第7話

それから結は24時間以内に写真と同じ死に方をすること。



あのメールは呪いであることを説明した。



全員真剣な表情で結の話を聞いていて、途中で笑い出したり否定するようなことはなかった。



けれど結が話終えた後は静まり返り、外の雨音がやけに大きく響いてきていた。



「それ、本当のこと?」



口火を切ったのは明日香だった。



眉間にシワを寄せて怪訝そうな表情を浮かべている。



「嘘じゃない。私がこんな嘘をつく理由だってないでしょう?」



「それは、そうだけど……」



「信じたいけど、信じられないって感じかな」



明日香の後にすぐ続けたのは静だ。



静もどこか不満そうな表情を浮かべている。



「でもまぁ、それって回避方法があるんだろ? だから結にメールが届いても生きてるんじゃねぇのか?」



のんびりとした口調で言ったのは哲也だ。



結はビクリと身を震わせて哲也を見つめる。



「それは……」



結は口ごもり、うつむく。



この態度じゃ回避方法があると肯定しているようなものだ。



「なぁんだ、それなら問題ないじゃん」



途端に美幸が明るい声で言う。



他のクラスメートたちも一気に緊張が解けて笑顔を浮かべた。



「それはできないの!」



つい、結の声が大きくなった。



「できない? どういうことだよ?」



毅が首をかしげている。



「そ、それは……」



ここで回避方法を教えたら、自分が生き残った理由がバレてしまう。



どう弁明しようとも自分が生き残るために彼氏を殺したのだと思われるだろう。



だけどそんなこと気にしている場合じゃない。



知っている情報は全部みんなに教えるべきだ。



この施設に閉じ込められて不安定な心理状況の中、更に死体写真について説明してしまったのは自分なんだから!



それでも結は次の言葉を次ぐことができなかった。



誰かこの中のひとりくらいは結のことを信じてくれるだろう。



だけど、他の人たちは?



結が人殺しだと思ってしまう。



グルグルと思案する中で、裕之がビルの屋上から飛び降りた光景が脳裏に思い出されてきた。



結を助けるために、自ら犠牲になった裕之。



結は裕之を助けることができなかったのに!



「イヤァ!」



当時のことを鮮明に思い出してしまった結は悲鳴をあげてその場にしゃがみこんでしまった。



両手で頭を抱えてガタガタと震えだす。



「結!?」



大河が慌てて結を抱き起こそうとするが、結はイヤイヤと左右に首を振って拒否した。



やっぱり言えない。



自分のために裕之が代わりに死んだなんて!



結は勢いよく立ち上がると、弾かれたように教室から逃げ出したのだった。




教室から逃げ出したものの施設内にしか行き場のない結はまた部屋に戻ってきていた。



うずくまって自分の体を抱きしめて震えている結を追いかけてきたのは、やっぱり大河だ。



「今日にどうした? 大丈夫?」



震えている結の手を優しく包み込んで尋ねる。



けれど結はすぐに返事をすることができなかった。



前回の死体写真の全貌を知ってしまったら、きっと大河も自分から遠ざかってしまう。



そうなると結はひとりぼっちになってしまうだろう。



黙り込んでいる結に大河は小さくため息を吐き出す。



「もしかして、回避方法があまりにも残酷だとか?」



そう質問されて結は一瞬大きく目を見開いた。



それからうつむき、畳をジッと見つめる。



あんな状況で逃げ出してきたのだから、バレても当然だった。



「やっぱりそうなのか。だからみんなの前では言えなかったんだね」



大河は難しそうな表情で自分の頭をかく。



「誰にも言えない。絶対に……」



「俺にも?」



大河の言葉に結は一瞬視線を彷徨わせた。



「言えばきっと、私のことを嫌いになる。幻滅する」



「それは聞かないとわからないことだよ。なにより、命がかかった出来事だったんだから、回避方法だって生半可なことじゃないって理解しているつもりだ」



大河の言葉は真っ直ぐだった。



今までだって結のことを疑ってかかるようなことはしなかった。



万が一信じてくれるのなら?



そんな気持ちが浮かんでくる。



それでも簡単に言い出すことはできず、結は黙り込む。



そんな結の隣に大河は座り込んだ。



見るとその表情はとても柔らかくて、結が話せるようになるまで何時間も待つ様子だ。



だけど、時間は刻一刻と過ぎていく。



呪いが発動するまで残り8時間だ。



「私のこと、幻滅しない?」



「もちろん」



大河が大きく頷くのを見て、結も覚悟を決めた。



いずれ誰かに説明しないといけなくなるはずだ。



それなら、今勇気を出してしまおう。



「実はね……」



結は重たい口を開いて呪いの回避方法を大河に説明し始めたのだった。

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