無敵時間

 指輪「黎明」は朝日のような光を放つ。


 有明は右手の薬指から流れ込む「黎明」の力を感じた。母に抱かれたような温もりが全身に広がっていく。耳が熱くなり、じんじんしてきた。

「黎明」の力は敵意のような冷たさを伴う「魔力」とは異質だった。


 道の南北から、多数のモンスターが津波のように押し寄せてくる。

 有明は地を蹴り、ロケットのように真上へ飛んだ。マンションの屋上よりも高く、上へ。

「黎明」による大幅な筋力補正だ。


 空に昇る有明は、真下の道路に目を向けた。南北からのモンスターの群れが正面衝突する。先頭のモンスターは死んで灰となった。

 それから南北のモンスターが入り交じり、道路はモンスターで満杯になる

 排除しないと進めない。有明はそう思った。


 東京スカイツリーくらいの高度で有明の上昇は止まり、落下に転じる。

 指輪「黎明」に切れ目が入る。有明の眼前に大剣「黄昏」が出現した。「黎明」の影響か、「黄昏」の剣身は太陽のように赤熱している。

 有明は大剣を握った。


 高度六百メートルから落下し始めた有明は、真下に大剣をひと薙ぎする。剣の軌跡に従い、灼けた鉄のような色の衝撃波が形成される。豊洲の島を切断できるほどに大きな剣波だ。

 有明の剣から放たれた衝撃波は多数のモンスターを消し飛ばし、豊洲島の北端から南端までを貫く地割れのような跡を残した。

 道路横のマンションは体躯の半分を失って傾く。

 

 有明は何度か大剣を振り、転移門周辺に衝撃波を飛ばした。灼熱色の衝撃波が地をえぐり、周辺を破壊し、多数のモンスターを一掃する。

 

 落下中の有明は両手と両足を広げ、落下の軌道を変え、傾いたマンションの屋上にふわりと着地した。「黎明」による落下ダメージ無効化だ。


 有明は大剣を仕舞ったのち、右手の薬指に目をやる。「黎明」は夜明けのような黄金の光を放ち続けていた。


「全然余力ある。この指輪、無茶苦茶だよ。これって……」


 有明は全身から湧き上がる力を感じていた。過去最高の力だとすら思えた。

 


 有明は過去生で似たような体感を得たことがある。誰かの魔術、怪しい薬、人体改造などによってでなければ得られないものであったが。


 なんで自我が残ってるんだろうと思った時、井出の言葉が思い出された。


 ――自分の意思で戦ったら終末戦争に勝てたのかもしれないッスね。


 井出君が正しかったみたい。ごめんなさい。

 マンション屋上にいる有明は姿勢を正し、鹿島が自決した方角に敬礼した。


「井出君、隊長、最後まで迷惑ばっかりで……ごめんなさい」


「黎明」による筋力補正に任せ、有明は何棟ものマンション屋上を飛び渡り、環状三号線に降りる。道路を横切って巨大な転移門の前に辿り着いた。


「……作戦を続行、魔王サタケをたおします」


 有明は転移門に飛び込み、姿を消した。

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