第7話
なにがおかしいのかわからなくて首をかしげて聞き返す。
「だって、隣町の友人にもメールが届いていたとしたら、その子だって、きっともう……」
そこまで言って言葉を切った。
死んでる。
ということだろう。
「そうだね、きっともういなくなってる。葬儀に来てた子はアコの友人でも、メールを受け取ってない可能性があるね」
ということは、メールは近い人間ばかりじゃなく隣町に暮らす人間にも届くということ。
メールが送られてくる条件として、距離は関係ないのかもしれない。
「例えば、先に死んだ子のアドレスの中にアコの番号が登録されていて、メールが登録者の中からランダムに選ばれて送信されているとか」
「それならあるかも」
加菜子が頷く。
メール自体にウイルスが仕込まれていて、届いた人のスマホを勝手に操作する。
ウイルスに感染したスマホは次のターゲットを勝手に決めて死体写真つきのメールを送りつける。
これが成り立っているとすれば、全国で不審な自殺が発見されているかもしれない。
そして感染はねずみ講式にどんどん増えていることになる。
だけど、今の所全国ニュースでもそのようなことは伝えられていなかった。
まだ、私達の間だけでとどまることができているのかもしれない。
「アコのスマホを確認することができれば、アコの友人関係を調べることができるけど、ついさっき葬儀が終わったばかりで、聞きに行くなんてできないよね」
アコのご両親はまだ火葬場にいるかもれないし、さすがに不謹慎だ。
調べさせてもらうにしてももう少し日を置いた方がよさそうだった。
「ねぇ、和に聞くのはどう?」
「和に?」
「うん。アコと一番仲が良かったでしょ。交友関係がわかるかも」
加菜子の言葉に私は「そうかもしれないね」と答える。
正直、今和に話を聞くこともためらわれる。
どれだけ傷ついて消沈しているか考えると、さすがに声をかけづらい。
迷っている間に加菜子がスマホを取り出して和に連絡を取り始めた。
返事があるだろうか?
期待せずに待っていると、20分ほどしてから加菜子のスマホが震えた。
《和:話ってなに?》
いつもの和らしくない短い文章にチクリと胸が痛む。
《加菜子:今学校にいるの?》
《和:いや、家にいる》
とても学校へ戻る気分にはなれなかったのだろう。
私と加菜子は目を見かわせた話ができるようなら今から会いたいという内容を送ると、すぐに承諾するメッセージが届いた。
《和:30分後に公園で》
正直今和とどんな顔をして会えばいいのかわからない。
けれど詮索の糸が途切れるまでは続けるつもりでいた。
私たちは時間を確認して図書館を出たのだった。
☆☆☆
和が指定してきた公園は学校の近くにある大きな公園で、到着した頃にはちょうどチャイムの音が聞こえてきていた。
砂場やブランコではまだ就学前の子どもたちがはしゃぎ声を上げていて、少し離れたベンチでは母親たちがなにやら話し込んでいる。
私達は邪魔にならないように、広場へと足を向けた。
サッカーゴールだけが置かれている広場ではいつもは老人たちがゲートボールやグランドゴルフを楽しんでいるけれど、今日は誰の姿もなかった。
きっと集合する日ではないのだろう。
誰もいない広場の角に置かれている寂れたベンチに座って和が来るのを待つ。
その間にも子どもたちの嬌声が聞こえてきて、沈んだ気持ちは少しだけ明るくなるのがわかった。
「いいよね子供って。私子供が大好き」
遊具で遊んでいる子どもたちを目を細めて見つめる加菜子。
加菜子の将来の夢は保育士さんで、進学する大学もすでに決めてあると言っていた。
ふわふわとした柔らかな雰囲気をまといながらも芯はしっかりしている加菜子にはお似合いの職業だと思う。
小さな子どもたちに懐かれて囲まれる加菜子の姿はすぐに想像することができた。
はしゃぐ子供たちを見て癒やされている間に和がすぐ近くまで来ていた。
「よぉ……」
弱々しい声に暗い顔。
眠れていないのか目の下は真っ黒なクマができている。
そんな和の姿を見て一瞬言葉を失ってしまった。
こんな状態の和に呪いのメールの話とか、アコの自殺の真相を調べていることを伝えるのかと思うと一気に気が重くなってきた。
「なんか、頭が真っ白でなにも手につかなくて」
和はボソボソと呟いてベンチに座った。
3人が座る古ぼけたベンチはギィと悲鳴を上げている。
「一旦は学校に戻ったけど、先生の言葉とか裕之の言葉とか、全然入って来なくて、やっぱ早退したんだ」
みんな和のことをきにかけて話かけているんだろう。
それにしっかり答えられないことを和は気にしている。
「そんなときに呼び出してごめんね」
申し訳ない気分でいっぱいになり、涙がこみ上げてくる。
自分たちは呪いのメールのことで頭がいっぱいになっていて、悲しむ余裕なんてなかった。
「いや。それで、聞きたいことって?」
茫然自失状態の和だけれど、ちゃんとこちらの話を聞こうとしてくれている。
それはきっとアコのことだからだろう。
「アコに隣町の友達がいなかったかどうか知りたいの」
加菜子が柔らかな声色で訊ねた。
苛立っている人の心をほぐすような、優しい声だ。
「隣町?」
一瞬眉間にシワを寄せた和だけれど、すぐに頷いた。
「あぁ、確かいたと思うけど、それがどうかしたのか?」
「その子のこと、和も知ってるの?」
私の質問に和は左右に首を振った。
「いや、知らない。ただ、先月くらいにあいつすごく落ち込んでてさ、なにかあったのか聞いたんだ。そしたら、友達が死んだって言って泣き出してさ。よく話を聞いてみたらその友達は隣町の子で、明日葬儀なんだって言ってた」
隣町の友達が、死んだ。
私はゴクリとツバを飲み込んだ。
ここまでは自分たちが想像した通りの展開だ。
アコには隣町に友人がいて、そしてその子も死んでいる。
おそらく、メールを受け取って死んだんだ。
「変なこと聞くけど、その亡くなった子って自殺だった?」
和が驚いたようにこちらを見てそれから「わからない」と、答えた。
「さすがに、そんなことまで聞けねぇだろ」
「そうだよね、ごめん」
和はなぜアコの友人が死んだのか詳細は知らないようだ。
それならもうこれ以上の詳細は聞き出すことはできないかもしれない。
そう思ったときだった。
「すごく仲が良いんだって、プリクラをもらったことがあるけど、自殺するようなタイプにはみえなかったけどな」
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