第27話 できる兵はもしもを想定する
目録とガーベラが屋敷を出発してから数分後、俺こと石竹律から連絡を受けたリーンたちは屋敷に到着していた。
「半日ぶりだな。律」
そう言いながら乗って来た車から降りるリーン。
「それで奴らはどこに?」
リーンは、屋敷の前で待っていた石竹のほうへと歩み寄り本題を切り出す。
彼にとって、逃した獲物がいると言うことは好奇なことであり加えて、それを連絡したのが俺なのだから。
兵士としての顔を向けながらもその奥には任務達成に対した喜びが見える。
元々リーンと同じく部隊に所属していたためか彼の感情を見抜くのは造作も無かった。
俺の視線がふと、リーンの右手に向く。
下ろされている彼の右手は拳を作っていながらも、拳の親指が人差し指を
高揚
リーンは、彼らを捕らえられることに高揚感を持っていた。
「それなんだが…」
白衣のポケットからタバコの入った箱を取り出す。箱の中から一本のタバコ口にしライターで火をつける。
俺は旧友の高揚感を見捨てるように
「逃げられた」
タバコの煙とともにその解答を吐いた。
「どういうことだ?」
俺の言葉にリーンは眉を歪ませる。摩ってた親指もピタリと止まっていた。
「通話が聞かれたのか?気づいたら屋敷からいなくなってた」
俺がリーンに言ったことは、目録がそう答えくれと言ったことだ。
意図して逃したことがバレれば俺も命も政府から何らかの処分を受けるだろうと予測した彼からの提案だった。
「そうか」
リーンの口から一息漏れる。
目録が逃げたことで彼らの捜査は振り出しに戻る。
後は彼らが目的を達成できることを願おう。そう思って矢先だった。予想していなかったことがリーンから伝えられた。
プルルル、プルルル、
どこからか電子音が聞こえてきた。
電子音に気づいたリーンがポケットから取り出したスマホを耳にあてた。
スマホに対して数回相槌を打った後、
「ああ、良くやった。すぐに向かう。それまで監視を続けてくれ」
通話相手にそう答え、耳から離したスマホの通話状態を切った。
良くやった?監視の継続?通話相手にそう対応するリーン。
リーンの下ろしている手に注目すると拳の親指がまた左右に動いていた。
動作していたその拳を目にして俺は、まさかとある事を察した。
「何かあったのか?」
察したことでは無いこととを願いつつ、俺はリーンに何があったのかを聞いた。
「噂をすればなんとやら。獲物が見つかったみたいでね」
耳を疑った。
彼の言葉に俺の表情が、一瞬強張れる。関係無いことを装いつつもこの一瞬でおそらくリーンは気づいたであろう。
踵を返しリーンは、再び車に乗り込んだ。
車の窓越しで耳には聞こえなかったが、出せと言うリーンの指示を受けた車が、瞬く間に屋敷から去って行く。
車は森のほうへと走っていった。
おそらくリーンは、ここに来る前に事前に別の部隊を森に向けていたようだ。そしてその部隊が目録くんたちを捕捉及び何らかの形で優勢状態にあるとみた。
医師という中立の立場から介入できないことへの苛立ちが心の中にあった。
車の姿を消えてあと俺は、屋敷の中へと戻っていた。
屋敷に入った直後だった。
プルルル、プルルル、
カウンターに置いてある固定電話が待っていたかと言わんばかりに鳴り出した。
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