48.まさかの弱点

 



「本当なんですって! リレイヌ様ってば、こう、バーンッ! ドカン! ガンって感じでっ!」


「はいはいわかったわかった。そういう嘘はもういいって」


「だから嘘じゃなくてっ!」


 朝。微睡むように寝て、起きて、リビングに行けば、なにやらアジェラが睦月とリオルに対して必死に説明を施していた。身振り手振りで「こうでした! ああでした!」と語るアジェラを、ふたりの少年はシラケた目で見つめている。


「……おはよう」


 なんとなく、挨拶した方がいい気がして、リレイヌは一歩部屋の中へ。踏み込んで言葉を紡いだ彼女に、アジェラが即座に反応。「リレイヌさまっ!」と不思議そうな彼女に駆け寄りその肩を掴む。


「リレイヌさまっ! リレイヌ様からも何か言ってくださいっ!」


「え? なにを?」


「だから! リレイヌ様がかっこよく主精霊を倒したことを!」


 ああ、と納得。

 してから、リレイヌは「だから言った」と胸を張るように腰に手を当て笑みを零す。


「私つよい。主精霊なんてちょちょいのちょい」


「何寝言いってんだよ。お前如きにできることなんてたかが知れてるだろ。そんなひょろひょろで何ができるってんだよ」


「魔法使える」


「……はい?」


 えっへん、と鼻高に笑ったリレイヌに、睦月は沈黙。「魔法って、あれ?」と隣のリオルに問う彼に、アジェラが「ほらぁ!」と喚いている。


「だから言ってるじゃないですか! リレイヌ様はお強いんですって! ねえ! リピト様!」


「え? あ、うん……」


 いきなり振られたリックが、飲んでいたコーヒーから口を離し、曖昧に頷いた。アジェラがそれに、ほれみろ!、と言いたげな顔をすれば、ようやっとふたりも信じたようだ。まさかリレイヌが……、と互いに顔を見合せ、にこやかな彼女に目を向ける。


「あらあら、みんな朝から元気ね」


 と、そこへやって来たリレイヌの母、シアナ。彼女はその美しい金色の髪をサラリと揺らすと、「リックくん、アジェラくん」と離れた位置にいるふたりを呼ぶ。呼ばれたふたりは不思議そうな顔でシアナの傍へ。「なんでしょう」と揃う声に、彼女はふんわりと微笑んだ。


「体に異変は?」


 問われた彼らは、そっと己の体を見下ろし、首を横に振る。


「……リックとアジェラ、何かあったの?」


 何も知らないリレイヌが問えば、それに答えるのはリオルだ。彼は不貞腐れるように唇を尖らせる睦月を隣、リレイヌを見て柔らかに微笑む。


「昨日、リレイヌが寝てる間に、ふたりは主精霊の力を取り込んだんだ。その瞬間は熱に浮かされてたみたいだけどね」


「熱……」


 昨日の、夢、と言っていいのか分からない、誰かの最期を思い出し、リレイヌはサッと青ざめた。記憶の中で悲鳴と炎がわきあがる。


「ふたりとも熱いの!?」


 青くなりながら問うた彼女に、リック、アジェラの両者は不思議そうな顔で再び首を横に振った。大丈夫なようだ。リレイヌはホッと安堵の息を吐き出し、それにクスリとシアナが笑う。


「私たち龍神は熱に弱いものね」


「えっ!? そうなんですか!?」


 驚くアジェラに、頷くシアナ。そんなふたりの様子に「ほへー」と頷くリオルは、隣の相棒を見てから「お前変なことするなよ」と念を押す。


「は? しねーし」


 心外だと言わんばかりに吐き捨てた睦月は、そこで一度沈黙。「夏場とか大丈夫なのか?」と疑問を口にし、シアナはそれに困ったように笑うのだった。

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