第3話 男と女

 私は、左の絵のモナ・リザの右半身を隠し、右の絵のモナ・リザの左半身を隠した。<pic7>


「ほら、こうしてみると、私たちからみて右側にある顔が男性の顔に見えない?」<pic8>


「えっ? あっ、確かに。でも左側の顔は……」


「そう、女性の顔よ」


「どういうこと?」


「つまりこの絵は、男女の二人を並べて描いたものだということ。おそらく書き手であるレオナルドの位置からみて正面にいるのが男性で、左側にいるのが女性よ」


「どうしてわかるの?」


「視線の向きよ」


「視線?」<pic9>


「男性と思われる人物の右目は正面に向いていて、女性と思われる人物の左目は、本人側からみて少し左の方を向いている」


「ほんとだ」


「だから、男性と思われる人物は、女性と思われる人物よりも、描き手であるレオナルドに少しだけ近い位置にいることになるわ」<pic10>


「つまり、この2枚の絵のずれは、二人の位置関係を反映させたものということ?」


「たぶんね」


 妹のluaは、左腕を腰のところにもってきて左手の甲の上に右肘をのせると、右手の親指を口で少しだけくわえるようにして絵を見ていた。それは、考え事をするときの彼女のクセだ。

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