二 井砂利 忠吉
二 井砂利 忠吉
友達とはなんだろう。
家族とはなんだろう。
人間とはなんだろう。
分からない。
この世は知らない事だらけだ。
何も知らない。分からない。
子供の空っぽの頭で考えて分かる訳がないが、それでも知りたいと願ってしまう。
傲慢だ。
でも、知りたい。
理解したい。
把握しておきたい。
だって人間は人間の事が分かるはずだから。
抽象的にも、論理的にも分かってるはずなんだ。
分からないと駄目なんだ。
人間とは、種として存在する限り思考せねばならず、思考するという事はいずれは答えを出さねばならない。
答えが出せないのに、考える意味がどこにあるだろう。
成果物無しで褒められる時代は幼少の時までだ。
成果物の生産、それを抜きにして人間たる事は出来ない。
即ち、私は人間ではない。
私には成果物が一切ないのだから。
私は何も出来ない人間だった。
人間であるのかも疑わしいくらい、無能と呼べるかも分からない程の考え無しだった。
少年期から青年期まで何度も何度も騙された。
確かにそれは可愛いものと言えるかもしれない。
金銭的な実害があった訳じゃない。
その場の“ノリ”で終わってしまうものだ。
しかし稀に、不快感が湧いてくる事があった。
いつも通り。当たり前。そう思える一線を軽々しく飛び越えて、それはやってきた。
騙される事はいじられキャラの宿命かもしれない。
軽口を叩かれる事もいじられキャラの宿命かもしれない。
だが、故意にはぶかれたり、悪口を叩き込まれる事はない。
それが、“いじり”というものと“いじめ”というもの境界線だ。
不快感を感じるという事は、いじめに近く、いじりに遠いという事だ。
そして、その境界線の存在すら理解せず、いじりという概念も免罪符のようなものとしか認識していない者達の照準は私に向けられた。
それからは不快感が積もる日々だった。
一秒でも早く、この苦痛から解放されたかった。
下品な下ネタから人格否定まで、多種多様なメスが私の心を切り裂いた。
不快感は憎悪に変わり、膨れてゆく。
心の切り傷に塩を塗り込み、えぐり、いじくるような数多の言葉は、耳に入ったそばから忘れたい程聞くに耐えないものばかりだった。
逃げたい。そう思う反面、殴りたい。殺したい。という気持ちが大きな影を落とすようになっていき、私の思考はぐちゃぐちゃになって、まとまりを見せる事は無かった。
それでも、私は学校を休まなかった。
行かないという選択肢は与えられるものでは無かったからだ。
小中高と、時が進むにつれて、平日は学校に行くという習慣が骨身に染み付いて私を縛った。
私はそうやって逃避も闘争もする事はできなかった。
私はただ忍耐強く、辛抱するしか無かったのだ。
救いの手は差し伸べられる事は無い。
ならば、自らで自らを救う他に道は無いのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます