第4話 サライ
「姉さん、仮に姉さんのいうことが正しいとして、じゃあ、この男性は一体誰なの?」
「おそらく、その人物は、レオナルドの弟子のサライ(Salai)よ[注6]」< pic11 >
「サライ?」
「ええ、『洗礼者聖ヨハネ』や『バッカス』といった絵のモデルになったといわれている人で、レオナルドが死去する直前まで生活を共にしたらしいわ[注6]」
「へえー」
「とても美しい若者で、レオナルドとはかなり親密な関係にあった人のようね。レオナルドは彼のことを溺愛していたみたい」
「えっ? それって、もしかして同性愛?」
「そういう説もあるようだけど、本当のところはわからない」
私は、再び2枚の絵の方に視線を移した。
「ネットで調べてみると、サライがこの『モナ・リザ』のモデルであると主張する研究者もいるみたい。サライの顔の特徴と『モナ・リザ』の顔の特徴とが部分的に酷似しているんですって[注6][注7]」
「姉さんもそう思うの?」
「ううん、顔の特徴に関しては私には分からないわ」
「じゃあ、どうして?」
「名前(イニシャル)のようなものが描いてあるのよ」
「え?」
「サライの本当の名前は、ジャン・ジャコモ・カプロッティ(Gian Giacomo Caprotti)というの。『サライ』という名前は、素行の悪い彼に対してレオナルドがつけたあだ名みたいなもので、“小悪魔”という意味らしいわ[注6]」
私は、男性と思われる人物の左側を指さした。< pic12 >
「見て、まずはここ。この文字、イタリア語の筆記体の『G』[注8]の一部に似ているわ。さらにその下のこの文字、これはイタリア語の筆記体の『C』[注8]に見えない?」
「確かに、少なくとも下の方の文字はあきらかに『C』よね」< pic13 >
「そう、つまり『G』の文字が『ジャン(Gian)』もしくは『ジャコモ(Giacomo)』を示していて、『C』の文字が『カプロッティ(Caprotti)』を示しているとすれば、この二つの文字はサライを意味していることになる」
「ふむふむ、なるほど」
そう言ってうなずく妹の瞳は、何かを引き込もうとでもするようにその輝きを増していた。
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