第6話 犯人捜し
『もしもし、わたし、麻里です。ヤバいですよ。呪いは本当にあったんです。
聞きましたか?
サッカー部の進藤隼人さん。昨日の練習で両足をけがしてしまったらしいのです。
時間は土曜日の昼のことらしいです。神主さんがお札をお祓いする前に、呪いは発動してしまっていたんです!』
「まさか、そんなの偶然だよ」
『そんなこと言って、本当は怖がってるんでしょ? 呪いが本当だったということは、高野君がかけられた呪も本当かもしれないって』
「思ってないよ」
『無理しなくてもいいですよ。それよりですね、あの、呪いを仕掛けた本人を探しませんか? どう考えてもアレ、うちの学校の生徒ですよ』
「やめておくよ。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているってね、変にかかわるとこっちに飛び火することだって考えられる」
『ああ、でもですね――』
強引に通話ボタンを押して会話を終了させる。
さすがにこれ以上振り回されるのごめんだ。
荷物をまとめ、今日のところはまっすぐに家に帰ろうと思う。流石に旧校舎の部室に行けば上田と遭遇するだろうし、そうなればやはり振り回される羽目になるだろう。
今日のところはひとまず……と、教室を出ようとしたところで呼び止められる。
「マーコトッ」
振り返るとそこにエンジェルがいた。どうやら僕のことを待ち伏せしてくれていたらしい。
「ねえ、今から部活?」
「いや、もう今日は帰ろうかと」
「よかった! それじゃあ、ちょっと付き合ってよ!」
「あ、ああ。もちろん」
二人並んで下駄箱に行き、靴を履き替える。
さて、今日はどこに行くのだろうか? きっとまたどこか甘いものでも食べに行くのだろう。もちろん僕は甘いものはそれほど好きではないが、ななせと一緒だというならそれもやぶさかではない。
彼女の半歩前を歩いて校門を出ようとしたところで後ろにいたななせが「こっち」と校庭のほうを指さす。
ボールが飛び出さないように周囲をグリーンのネットで囲った校庭ではサッカー部の皆さんが休むことなく青春の汗をかいている。いやな予感しかない。
「ねえ、聞いた? シンドウ君の話。あの、呪いの藁人形の通りシンドウ君はけがをした。これって見過ごしわけにはいかないよね?」
「呪いをかけた犯人を見つけ出したいと?」
「それはそうでしょ? うちの学校の期待の星だよ」
「見つけてどうするつもりだよ? 呪いをかけたからと言って、たぶんこの国の法律では裁くことはできないよ。それに、進藤隼人の怪我とあの呪の藁人形の因果関係だって証明するのは無理だ。犯人を見つけたところでどうしようもない」
「確かにそうかもしれないけど……でもさ、もし、犯人が今回のことで味を占めて、次から次へと呪をかけ始めたらどうするの? この学校、呪いだらけになっちゃうよ?」
「まあ、呪いなんてものが実在すれば、ってことだけど」
「でも、あんまり気持ちのいいもんでもないでしょ。だからさ、犯人を見つけ出して、もう誰も呪ったりしないように注意くらいはしておかなくちゃならないと思うの!」
「それを、なんで僕らが?」
「運命、みたいなものよ。アタシたちは偶然にもあの場所で呪いの藁人形を見つけた。それで、実際にその対象が怪我をしてしまったの。知っているのはアタシたちだけ。アタシたちは、運命共同体なんだよ」
普段は見かけない、ちょとだけ真剣な彼女の表情に、僕は嫌だと言えなくなってしまった。
運命共同体と聞いて、先日の藁人形に二人の髪の毛を入れてしまったことを思い出す。
「仕方ない、上田も呼ぶか」
「麻里ちゃん?」
「ああ、さっき一緒に犯人を捜そうって言われたよ」
「うーん。でもさ、それはちょっと賛成できないかな。アタシは、この事件の犯人が麻里ちゃんである可能性もあるんじゃないかって思ってるの」
「上田が?」
「だってそうじゃない? あの日あの場所で、同じ学校の生徒であるシンドウ君の呪いの藁人形を見つけた。そしてあの日にそこに行こうと言い出したのは麻里ちゃんなわけでしょう?
これって本当に偶然かな?」
「それこそ、さっき言ってた運命なんじゃないのか? 大体この件については本当に偶然というやつが常に絡んでいる。あの時にななせにあったことも偶然だし、呪いの現場に居合わせてしまったのも偶然だ」
「うっ、で、でもさ。そこは一応疑ってかかったほうがいいんじゃない? 起こりうる可能性をすべて推理し、可能な方法だけを残すように消去していくことこそが犯人にたどり着くための近道じゃないかな」
「なんか、エラリー・クイーンみたいだな」
「アタシが?」
「ほかに誰かいるか?」
「えへへ。でもさ、アタシはどっちかっていうとまだまだプリンセスなのよね」
「は?」
もしかするとななせは、エラリー・クイーンを知らないだけかもしれない。
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