第7話 さらなる人物

「すごい姉さん! じゃあこの『モナ・リザ』のモデルは、サライとリザの二人で決まりね!」


「いいえ、lua、この絵には実はさらに二人の人物が描かれているのよ」


「ええ!? どういうこと?」


「この絵の構図を見ていて何か気が付くことはない?」


「構図?」


「そう、私たちから見て正面に男性がいて、その左側に女性がいるっていう構図よ」


「そんな構図の絵なんて、たぶんこの世にごまんとあるよ」


「ふふ、そうね、ごめんなさい。それじゃレオナルドの作品の中では?」


「レオナルドの作品で? うーん、なんだろ? 分からないわ」


 私は、すでに電源が落ちていたノートパソコンを再び立ち上げて、ある絵画を画面上に映し出した。


「あれ? 姉さん、この絵って『最後の晩餐』よね?[注17]」< pic18 >


「そうよ」


「この絵はたしか、イエス・キリストと12使徒を描いたものでしょ? だから女性はいないはずよ」


「女性ならいるわ。イエスの右隣りに」<pic19>


「右隣って、青い服を着たこの人のこと? でもこの人は確か……」


「そうね、定説では、この人物は『使徒ヨハネ』と言われているわ[注17]。だけど私は、この人はやはり女性だと思う。おそらく、『聖母マリア』よ」


「どうしてそう思うの?」


「理由はとりあえず2つあるわ。まず一つ目は、少なくとも私の目には、この人物は女性にしか見えないということ」


「うん、確かに女性に見えるよね。じゃあ2つ目は?」


「2つ目の理由、それは、この人物のもつ雰囲気が、他の使徒たちのものと全く違っているということ」


「どういうこと?」


「この絵の場面は、イエスが12使徒らと共に摂った食事の際に、『12使徒の中の一人が私を裏切る』とイエスが突如予言した時の情景が描かれているものよね。だから、使徒たちはイエスのその発言に驚いて慌てふためいている」


「確かに」


「でも、この人物だけは慌てているようには見えない。むしろとても落ち着いているわ。つまり、この人物は12使徒の中の一人ではないということ。疑いをかけられている対象ではないから慌てる必要がないというか、この人物の表情には、イエスのことを心配して憂いを抱いているようにも見える」


「なるほど。じゃあ、この絵に『使徒ヨハネ』は描かれていないということ?」


「いいえ、描かれているわ」


「どこに?」


「ここよ」


 私は、『使徒ペトロ』の右手につかまれている『ナイフをもつ右手』を指さした。


「手?」


「ええ、この手の持ち主が『使徒ヨハネ』よ」


「えっ!? 手だけ?」


「そう。この絵で『使徒ヨハネ』の身体は、『使徒ユダ』の後ろに隠れてしまっているのよ。おそらくはこんな感じで。


 イエス・キリスト:この中(12使徒)の一人が私を裏切るだろう。


 使徒ペトロ:な、なんですと? イエス様、今、なんと申されたのか? イエス様! あっ、ヨハネ、このっ、貴様邪魔だ! そこをどけ!


 使徒ヨハネ:あっ


 つまり、用意したお料理のお肉か何かをイエスのそばで切り分けていたヨハネは、激高するペトロに右手を突然引っ張られてユダの背後に隠れてしまったのよ。ちなみに使徒ペトロの隣にいた使徒アンデレは、使徒ヨハネのもつナイフが突如自分の前に突き出されたものだから両手を上げて驚いているわ」


「え―っ!?」< pic 20>< pic 21>


「まあ、これはあくまでも推測よ。だけど、この人物が少なくとも女性であるとする理由は実は他にもあるの。それについては、あとで話をするわ」


「じゃ、仮にこの人物が『聖母マリア』だとして、『モナ・リザ』となんの関係が……えっ、まさか」


「そうよ。『モナ・リザ』には、イエス・キリストと聖母マリアが描かれているの」


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