第3話【交わり】

「......んぅ......はっぅ」


 夕飯を食べ終え、どちらからともなく熱い口づけを交わす。

 愛する人が自分の手の届く範囲にいることが、愛おしくてたまらない。

 呼吸が苦しくなれば放し、また吸い付くの繰り返し。頭がバカになりそうだ。

 沙優の柔らかな唇に重ねる度に、甘い香りが鼻腔を刺激し、脳を痺れさせる。

 涙袋の上から薄っすらと涙が滲みで溢れ出るのもお構いなく。

 お互い無言で存在を確かめ合う。

 どれほどの時間が経過したのかわからない。

 息も上がり、少しの間見つめ合っていた時だった。唾液で濡れた沙優の上下の唇が開き、

 

「......私、今日は大丈夫な日だからさ」


 顔を上気させ、妖艶で熱っぽい視線が俺を捉えて離さない。


「......私の体の中に......吉田さんに愛されてる証拠が欲しいの......だからお願い......出して」


 理性を吹き飛ばす沙優の甘い懇願が、俺の頭の中を反芻はんすうする。耳鳴りのように支配したそれは本能を従わせ、上下の部屋着に手をかけ、脱がせていく。

 白のレース地のショーツには大きな染み。キスだけで相当沙優は感じていたと思うと、胸に熱い物がこみ上げてくる。

 隙間に指を滑らせ、敏感な部分をなぞると「んぅっ!」と体が悶え、また息が荒くなる。

 もう片方の腕でブラジャーを上にづらし、乳房を鷲掴んで感触を味わう。

 力強くなりすぎないよう、かつ大胆に手のひらへの吸い付きを楽しむ。

 気持ちいいのか、先端が徐々に固くなっていき、軽くつねると顔を強張らせ悲鳴に似た喜びの声を上げる。


「......焦らさないで」


 沙優のこういった泣き顔を見ていると、まるで小学生の男子が好きな女の子に悪戯して快楽に目覚めるような気分に陥る。

 もっと欲しがってほしい――切ない顔で催促され、俺は沙優のショーツを脱がせ、いきり立ったものを入れる――。


 ほんの数ヶ月前まで身体の関係を持つことが想像できなかった相手と、今こうして深く交わっている。

 俺は沙優の存在を神聖であるべきだと勝手に決めつけ、女性として見ることを避けていた。あの時の考えは今でも正しかったと思っている。

 だが保護者である必要が無くなった今、その必要は無くなった。

 出会った頃から沙優に惹かれ、恋し、一緒にいることで強い安心感を感じる......自分の気持ちに正直になった俺が沙優と一つになりたいと思ったのは必然だった。


 今でも忘れない。

 沙優に告白し、初めて繋がった日のことを――。


『好きな人とエッチするのって、こんなに気持ち良くて幸せな気分になるんだね......』


 ベッドの上で繋がったまま、声音を震わせ噛みしめるように呟いた。

 沙優は俺と出会うまでの半年間、生きるために見知らぬ男の家を転々としてきた。その肉付きのいい魅力的な体を代償に。

 全く気にならないと言えば嘘になる。

 自暴自棄に陥り倫理観を失い、名前も顔も覚えていない男たちと体の関係を結んできた。

 そんな過去もひっくるめて、俺は沙優のことを受け止め、生涯全力で愛していこうと誓った。

 忌まわしい暗い歴史を忘れてしまうほど、沙優の体に、心に、俺との思い出を刻み込もうと......。







 ベッドの上には裸の俺と沙優。

 風呂に入るのも忘れ、愛を確かめ合っていたら、時間はいつの間にか明日になっていた。

 同棲を初めてからというもの、毎日この調子だ。

 お互い息は上がり、天井を見つめ快楽の余韻に浸る。


「......また今日もしちゃったね」

「......沙優の体が魅力的すぎんだよ」

「体だけ?」

「全部だ。恥ずかしいこと言わせようとすんな」

「えへへ......ありがと」


 絡んできた手が暖かい。

 こちらも手を慈しむように絡め返し、沙優の温もりを感じる。

 

「大丈夫な日だけど、流石さすがにこれだけ出したら危ないかもな」

「そうかも。でも私は好きな人の赤ちゃんなら、例えいま妊娠しちゃっても嬉しいよ」


 隣に寄り添う沙優が、あざとい表情で微笑む。


「吉田さんは、いや?」

「いやなわけないだろ。ただそれだと沙優の大学生活に影響が出るし、就活にだって」

「子供がいても大学には通えるよ。芸能人でも子供育てながら大学通っている人いるじゃん」


 芸能人と一般人を同列で語るのもどうかと思うが。


「就活は......もう済んでるから必要ないかも」

「ん? 何か言ったか?」


 タオルケットと掛布団の擦れる音のせいでよく聞き取れなかった。


「なんでも。安心して。私、子供ができても絶対中途半端はしないから。学生としても母親としても、吉田さんを満足させる女になるから」

「どこからそんな自信が溢れてくるのやら」

「ふふ......愛は人を強くするんだよ。知らないとは言わせないからね?」

  

 行為中は俺が主導権を握ることが多いが、それ以外はもっぱら沙優のペースだ。

 女は誰しも魔性性ましょうせいを秘めているというが、俺もすっかり沙優の虜になってしまったらしい。幸い、ウチの会社は世間でも珍しい育休に理解のある会社だ。もしもの時は、俺が全力でサポートしよう。沙優にばかり大変な思いはさせない。


「愛は人を強くすると言えば、私、またおっぱい大きくなったんだよ」

「マジか?」

「大マジです。触ってて気付かなかった?」


 目を見開いて胸を凝視する俺を、沙優はクスクスと笑った。

 

「吉田さん見過ぎ。そこまで気になるなら、もう一回......する?」


 ――これは明日も二人揃って筋肉痛確定だな。

 体を包むものを剥ぎ取り、返事の代わりに沙優の乳房へとかぶりつく。

 片方は鷲掴みにしてサイズ感を確かめるように。

 もう片方は――先端を口の中に含み、果実のように転がし、時折吸って味わった――。


        

          ◇

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