第26話 目の前で
『目的地に到着しました』
バイクに付けられている機械から音声が鳴る。
目的地に着いたことで、拙者とガーベラを繋いでいたベルトが外れる。
バイクから降りた拙者は、後ろに乗っているガーベラを抱え下ろした。
バイクを背にし振り返る。
拙者たちの前に広がる木々。木々の隙間から薄らと見える白い靄。
ガーベラと初めて出会った場所。灰色の森。
「ガーベラ、声は聞こえる?」
この子の頭に語りかけてくるという声。この森に着いてから何か変化があったかをガーベラに聞く。
「うん、聞こえる。森の奥に行けって」
「分かった。急ごうガーベラ!」
「うん!」
拙者の声に頷きを見せるガーベラ。
そしてガーベラの案内の元、拙者たちは森の中へ再び足を踏み入れた。
森の中を灰色の空が覆っており、白い霧が視界を鈍らせる。が、先行するガーベラは迷わず森を中を進んで行き、この子の跡を拙者が追う。
拙者たちが、なぜこんなにも急いでいるのかというと。出発する前に石竹さんに伝えられてたことが原因だ。
____________
少し前、屋敷前にて。
「目録くん。伝えなければならないことがある」
バイクに跨っている拙者へ視線を向ける石竹さんの口から出る言葉は、青色の靄を纏っている。
「俺はこれから君の言うヤツラと連絡を取る」
石竹さんから発せられたその言葉に拙者は、耳を疑った。
「どう言うつもりですか?」
心の中から込み上げてくる怒りを抑えつつ、冷静になりながら、その行動への解答を求める。
「俺は君らと会う前、ヤツラの拠点でヤツラの治療していた」
「仲間だからですか?」
「…違う」
拙者の言葉に首を横に振り、石竹さんはそれを否定する。
「俺はただ…1人の医者として誰かだけにはなれない」
「だからこの事をヤツラに伝える」
「そうですか。だったら拙者はそれを阻止しなければなりません」
バイクのハンドルを握ってなければならない手が腰に刺してある刀に伸びる。
「俺のことを殺してくれても構わない。ただこれは命のためでもある」
「もし伝えることをせず君たちの痕跡が見つかれば、俺も彼女もどうなるか分からない」
手にかける刀を目にしながらも石竹さんは、続けた。
この世界を知らない拙者たちにとってヤツラを敵に回すのは別に気にすることでもないが、彼らは違う。
彼らの選択は、この世界で生きていく上で重要なことだ。
「…分かりました」
刀に伸びしていた手を引っ込め再びハンドルを握り直す。
「そこでだ…」
石竹さんが、ある提案を出した。
____________
「ガーベラ。あとどれくらいだ」
「もう少し」
森の中を駆け抜けて、数分が経過していた。
霧によって不鮮明な森を右に左にと動いて行く。
(君たちが今、屋敷にいると伝える)
石竹さんが、少しでも時間を稼げるよう提案してくれたこと。
今現在拙者たちは、屋敷にいるという扱いにすること。
ヤツラを拠点から屋敷へまっすぐ向かわせることで、森にいる自分たちへの注意を逸らす。
それでも時間は限られる。
拙者は、ガーベラが聞く声のほうへと急ぐ。
「見えた」
先行しているガーベラがそう言う。
バン‼︎
耳にしたく無かった鈍く重たい音が、耳を響かせる。
目の前を走るガーベラが、その場に崩れ落ちる。
突如として目に映る現実。ガーベラの足から赤黒い液体が凄い速さで辺りの枯れ木や枯れ葉を染めて行く。
「ガーベラ!」
少女を呼ぶ拙者の声が森の中で響き渡る。
「一発の…丸。ター……ットへの…弾を確認」
遠くのほうで男がそう言っているのが、聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます