第12話

「そんな……」



小さく呟いてそのままストンッと椅子に座り込んでしまう。



頭の中は真っ白で、どうすればいいのか考えることもできなくなってしまいそうだった。



「死体写真じゃん!」



美幸が叫ぶ。



「また死ぬってこと!? 今度は毅が!?」



静も叫び、ふたりぶんの悲鳴が聞こえてくる。



「みんな落ち着いて!」



慌てて言ったのは大河だった。



混乱しそうになるクラスメートたちをなだめるように両手を前に突き出している。



「メールを見せてくれ」



手を伸ばして哲也からスマホを受けとる。



その画面を確認した大河は誰にもバレないように息を飲んだ。



そこに写っていたのは風呂場で溺死している毅の写真だ。



よくよく見てみても、加工しているようには見えない。



それに、その浴槽はここの施設のもので間違いないようだった。



愕然としている間に毅が椅子を後ろに倒して立ち上がっていた。



そのままふらふらと結へ向かって歩き出す。



いけない!



そう思っても一足遅かった。



毅は結へ向けて回避方法を詰め寄り始めたのだ。



「確か助かる方法があるんだったよな? それを教えろ!!」



ツバを飛ばしながら怒鳴り、結の胸ぐらを掴み上げる。



華奢な結の体は簡単に持ち上げられて、足先が地面から浮いてしまう。



首を閉められるのと同じ状況になった結はじたばたと両足をバタつかせて、どうにか毅の腕から逃れようとしている。



けれど力でかなうはずがない。



24時間居ないに死ぬかもしれない毅は必死で、結の顔が赤くうっ血していることにも気が付かなかった。



「やめろ! 死ぬぞ!」



大河が叫んで毅の腕に掴まると、ようやく毅は腕の力を弱めた。



その場に崩れ落ちて激しく咳き込む結。



涙が滲んできて、呼吸するたびに咳が出る。



そんな結の前に座り込んだ毅は、今度は結の前髪を乱暴に掴んで上を向かせた。



前髪がブチブチとちぎれていく音が結の耳元で聞こえてくる。



「知らな……」



「うそつけ! 知ってんだろうが!!」



耳元で怒鳴られて鼓膜が震える。



キーンと耳鳴りがして結は顔をしかめた。



「なんで言わないんだよ。お前、毅を殺す気か?」



そう言ったのは哲也だった。



毅の後ろに立つ哲也へ視線を向けると、その手にギラリと光るものが見えて結は息を飲んだ。



いつの間にか包丁が握りしめられている。



その切っ先には結がいた。



これには大河もなにもできず、あとずさりをする。



結へ視線を向けると大粒の涙が頬を流れ落ちていた。



「私は……本当に知らない……」



それでも必死に回避方法を隠そうとするのは、クラスメートを守るためだ。



結の声はガタガタと震えていてそれでも本当のことを言えずにいる。



そんな姿に大河の胸がチクリと傷んだ。



このままじゃこのふたりはなにをするかわからない。



下手をすれば結は殺されてしまう!



大河はグッと握りこぶしを作って「俺が知ってる!」と、叫んだ。



一瞬周囲は静まり返り、全員の視線が大河へ向かった。



毅は結の髪の毛を離して大河へ向き直る。



その目はほんの短時間で充血し、ギョロリと見開かれている。



次は自分が死ぬかもしれないという底知れない恐怖が毅の人相まで変化させていた。



「なんだと?」



そう呟いたのは哲也だ。



哲也は包丁を握り直して大河を見つめる。



「俺が……知ってるんだ」



大河は必死に声が震えないように気をつけた。



哲也が少しでも手元の狂わせれば、自分の包丁が突き刺さるかもしれない。



そんな恐怖は考えないようにした。



「なんでお前が知ってるんだよ」



哲也からの質問に一瞬結へ視線を向ける。



結は座り込んだまま震えていて、腰がぬけてしまったのかもしれない。



「結から聞いた」



そう答えると哲也はふんっと鼻を鳴らして笑った。



だけどここで結と大河の関係をどうこう言うつもりはなさそうだ。



「それで? 回避方法は?」



毅の言葉に大河はゴクリとつばを飲み込む。



ここでそれっぽい嘘をつくこともできる。



だけど、そんなことをすれば毅が死んだときに嘘だったとバレて、哲也は今度こそ自分や結を殺してしまうかもしれない。



ここは、本当のことを言った方が良さそうだ。

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