第28話 最悪の状況で
「ガーベラ!」
森の中を一発の銃声が震わせる。
駆けていた足を止められるガーベラ。ガーベラは地面に倒れ、銃弾が貫いた足から赤黒い液体が流れている。
急いでガーベラの元へ駆け寄り、伸ばしてた手で少女を掴み近くの木々の影に隠れる。
影に隠れる瞬間、直前までガーベラが倒れていた場所へ弾丸が着弾した音が聞こえてきた。
「同重」
木々の影に身を潜め、腰に刺してある刀【断層】を手にそれを唱える。
近くで着弾していた弾丸からの焦げ臭い匂いが消える。
後ろから向けられていたはずの殺気も無くなっていた。
背中を木に預け、拙者はコートのポケットからハンカチを取り出しガーベラの足につけられた傷の手当てを行う。
怪我の痛みや血液の消費によってからか?ガーベラをはぁはぁと呼吸が荒くなっている。
「ガーベラ大丈夫か?」
ガーベラの身体を掴んだ腕で支え胸にだき抱えている。
ガーベラに視線を送り呼びかける。
「…うん」
荒い呼吸で挟むようガーベラが返す。
ガーベラの様子を目に留めつつ、拙者は木々の影から顔出し辺りを確認する。
「ガーベラ。見つけたモノって、どのあたり?」
木々の影から見える範囲に眼を動かす。
「広いところに…ぐるぐるしてる」
広いところ?ぐるぐる?
ガーベラの言うとおりに拙者は、開けた場所を探す。
「あれか?」
少し離れた場所に眼を向けるとそこだけ木々が生えて無い場所があった。ただ…そこに眼を凝らしてもガーベラの言うぐるぐるは無かった。それの代わりか周りの木とは全く違うような真っ白な木が一本立っていた。
「ちっ、勝手が効かねぇな同重は!」
真っ白な木を眼にしながらそんな言葉を吐いた。
真っ白な木までの距離はざっと見て50メートルほど。
ガーベラの言ってるぐるぐる。拙者の予想が合ってれば、恐らくなんらかの入り口だと思う。ガーベラを抱えて拙者がダッシュすれば同重の能力解除後、そのぐるぐるに飛び込める。が、あくまでそれは全て拙者の予想が合ってればの話だ。
「ガーベラ。少し進むよ」
ガーベラへ視線を送る。
拙者の言葉にゆっくりと頷く。
ガーベラをだき抱え、木々の影から飛び出す。
同重の効果が作用している間に真っ白な木まで走る。
…40、…30、…20
真っ白な木まで残り10メートル。
よし大丈夫だ。そう確信した時だ。
気がつくと拙者の右手に矢が刺さっていた。
矢を目にした直後、拙者は膝から崩れ落ち身体の中から湧き上がる何かを勢いよく吐いた。
吐くものを左手で抑えつけるもそれは溢れ出る。
左手に付着したそれは赤黒い液体だった。
あと少し先にある真っ白な木に視線を移すとそこに木はもう無く。ガーベラが見たと言っていたぐるぐるに変わっていた。
ぐるぐるを目にした同時に周囲から一斉に拙者とガーベラへ殺気が向く。
「…マジかよ」
赤黒い液体と荒い息を吐きつつ実感した最悪な状況。
見なくても分かる周囲に奴らがいることを。
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