第20話

いくら自分じゃないと言っても無駄だったと言う。



不特定多数。



しかも百人に登る生徒からメールを受け取っていたイオリはついに誰のことも信じられなくなった。



学校内で完全に孤立してしまったのだ。



「それからなの。イオリは鬱っぽくなっておかしくなっていったのは」



まるで自分の責任だと言うようにランは下唇を噛み締めた。



「私があのときもう少し注意して周りを見ていれば、こんなことにはならなかったのに」



「それは違うよ! ランは悪くない!」



思わず口走った。



今までの話を聞けばわかる。



ランは本当にイオリの味方だったに違いない。



結果は残念なことになったけれど、イオリだってわかっていたのではないだろうか。



ただ、イジメを養護すれば養護した人間が次のターゲットになる。



相手なんて誰でもいい。



ターゲットが1人いればそれでいい。



だからイオリは自分からはられたんじゃないだろうか。



私はそう考えたかった。


☆☆☆


ランに連れられてやってきたのは日当たりの良い集合墓地だった。



石橋家の墓と書かれた墓石の前で立ち止まり、3人並んで手を合わせる。



お墓参りに来るような準備はしてこなかったこが悔やまれたが、一刻も早く呪いを解く必要があったので真っ直ぐにここまでやってきた。



落ち着いたら加菜子も一緒に献花しにくればいい。



目を閉じて手を合わせ、懸命に思いを伝える。



もうこれ以上犠牲者が出ないように。



加菜子の命が助かりまそうようにと、呪いの元凶を断ち切る気持ちで。



「結」



裕之に呼ばれて目を開けると、ふたりともすでに頭を上げていた。



じっくり10分間もここにいたことがわかって大きく息を吐き出す。



「これで大丈夫だと思う。イオリはいい子だから」



ランがなにかの確信に満ちた表情で言う。



自分たちの願いを聞き届けてくれればいい。



これくらいのことで、どうにかなるのなら、すぐにでも行動していればアコだって……。



そこまで考えて頭を左右にふった。



今アコのことまで考えるのはやめよう。



加菜子にもう安心だということをすぐにでも伝えたかった。



病院にいるから無理かもしれないけれど。



「ありがとうラン。なんだか気持ちがスッキリしたよ」



言葉どおり、裕之の表情は晴れ晴れとしていたのだった。


☆☆☆


呪いの元凶は断ち切った。



これですべての恐怖から開放されるはずだ。



もう少し早くに気が付き、行動に移すことができていれば未来はもっと明るかったのかもしれない。



でも、過ぎたことを悔やむばかりでは前には進めない。



帰りのバスの中、私と裕之はほとんど会話をしなかった。



右手に見える車窓から街の景色をジッと見つめる。



時刻はすでに昼前になっていて、これから加菜子がいる病院へ向かう予定になっていた。



一応メッセージを送っておいたけれど既読がつかないので、まだ意識が戻っていない可能性もある。



呪いの理由を探れば信じられないほど悲しい事件に行き当たった。



アコの葬儀で見かけたイオリの姿を思い出すと胸が痛くなる。



あの時はただの〇〇高校の生徒だとしか思わなかったが、今は成仏できずに苦しんでいるように見える。



もんもんと考えことをしていると、バスは病院の最寄りで停車した。



お金を支払って地面に降り立つとすごく久しぶりに自分の街へ戻ってきたような、不思議な感覚に襲われた。



院内は消毒液の匂いがあちこちに染み付いていて、つい顔をしかめてしまった。



受付で加菜子の病室を聞き、エレベーターに乗り込む。



「きっと加菜子も無事に目が冷めてるはずだ」



エレベーターの中でようやく裕之がぽつりと呟いた。



朝から様々なことが起きて疲れ切っているみたいだ。



加菜子の無事を確認したら、すぐに帰って眠りたい。



エレベーターが病棟のある3階に到着して、チンッと安っぽい音を立てる。



クリーム色の扉が左右開くと目の前がナースステーションになっていた。



しかし中には誰も居ない。



廊下を慌ただしく走る足音が聞こえてきて、ストレッッチャーがガラガラと移動されていく。



「なにかあったのかな」



急変患者でもいたのなら邪魔になってはならないと、しばらくエレベーターの横で待機する。



どこかの病室が開閉し、男子医師が足早にそちらへ向かう。



それを見送ってからようやく私達は加菜子の部屋を探し始めた。



受付で聞いたのは304号室だ。



エレベーターを降りて右手に310号室がみえた。



左手には301号室がある。



「こっちかな」



ナースステーションを挟んで5室ずつが並んでいるようで、私たちは301号室のある右手の廊下へと向かった。



さっき医師たちが行き来していた廊下をゆっくりと歩いていく。



302号室、303号室ときて、次が加菜子にいる病室だ。



しかしそこに行き着くまでに私達は足を止めていた。



さっき医師が入っていった部屋は304号室ではなかったか?



そこは加菜子がいる病室ではないか?



瞬間、嫌な予感で呼吸が乱れた。



吐くことを忘れて吸い込んでしまい、クラリとめまいが起こる。



「大丈夫か?」



揺れる体を裕之に支えられて、どうにか立っていることができた。



まだなにも聞いていない。


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