Doppelgänger
暮葉
顛末
20XX年の夏休み、冠来高校三年七組は僕にまつわる怪談話でもちきりだ。
なんでも最近、僕のドッペルゲンガーが学校付近でよく発見されるらしい。
そのドッペルゲンガーは背丈、声、顔のいずれも寸分違わず僕と同じで、唯一僕と異なるのは性格らしい。
僕は内気でうまく他人と接することが出来ない。しかしドッペルゲンガーの方は僕より幾分かは陽気で、文化祭の用具の買い出しに行ったM岡君にやけに馴れ馴れしく話しかけていたそうだ。
この夏休みの間M岡くん以外にも七人ほどが僕のドッペルゲンガーを目撃している。
僕が本当に困ったのはここからだ。僕には好きな人が居る。田村という娘で、運動はできないが勉学に優れその立ち振舞いからはいつも上品な雰囲気が漂っている。
僕のドッペルゲンガーが田村さんに猛アタックを仕掛けているらしいのだ。僕の知らぬところで。しかもうまくいっているらしい。現にT子さんやK藤さんが地元のショッピングモールで僕と田村さんがデートしているところを目撃している。文化祭の準備の際に二人から冷やかされたときは、彼女らが何を言っているのか分からず困惑した。怪談話はこの二人から広まっていった。
この話が広まっていくに連れてクラスの中で僕のドッペルゲンガーを捕獲しようとする動きが起こった。発案者はお調子者のY田やその取り巻き共だ。「ドッペルゲンガーを見たら死ぬ」という話があるので大事を取って僕は視聴覚室の中に半ば強制的に幽閉された。
二時間もしないほどだろうか。ドッペルゲンガーはあっけなく捕まり連行されてきた。Y田の提案で僕は3-7教室にいるドッペルゲンガーと通話することになった。知らない番号から電話がかかってきた。たぶんドッペルゲンガーのスマホからだろう。周りのクラスメートはこの超常現象を固唾を飲んで見守っている。
「きっ、君の名前を教えてくれるかな?」
ドッペルゲンガーと対峙していると考えると不思議と声が上ずった。
「佐久間だよ。斎藤佐久間。お前と同じらしいな。」
やはり馴れ馴れしい。こいつは僕じゃない。
「僕はお前のことを偽物だと思っている。い、今から過去の出来事の記憶があるかどうかすり合わせていこうと思うが良いか?」
「別にいいけどそれになんの意味があるんだ?」
「良いから黙ってやれよ。まず両親の名前は?」
「亮平と優奈だ。つかお前こそ偽物じゃないのか?」
「うっ、うるさいよ。じゃあ、昔飼っていた動物とその名前は?」
「クサガメのガメラ。俺はガメちゃんって言って可愛がってたけど踏み潰して殺しちまった。」
間違いない。こいつは本物だ。この話は誰にもしたことがない。無論家族にもだ。
「さっきからお前ばっかり質問しやがって。じゃあ俺からもいくつか質問さしてもらうぜ。1、一番最近に買ったゲーム 2、一番思い出に残っていること 3、誰にも言えない秘密 これを答えてもらう。」
いきなり捲し立てられたので驚いた。
「えっ、えっと、1はレトロゲーのDQ7、2は近所の祭りで踊ってるときに見た花火、3はさっきのクサガメの話だよ。」
僕の言葉を聞くやいなや、ドッペルゲンガーは突然笑い出した。
「ハッハッハッハ。やっぱりお前が偽物じゃねーか。お前の話全部間違ってんぞ。まず1。俺が直近で買ったのは中古のDQじゃなくて最新のFFだ。2は恋人とのキス。3は8月7日だ。」
こいつは何を言っているんだ?僕は金がなかったからFFは買わなかったし恋人もいない。あと8月7日ってなんだよ。
「はっ、ハッタリだな。俺はそんなことしてない。3に至っては何言ってんのか分かんないな。」
「ほんとに分かんねえのか?ファイルだよ、ファイル。スマホのファイルを見ろ。」 渋々8月7日の欄を見ると田村を隠し撮りした画像が何枚も出てきた。僕はいきなり恐ろしくなった。
画面越しの僕は僕の知らない事実を知っている。もしかしたら僕の方がドッペルゲンガーかもしれないとさえ思い始めた。ひどい動悸がして落ち着かない。この疑惑を解消するため危険を承知でインカメを起動しカメラ通話を試みた。画面には僕が二人いた。その姿を認識した刹那、画面越しから低い唸り声とY田たちの叫び声が聞こえてきた。画面越しでは何が起こっているのだろうか。いても立ってもいられず3-7のほうへ走り出した。到着したときクラスの中は半狂乱だった。Y田たちは叫び、T子やK藤は顔を青くしながら泣いていた。
「おい、なにがあったんだよ?」僕は声を張って問いかけた。
「あっ、あっい、今お前が溶けて、と、溶けちまったんだよ。」
Y田の顔も真っ青だ。
Y田の指差す方向を見ると確かに人の形をした跡があった。
「持ってたスマホとか服まで溶けたんだ。お前の姿を見たら途端に。」
さっきの番号にかけ直してみたが繋がらなかった。どうやらY田達の言っていることは本当らしい。
とりあえずその日は文化祭の準備などできるはずもないので解散となった。
家に帰ってからも今日の出来事が頭を離れない。ドッペルゲンガーを見たら死ぬという話が本当だとするのなら、死んだ彼が本物で僕が偽物なのだろうか?思い返せばおかしなことはいくつかあった。電話番号の違う2つのスマホ。両方ともが多分僕のスマホだ。電話番号の違う彼のスマホと僕のスマホにはどんな差があったのか。そしてなぜ僕のスマホの中に田村の写真があるのか。また家の机の上にはDQの他にFFもあった。彼は僕の知らない事実を知っていたし、それは正しかった。僕は果たして本物なのだろうか?ここは本当に僕が今までいた世界なのだろうか?自分の存在に自信がない。今いるここは精巧なパラレルワールドなどではないだろうか。元いた環境に帰れないものか。とりとめのない考えが浮かんでは消えていく。僕はこれからどう生きていけばよいのだろうか?
Doppelgänger 暮葉 @kureha-0312
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Doppelgängerの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます