバル化してしまっている。



次に探したのは女風呂だった。



男風呂と女風呂は隣り合っていて、大きな声を出せば会話することもできる。



昨日は誰もお風呂に入っていないから、湯船の中にお湯ははられていない。



確か、毅の死体写真は湯船での溺死だったよね……。



空の湯船を見て結の胸は苦しくなる。



今日の夜毅は死んでしまうんだろうか。

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